翁草の動揺
我に返った時には全てが遅かった。こんな気障な事を全くやった事がないわけではなかったが、キスすら最後にしたのさえざっと数十年前で、すぐ思い出せない程だ。そもそも進んでしたい行為ではない。彼女に可愛いだとか愛しいだとか、そんな感情を抱くのは常であるが、行動に出した事はなかった。
瞳が星空のように輝いていたから、スカートが風で揺れていたから、近所で飼われている犬が庭に迷い込んだのを子供のようにはしゃぐから……。
言い訳と名付けた素直な感想はいくつも思いついたけれど、どれも兄の孫娘へと贈るにはあまりに不釣り合いで口には出せなかった。……今切実に、何か言ってほしい。すぐにでも悲鳴を上げるか脱兎の如く逃げるかと思いきや、首まで真っ赤に染め上げて立ち竦むのだから、現行犯の篝火も所在無く杖を弄る事しか出来なくなってしまった。
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