第14話 討伐
少し森の中に入り、直径1m程の木を的にアイスランスとアイスジャベリンを見せる事にした。
ホランも仲間の面々も興味津々で見ている。
横に離れてもらい、30m程の距離からアイスランスを撃ち込む。
〈ドスン〉と鈍い音がして1.6m程のアイスランスが半分ほど突き立って止まる。 連続して三本のアイスランスを突き立て、次いでアイスジャベリンを同じ場所に撃ち込む。
〈バキーン〉と木の裂ける音と共に、幹をアイスジャベリンが突き抜ける。
此れも三本撃って止めフラン達を見ると、ポカンと口を開けて的の木を見ている。
「なんとも凄まじいな。最初の三本だけでも凄かったのに、後の奴は桁違いだ。まるで攻城兵器だぞ」
「此れほどの魔法使いがいたなんてな」
「貴族や王家が高額で雇ってくれるぜ」
「いやはや、目の前に証拠が有るのに信じられない」
「あれから知り合いと話したのだが、何故ゴブリンキラーって呼ばれているんだ?」
「ヨールの街のギルマスがそう言い出したんだ。人にゴブリン討伐を頼んでおいて、ゴブリンの魔石をたっぷり集めて帰ったら、そう抜かしやがった」
「良いだろう。ハルトがアーマーバッファロー討伐を受けるのなら、俺達は手伝うぞ」
「侯爵様と相談して後数人、集められたら受けようと思うので暫く待ってくれ」
* * * * * * *
コーエン侯爵様には、モーラさん経由で条件付きで受けると伝えて貰った。
その条件とは此方の望む能力を持つ土魔法使いを1~2名とマジックポーチ持ちを一人。
俺の指示に従う事を条件として伝えた。
返答は三日後に来たが侯爵邸に出向き、土魔法使いの能力は此方の求めるものにはほど遠かった。
「無理かね」
「予定している冒険者達が納得すれば、受けても宜しいです。侯爵様が討伐依頼を出したのはアーマーバッファロー1頭の排除ですよね」
「そうだが何か」
「調べた限りでは、アーマーバッファローは5頭前後の群れで行動するそうです。1頭でも危険極まりないのに複数頭を相手となると難易度危険度は格段に跳ね上がります。つまり私の護衛につく者達の危険度も跳ね上がります」
「条件は」
「アーマーバッファロー討伐依頼の報酬は金貨10枚でしたね。それ以外に私を護衛する者達に報酬を約束して下さい。私が依頼を完遂出来なくても、護衛をしてくれる者達には報酬を約束して下さい。私は成功すればアーマーバッファローを売った莫大な金が手に入ります。失敗すればただ働きで結構です」
話し合いの結果、変則依頼の為、冒険者ギルドに出した依頼を取り下げる。
俺は依頼完了で討伐した獲物は全て貰えることに決まった。
俺を護衛してくれる六人〔金色の牙〕に、一人一日銀貨2枚を最長20日間支払うこと。
侯爵様はマジックポーチ持参の見届け人を一人、俺達に付けること。
アーマーバッファローを討伐出来たら、代金の1/3を〔金色の牙〕が受け取る事を条件で合意した。
その条件をホラン以下の、金色の牙メンバーに伝えると此方も応じたので出発準備を始めた。
* * * * * * *
バガンとシンシラ間の街道で、アーマーバッファローをよく見掛けると言われる場所に到着して、荷馬車に積んだ茨の木を使って拠点となるベースキャンプを作る。
アーマーバッファローには通用しないが、ウルフ程度なら十分だ。
後は〔金色の牙〕のメンバーが交代で街道を行き来して、アーマーバッファローを探す。
俺はその間ハイゴブリンの刺身を食べながら、魔法防御と攻撃の練習に励む。
最近、漸くゴブリンの心臓半分量の、ハイゴブリンの心臓を食っても熱暴走に耐えられる様になった。
ハイゴブリンの心臓が、残り一個少々になってしまったのが心細い。
ゴブリンの心臓でも魔法は使えるので問題ないが、魔力補給は多いに越した事はない。
四日目に、アーマーバッファローが居着いている場所を特定したと連絡が来た。
街道から藪を挟んだ小さな窪地で、寛いでいるアーマーバッファローを確認して討伐準備に掛かる。
足場の良い街道を中心に闘うつもりなので、道の前後を封鎖して通行人に被害が出ない様にしなければならない。
街道封鎖は二騎ずつに別れて残り二騎の一人、ホランさんの後ろに乗せて貰い予定地に向かう。
「負けるなよ」
一言残してホランさんが離れていく、もう一人と見届け人が反対方向に十分離れた事を確認したら、戦闘開始だ。
街道とアーマーバッファローの潜む間に、ちょっとした皿状の窪地を見つけて作戦変更。
藪の向こうのアーマーバッファローの位置を確認した後、窪地に戻ってバレーボール大の氷球を放物線を描く様に最大射程で打ち出す。
三発、また三発と間隔を開けながら、アーマーバッファローの潜む場所に向けて氷球を撃ち込むと、藪が揺れてアーマーバッファローが姿を現した。
