ゴブリンキラー・魔物を喰らう者
暇野無学
第1話 転生
二度目の人生、目覚めた時には瀕死の状態で、現世の姉の献身的な介護がなければ死んでいただろう。
俺の名はハルト、竜人族1、人族15・の所謂1/16で日本では馴染みの薄い、ワンシクスティーンスと呼ばれる。
ご先祖様 → 1/2・1/4・1/8(1/16・俺)とご先祖様に竜人族と結ばれた者がいるのだ。
本来なら竜人族の能力は出ない筈なのだが、俺は隔世遺伝で多少だが竜人族の力を持つ。
本当に力だけで、サイコパスの次男より力が強い為に、やられたら反撃して何とか生き延びた。
生き延びたのが幸運だったのかと問われれば、微妙だ。
俺は日本で病死したが、結果として此の世界の新生児に転生した筈だった。
それは目覚めてハルトに憑依し、ハルトの記憶をビデオか本で読む様に知り得てそう結論づけた。
病弱だった俺は、本とユーチューブにネットサーフィンが全ての生活だったが、20才の時にインフルエンザを患い僅か三日でコロリと死んだ。
意識はあるが身体の力が抜けていき、ベッドに付き添う母の顔が段々とぼやけていくのを見ながら死を悟った。
目覚めた時には、見知らぬ人が看病してくれていたが部屋の造りも衣服もなにもかもが日本と違った。
極めつけは髪の色と瞳の色で、アニメかラノベでしか見る事の無い瞳の色。
真紅の瞳に濃い緑の髪は、ファンタジーワールドでしか存在しない配色だ。
始めはウイッグ?カラコンと疑ったが、クリーンの生活魔法で怪我をして動けない俺を綺麗にしてくれたので、リアルワールドだと理解した。
理解するまでは、自分の意識とハルトの意識が重なり合い、二重人格を疑ったり夢にしてはリアル過ぎると頬をつねったりと、色々大変だった。
身体が治る頃には理不尽だが、この時代遅れで魔法の存在する世界で生きて行かなければならないと覚悟を決めた。
* * * * * * *
今世の人生はいきなりハードモードで、実の兄から何度も殺されそうになったのだが、それを訴えても誰も信じてくれなかった。
何せ立ち回りの上手い奴で人当たりが抜群に良いが、人を傷付ける事に喜びを見いだしている奴だった。
前世ならサイコパスか偏執狂、殺人鬼といったところか。
口が達者で人当たりは抜群に良いが、これと狙った奴を猫が鼠を嬲る様にじわじわと虐め、怪我をしようが死のうが気にしないタイプ。
その為に俺が目覚める迄にハルトは何度も死にかけている。
俺が此の身体に転生する羽目になったのも、ハルトが死にかけていたからだと思っている。
つまり俺が憑依する前のハルトは僅かな間だが死んだ筈だ。
奴、キリトもハルトを殺したと笑っていたが、生き返ったのでビックリしていた。
ハルトの記憶からキリトの性格を知り、隙を見せない様に生きて来た。
しかし奴の性格とハルトが以前に色々と訴えたせいで、俺ハルトは嘘つきで乱暴者の烙印を押されていた。
ハルトがキリトより優れていたのが、1/16の竜人族の血だ。
兄弟4人同じ血が流れている筈なのに、ハルトだけは力が強かった。
先祖返りだろうと言われていて、その為腕力では5才半年上で次兄のキリトに決して負けなかった。
しかし、狡猾で一瞬の隙を狙って川に突き落とされたり、荷物の下敷きになる様に仕向けられたりとハルトの人生は散々だった。
俺が憑依してから人が変わった様だと言われたので、俺を警戒して余り攻撃してこなくなった。
俺が両親から、成人したら出て行けと言われているせいもあるのだろう。
家は古着屋で長兄のアルトが跡取りで、次兄のキリトは人当たりの良さから従業員の座を確保していて、姉のヘレナはそのうち結婚して家を出て行くだろう。
どのみち俺は三男坊で穀潰しの厄介者なので、何れ家を放り出される事に変わりはない。
目覚めて以後、姉のヘレナが死に損ねたショックで俺が生活魔法すら忘れていると思い、一から手ほどきをしてくれた。
しかし、姉のセレナがカップ一杯の水を出せるのに対して、俺はその半分しか出せない。
フレイムも、爪に火を点すと表現する様なフレイムしか出せず、ライトも姉が100ワットの部屋の灯りなら、俺は便所の40ワット以下の薄暗い灯りだった。
此の貧しい世界で冒険者になる覚悟を決めた時、生活魔法が使えるのなら魔法を授かるチャンスが有る。
その為に魔力操作の練習をしておく事にした。
ラノベやアニメの知識から魔力操作の基本、魔力溜りを探したが見つからない。
いくら探してもそれらしきものが見つからない。
姉のヘレナに尋ねてみると、魔力溜りとは魔法がそれなりに使える者でないと感知出来ないらしい、と教えてくれた
因みにヘレナは火魔法を授かっていたが、魔力が30なので魔法が使えない。
次兄のキリトは生活魔法すら使えないし、長兄のアルトは風魔法と雷撃魔法を授かったが魔力は20だ。
我が家は、魔法に関する能力に期待は持てないって事らしい。
* * * * * * *
目覚めてから2年半生活魔法もヘレナの半分以下、魔力操作など出来るはずもなく、諦め気味に授けの儀を受けに教会に向かった。
授けの儀に望む喜捨は銀貨1枚、両親は渋々出してくれた。
