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 僕は勇者の末裔なんだ。その誇りだけは決して忘れないっ!


 これくらいのことで負けてたまるか! ご先祖様みたいな大きな力はまだないけど、いつかきっと強くなってみせる。


「負けるもんかぁあああああああぁーっ!」


 気が付くと僕はカッと目を見開いて叫んでいた。その声はフロア中に響き渡ってこだまする。


 すると次の瞬間、鎧の騎士は見えない結界にでもぶつかったかのように動きが鈍るが完全に沈黙するというところまでは至らない。僕の力不足なのか、それとも鎧の騎士の意思が強いのか。


「う……ぐ……」


 僕にはもはや立っていられるだけの力は残されていなかった。その場にうつ伏せに倒れ込み、鎧の騎士がゆっくりながらもこちらへ歩み寄ってくる足音と振動を感じている。




 ……いや、まだだ……まだ僕は終わらないぞ……。


 奥歯を強く噛みしめ、なんとか起き上がろうと藻掻く。もう僕の体には一滴の力も残っていないかもしれない。乾いた雑巾を絞って力をひねり出すようなものかもしれない。


 だけどわずかでも力が残っているなら、その可能性があるなら、それを出し切るまでは絶対に諦めない。諦めたくないッ!


「――アレス、よくがんばったな。あとは私に任せるがよい」


 その時、僕の横に立ったのはミューリエだった。なんとか力を振り絞ってチラリと視線を向けると、彼女は満足げで晴れやかな笑顔。さわやかで温かな雰囲気が溢れだしている。


 直後、ミューリエは剣を抜いて構えると、勇ましい表情になって鎧の騎士へ向かって駆け出す。



 →5へ

https://kakuyomu.jp/works/16817139556074419647/episodes/16817139556074912770

 

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