現れた三頭は俺を見ても悠然としていて、襲って来る様子が無いので挑発の為に直接当たる様な角度でアイスランス撃ち出してみる。
先頭の一番巨体のアーマーバッファローの額を狙い、最速のアイスランスを撃ち込んだが弾かれた。
やっぱりな、着弾面に直角に当てなければ無理そうだし、もし当たってもどの程度傷付けられるか疑問だ。
額に衝撃を受けた奴が、鼻息荒く前足で地面を二度三度引っ掻いている。
オイオイ、それって漫画やアニメでよく見た仕草だぞ。
少し頭を下げたかと思うと、そのまま突進が始まった。
急いで奴の前に氷の防壁を築き、耐えられるのか試したがあっさりぶち抜かれ迫ってくる。
だがいきなり突進が止まった。
〈チッ〉豚や猪並みに素早い動きが出来る様で、俺と奴の間に有る直径20m程の皿状の窪地に気づきやがった。
なだらかなだが深めの皿状の窪地は、対アーマーバッファロー用の防壁に使えると思ったが、奴も頭が良さそうだ。
〈フン〉と鼻息を一つ出し、悠然と窪地の縁を歩く奴の横っ腹にアイスジャベリンを撃ち込んだ。
多少傷をつけてよろめいたがそれだけで、俺も窪地の縁を歩いて奴と距離をとる。
参ったねぇ土魔法使いが居れば、避難用の蛸壺でも作って貰い避難できたのにな。
仕方がないのでプランB、出たとこ任せのオンライン、BGMはワルキューレの騎行を脳内再生するか。
見物人がいなけりゃ脳死か心臓凍結でイチコロなんだけど、奥の手は見せたくないので、正攻法で倒すしか無いのが辛い。
残りの二頭が悠然と歩いて来ているので、先ず目の前の一頭を片付ける事にした。
お互い窪地の縁を回っているので横顔を見せている、アイスアローの連続攻撃で目を狙う。
太さ3cm長さ60cm程のアイスアローは、正面から見たらピンポン球より小さい。
機関銃並みの連続攻撃で目を狙い、当たらずとも目の周辺の攻撃に嫌がり首を振る。
その拍子に耳に一発まぐれ当たりが出た様で、悠然たる態度が消えた。
鼻息荒く窪地を挟んで向かい合うと、そのまま窪地に足を踏み入れて駆け上がってこようとする。
そのタイミングで心臓をちょっと冷やしてやると、よろめいたので足下に氷の障害物を作る。
簡単に足を取られて、前のめりに倒れた所を額にアイスジャベリンを撃ち込む。
流石は岩に突撃をすると言われる、アーマーバッファローの石頭で傷は付いたが死にはしない。
脳震盪を起こしたのかふらふらと立ち上がった所を、足払い代わりに右足の下を凍らせると、斜面なので見事に滑って横転した。
後は簡単だ、横倒しになっている奴の下顎から脳天に向けてアイスランスを撃ち込んで終わり。
残りの二頭が近くに来ているので急いで反対側に回り様子をみる。
窪地に横たわる仲間を見た二頭が〈ブモオーォォォ〉〈ブシャーアァァァ〉と雄叫びを上げる。
本格的に怒らせた様だが、討伐に来た俺には好都合。
二頭に心臓マッサージならぬ、心臓内にピンポン球程の氷の玉をイメージして血を凍らせる。
一瞬の間をおき、よろめく二頭の足下を凍らせると簡単に滑って転んだ。
一頭目は少し考えたが2頭目ともなると簡単だ、下腹から心臓に向けて一発アイスランスを撃ち込むと即死。
三頭目も直ぐに片付いたが暫く放置する事に、残りのアーマーバッファローの様子を見に行く。
雌1頭に若牛と仔牛、若牛と雌牛は倒した雄より二回りは小さい感じで。仔うしは雌牛より一回り小さい。
少し考えて氷球を撃ち込み向かって来れば殺す、逃げるなら放置と決めて氷球を撃ち込む。
街道の通行を脅かすアーマーバッファロー排除が目的で、皆殺しは請け負っていない。
他の冒険者の稼ぎまで横取りするつもりもない。
氷球を撃ち込むと雄牛の運命を悟ったのか、一声泣いて背を向けたので放置する。
暫く待ち冷えた心臓も元に戻った頃だと思い、避難していたホラン達を呼び戻す。
「まったく一人でアーマーバッファロー討伐なんて、俺達は必要無いだろう」
「なにを言ってるんですか。途中で出会ったプレイリーウルフやブラックウルフの群れなんて、俺一人じゃ対処出来ませんよ。一人の時は奴等に出会ったら木の上に避難してるんですよ」
「だからと言って、アーマーバッファローを三頭も纏めて討伐するかね」
「しかも、大した傷も与えずに時間もさして掛からずにだよ」
「俺も、見たかったぜ」
さっきまでは俺の指示に仏頂面で従っていた侯爵様派遣の見届け人が、強ばった顔で三頭のアーマーバッファローをマジックポーチに入れている。
戻って来た街道封鎖係りの荷馬車に乗り、帰路につく。
馬に乗れるのは羨ましいと思ったが、ホランさんの後ろに乗せて貰って判ったが馬車より尻が痛い。
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