曲がりなりにも生活魔法は使えるのだから、授かる魔法次第では家の役に立つかも知れないし、奉公や出世の糸口にもなる。
生活魔法が使える子の親は、どんなに貧しくても授けの儀だけは子供に受けさせる。
火魔法・風魔法・水魔法・転移魔法・・・皆それぞれに魔法を授かり魔力も40~90と判りそれなりに有り、嬉しそうに家路についている。
俺は名を呼ばれて、創造神ラーラ様の像に祈りを捧げる。
これ程真剣に祈りを捧げたのは初めてだったが、結果は無残なものだった。
「ハルト、空間収納に氷結魔法だな。魔力は・・・10」
順番待ちをしている者やその保護者から失笑が漏れる。
〈空間収納って、使えるなら一生食いっぱぐれのないのになぁ。魔力10ってなによ、ラーラ様も酷い事をするねぇ〉
〈俺が欲しかった空間収納を授かりながら、魔力が10って〉
〈俺が欲しかったって、お前歳幾つよ〉
生活魔法がヘレナの半分だと判った時から、覚悟していたがやはりがっかりだ。
これで、冒険者生活は腕力勝負と決まった。
まっ、あの時からこんな事も有ろうかと、ユーチューブで見た剣道や槍の真似事だが日々訓練をしてきた。
後一年、其れ迄に何とかゴブリン程度は楽に倒せる様になりたいものだ。
前世が病弱だったので、どの程度の訓練をすれば闘えるのか皆目見当がつかないが、やるしか生きる方法がない。
そんな事を考えながら家に帰ると両親揃って待っていた、期待の籠もった目を向けられるが、それには応えられない。
「魔力10だって」
この一言の破壊力たるや、あからさまにがっかりする両親と嬉しそうなキリト。
まぁ、この兄弟で魔力の一番多いヘレナですら30、長兄のアルトが20で俺が10にキリトが0ってなんだよ。
ラーラ様は遊んでいるんじゃなかろうな。
魔法はすっぱり諦めて、夕食後は裏庭で木剣を振り短槍に見立てた棒を杭に打ちつけ突き立てる。
* * * * * * *
16才になり冒険者登録を済ませて、家を出て行く時が来た。
両親からは冒険者用の服一式と着替えに、バッグとナイフとショートソード。
それに銀貨3枚と銅貨20枚・・・日本円換算で50,000程が渡された。
背負子にバッグを括り付けて背負う、ヘレナが心配そうにしているがキリトは嬉しそうである。
昨日の夜、久し振りに俺に近づいて来て〈さっさとゴブリンに食われて死ね!〉と囁いてくれた。
俺は〈今までの礼は必ずするから、待っていろ〉と、返事をしておいた。
* * * * * * *
前日冒険者ギルドで紹介された〔剣風の舞〕ってパーティーと今日ギルドで合流する事になっている。
両親に頭を下げ、心配そうなヘレナ姐さんに笑いかけて家を後にした。
冒険者ギルドで〔剣風の舞〕と合流して、薬草採取の基本から叩き込むと言われて街の外に出る。
皆態度が横柄で街の外に出た瞬間、リーダーのゴードが荷物を投げて寄越しすと、これから俺の荷物はお前が持てと言われた。
まぁ、それからは奴隷と変わらぬ生活が始まったが、冒険者としての知識が無い俺は最低限薬草の知識を得るまではと辛抱した。
街で使い走りや単発の仕事を請け負う事も可能だが、仕事の単価が安いし常時仕事が有る訳でも無い。
帰る家の無い俺では直ぐに金が尽きて死ぬ羽目になる。
今がどんなに辛くても、薬草採取や魔物討伐で食える様になる事が必要だった。
しかし薬草採取一つとっても、一本の薬草を俺に見せて〈探せ!〉と言って尻を蹴られた後は放置。
見るだけで手に取る事もさせずに、尻を蹴られて必死に思い出しながら探すが、見つけるのが遅いと殴る蹴るは当たり前。
集めた薬草は全て取り上げられるし、売った代金は鉄貨1枚貰えなかった。
食事も鉄貨1枚の一番小さく固いパンが1日2回、後は奴等の食い残しを投げられるだけだ。
初めて食い残しを投げられて、これがお前の飯だと言われた時に手を出さなかったら、見習いの癖に生意気だと殴る蹴るの集団リンチを受けた。
街に帰れば逃げようと決めたが、奴等は食料が尽きるまで街に帰ろうとしない。
薬草が集まれば一人二人が街に戻り、薬草を売って得た代金で食料を仕入れて帰ってくる。
俺が逃げられない様にしているのは明らかだが、ショートソードもナイフも取り上げられているので、一人で草原を彷徨うのは危険すぎた。
全員が街に戻る時は俺は着の身着のままの状態で、金はとっくに取り上げられていて一文無しでどうにもならなかった。
家を出る時に、2度と帰ってくるなと親に念押しされているし、キリトの顔も見たくなかった。
次ぎに奴の顔を見る時は、奴を殺す時だと誓っている。
毎日毎日必死で薬草の種類を覚え、ゴブリンの解体や魔石の取り出し等を蹴られ殴られながら少しずつ覚えていった。
しかし奴等の悪ふざけは度が過ぎた。
キリトと同じで、こちらが怪我をしようが死のうが気にしない奴等だった。
今まで死ななかったのは、俺が大怪我をしたり死ねば荷物持ちの奴隷がいなくなり困るからだったが、それも飽きたらしい。
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