青年と親友



少年は悶えることになる。


少年にとっての人生は食事だった。

好きな食べ物を食べ、嫌いな食べ物に挑戦する。

食事とはまるで人生だと少年は思っていた。


魂を頂く食事はまるで人生だ。

何かを無駄にするのもまた人生。

少年は純粋に人生を楽しんでいた。



ある時、プツリと音がし、少年は倒れた。

それは確か夏の日。

真っ白な男が目に入ったところまでは覚えている。

しかし食事を思い出せない。

いつもこだわっているのに。大好きなのに。

自分が何を食べたのか。自分が何を好んでいたのかを思い出せない。




「…!気がついた!?よかった…!」


少年がベッドから体を起こすと、目の前には大好きな親友が。

彼のやつれた姿を見るに、自分が起きるまで飲まず食わずでずっと側にいてくれたんだと理解できた。

「…ねえ…僕、ご飯いつ食べたっけ…?」

そう訪ねると、親友は目を見開き、少年を力強く抱き締めた。


「…?なんで抱き締めるの?」

「……知らなくていい、お前は何も知らなくていい」


少年は疑問に思った。

辺りを見渡すと、少年の部屋は前居た時より整頓されてて、消毒液の匂いが


「……なんできれいになってるの」

「……落ち着いて、聞いて、いいね」


親友によると、少年が眠っている間、白い男による誘拐事件が頻繁に起きていた。

そんな恐ろしい誘拐事件が起きている今、少年と数日連絡が取れない事に怯えた親友は少年の家へ向かった。


すると、少年の家からとある男が出てきた。

赤の絞り染めのような柄のスーツを着た男が大きな袋を持って出てきた、と。


見覚えのある顔だと思ったが、親友は見知らぬ男より自分の親友の安否の方が大事だと思い、男の事など気にもとめず家の中へ入ったらしい。


すると、何故か消毒液の匂いが充満していて困惑した、と。

そして察した。

あのスーツの模様は模様じゃないのでは、と。


元々、あのスーツは…白色だったのではないか、と。


あの男は、まさか…あの男が何故自分の親友の家に…



親友の言葉で記憶が甦った

自分が何をしていたか

親友が自分を抱き締めた理由を

ご飯のことを思い出せない理由を



「!!!!!」



頭に浮かぶは血の海 人骨 複数の人間の匂い

そして髪を撫でる白い男

消毒液の匂い そして そして整頓されてる理由

どこか歓喜していた自分

恍惚している自分

忘れさせてくれと頼む自分

微笑む白い男と自分

額にキスされ喜んでいた自分

ブラウン管 モザイク 真っ黒な中に浮かぶ少女

犠牲者という単語

それを見てる自分

全部見てる自分

彼らを食した自分

これも人生だと笑う白い男と自分

白い服がどろどろに汚れてる

血の海へ躊躇わず進む白い男

飛び散る赤は彼らの未来を穢した




少年は発狂した。

親友は泣きながら少年の背を撫でた。


「白い男が…白い男……!あたま、なでられて…!ひと…たべさせられ…ッ…ごめ……ッごめんなさ……ッ!!」

泣きながら謝る少年の背を撫で、親友は目を見開いてからこう言った。


「僕が全部やる。僕が全部責任を取る。あの白い男が全部悪いんだ。僕が見つけ出してそいつのことぶっ殺してやる。僕が殺してお前の事を幸せにしてやる。」


そう呟く親友へすがり付く少年。

そんなことしないでくれ。僕のために人生を無駄にするな、と大泣きする少年。

親友はそんな姿を見て涙を流した。


二人は共に生きようと決意した。

これ以上犠牲者を増やさないように。

これ以上お互いが苦しまないように。






一年後。


少年は青年へと成長し、尊敬している人が死んだ。

死んだと聞いただけで本当は死んでいないかもしれない。

詳細を知る存在は誰も居ない上に、死体が見つかっていない。

なのに何故死んだ事が分かったか、それは予言者のおかげだった。


死んだ人間はベーシストだった。

しかし大怪我を負った人間達は…ギタリストな上にどこか傲慢だった。

だが、青年が尊敬している人間はベーシストで、傲慢という単語を誰よりも嫌っていた。

ギタリスト殺しが狙っている人間達の特徴とは全く一致していない。

だから皆安心していた。

人間の友達が二人とも大怪我を負っているのに、安心していた。


青年は恐怖した。

自分が意識していないうちに食べてしまったのではないかと。

骨さえ残さずに全部食べ尽くしてしまったのではないかと。

花束を抱え大泣きしている花の人間に、大怪我を負った仲間達。

皆口を揃えてこう言った。

「白い男の仕業だ」と。


青年は怯えた。


憶測で話してはいけないと頭で理解していながらも、


青年には謝ることしかできなかった。



「ごめんなさい…僕が……僕が隠れ家に来なきゃ……」


青年の謝罪は、雨の音で掻き消された。


唯一謝罪が耳に届いていた親友だけが、青年の支えだった。

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