第51話

 バーンズ伯爵夫妻に挨拶したルグラン侯爵夫人は、夫妻の隣にいるアデレードとウィリアムに目を向ける。


 夫人と目が合ったアデレードとウィリアムは自己紹介する。


「ルグラン侯爵夫人。バーンズ伯爵家が長女、アデレードでございます。今日はお母様の友人が訪ねてくるということをお聞きして楽しみにしておりました」


「僕はバーンズ伯爵家が長男、ウィリアムと申します。よろしくお願い致します」


「前回ここを訪ねた時はあんなに小さい子供だったのに、すっかり素敵に成長されましたわね。前回訪問したと言っても私のことを覚えておられないと思うから、今日が初めましてみたいなものですわね。私はカトリーヌ・ルグランと言います。アイリスの友人だから、あまり気を張らなくても構いませんわ。ローラン、あなたもご挨拶を」


「初めまして、バーンズ伯爵家の皆様方。只今、母より紹介に預かりましたルグラン侯爵家が長男、ローランと申します。よろしくお願い致します」



 ローランは淡い金髪に紫陽花のような青紫色のグラデーションががった瞳の美青年だ。


 男性ではあるが、美人という表現がよく似合う。


 淡い金髪は左側で緩く結わえられており、薄い唇の右端に黒子があってそこはかとなく色気を感じさせる。

 


 ローランが何もしなくてもその美しいかんばせに微笑みをのせて話す姿にアデレードは思わず見とれてしまっていた。


「こら、アデレード。いくらローラン様が素敵でも見とれない。御免なさいね、娘が失礼致しました」


 アデレードはバーンズ伯爵夫人から窘められてしまった。


(うっ……だって正直ローラン様のお顔が物凄く好みと一致したのですもの。それに彼を見ていると昔、一緒に遊んだあの子を思い出すわ)


 アデレードは子供の頃、バーンズ伯爵邸で当時のアデレードと同じ年頃の少女と一緒に仲良く遊んだ記憶がある。


 バーンズ伯爵邸の庭園で四葉のクローバーを探したり、シロツメクサの花冠を作ってお互いの頭に飾った記憶だ。


 アデレードはその時見つけた四葉のクローバーを押し花に加工した後、本の栞にして今でも大切に使っている。


 (あの子の名前はもう覚えていないけれど、確かあの子も淡い金髪に青い瞳だったわね。今、どうしているのかな?)



「バーンズ伯爵夫人、私は不快に思っていないのでお気になさらないで下さい。それにそれを言うなら私もアデレード嬢に見とれてしまいましたよ。あの頃も天使のように可愛かったけれど、今はすっかり素敵なお嬢さんですね。私の方が気後れしてしまいそうです」


 ローランが眩しそうにアデレードを見つめながら告げる。


 ローランが過去にアデレードに会ったことがあるかのような言葉が混ざっていたけれど、アデレードは少女との思い出を回想していたので、聞き逃していた。


「ローラン様が気にしていないと仰られるなら私から言うことはございません。早速ですが、私はカトリーヌとお茶会をします。なので、アデレードとウィリアムはローラン様に庭園の案内をお願いね」


「わかりましたわ、お母様。私達のことは気にせず、ゆっくりお過ごし下さい。では、ルグラン侯爵夫人。私達はこれで失礼致します。ローラン様は私とウィリアムについて来て下さいませ」


「アデレード嬢、ウィリアム様。うちのローランのことをよろしくお願いします。ローラン、ちょっといいかしら?」


 ルグラン侯爵夫人がローランをバーンズ伯爵一家のいる場所から少し離れた場所に連れて行き、耳に顔を近づけひそひそ話をする。


 ルグラン侯爵夫人は厳しい顔で何かを言い、それに対し、ローランは嫌そうな表情をしていた。



 話の内容はバーンズ伯爵家の面々には聞こえてこなかったが、バーンズ伯爵夫人だけは話の内容を察して少しだけニヤニヤしていた。


 話を終えて二人が戻って来たので、バーンズ伯爵夫人とルグラン侯爵夫人は屋敷の中のサロンでお茶会、アデレードとウィリアムはローランを連れて庭園案内へと別れた。

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