遊び人はゲームスキルを現実で使って町を作る ~例えば市長の建築チートや隕石落とし。食べるだけで強くなる果物を無限増殖~
年中麦茶太郎
第1話 市長だから隕石を落とせます
生まれてすぐ、適性鑑定士に『遊び人』の素質があると鑑定されたらしい。
ゆえにキャロルは両親から、なにも期待されなかった。
どんなに家の仕事を手伝っても「本当は隠れて遊んでいるんだろう」と言われてしまう。
それどころか「遊ぶ金ほしさに盗んだんだろう」と身に覚えのないことで何度も叱られた。
キャロルは十歳で生まれ故郷の町を飛び出し、冒険者になった。
必死で魔法の練習をした。
しかし一向に上達しなかった。
なので、どこのパーティーにも入れてもらえない。
おまけに、適性職業を聞かれ『遊び人』だと馬鹿正直に話した結果、誰も関わりを持ってくれなくなった。
だからキャロルは十三歳で『幻想大陸』に向かう船に乗った。
幻想大陸は、モンスターが自然発生し続ける危険な場所だ。
いくら倒しても無限に湧き続ける。
それを放置すると、溢れ出したモンスターがほかの大陸に移動し、繁殖してしまう。
幻想大陸には古代文明の遺物が数多く眠っており、一つ見つけるだけで一生遊んで暮らせるようなものもあるらしい。
よって幻想大陸には精鋭たちが集まる。
人間だけではない。
吸血鬼。ドラゴン。フェンリル。鬼。ハイエルフ。ドワーフ。妖狐。精霊――。
恐るべき力を持った種族たちが集う土地。
それが幻想大陸。
キャロルは幻想大陸の冒険譚に憧れていた。そこに行けば、なにか変わるかも知れないと思った。
同時に、どうせ死ぬなら憧れの土地がいいという諦めもあった。
しかし船が大嵐に巻き込まれ、キャロルは海に投げ出されてしまった。
自分は幻想大陸に辿り着くことさえできないのか、と絶望しながら意識を失う。
そして夢を見た。
夢の中でキャロルは『テレビゲーム』というもので遊んでいた。
勇者になって、世界を救う旅をした。
配管工になって、亀の化物にさらわれたお姫様を助けに行った。
市長になって、町を発展させたり、飽きたら天変地異を起こして破壊したりした。
ほかにも色々なテレビゲームで遊びまくった。
人生で一番楽しい時間だった。
そしてキャロルは海岸で目を覚ます。
どうやら死なずに、陸地へ流れ着いたらしい。
「ぺっぺ……口の中が塩辛いし、砂だらけです……」
立ち上がると、ローブが海水を吸っていて、とても重かった。
愛用の杖と非常食を入れた鞄が見つからない。
海で溺死するのは避けられたが、これでは結局、いずれ死んでしまう。
「そもそも、ここはどこなんでしょう? 幻想大陸なんでしょうか……?」
幻想大陸で死ねるなら、まあいい。
けれど、名も知らぬ島は嫌だ。
キャロルがそんな悟ったようなことを考えていると、海岸近くの森から音がする。
そしてライオンの胴体にワシの頭と翼を持つモンスター、グリフォンが姿を見せた。
以前遭遇したグリフォンより凶悪な顔つきだ。
サイズも一回り大きい気がする。
「こ、これはもしかしてグリフォンの上位種、アークグリフォン……? 図鑑で見たことあります!」
アークグリフォンがいるというのはつまり、ここが幻想大陸である証拠。
「ひっ! やっぱり死にたくないです……ミニファイア! ミニファイア!」
キャロルは両手を突き出し、火の玉を連射する。
しかしキャロルの魔力は弱く、おまけに低級の魔法しか使えない。
いくら命中させても、まるで効かない。
(今までのモンスターなら、怯ませるくらいはできたのに……このままじゃ私、食べられちゃいます……!)
ふとキャロルは、夢で遊んだテレビゲームを思い出す。
勇者になって邪神を倒した。
市長になって地形を変えた。
それらの力があればグリフォンなんて簡単に倒せるのに。
(隕石……ここに隕石を落とすことができたら……)
キャロルがそう念じた瞬間、空から本当に隕石がアークグリフォンに落ちてきた。
凄まじい噴煙と突風が巻き起こり、キャロルはひっくり返る。
「ぎょえ!」
隕石は一つだけではなかった。
十数の隕石が流星群となって森に降り注ぐ。
連続して起きる爆発。揺れる大地。吹っ飛ぶキャロル。
「ぎょええええええ!?」
キャロルは衝撃波で海岸を転がりながら、脳内に謎の文字が浮かび上がるのを感じた。
『アークグリフォンを たおした!』『764の経験値を かくとく!』『121ゴールドを 手に入れた!』『キャロルは レベル6にあがった!』
『ダークスライムの群れを たおした!』『2150の経験値を かくとく! 320ゴールドを 手に入れた!』『キャロルは レベル8にあがった!』
『サイクロプスの群れを たおした!』『8150の経験値を かくとく!』『950ゴールドを 手に入れた!』『キャロルは レベル11にあがった!』
『モンスターの群れは アイテムを落としていった!』
『キャロルは アークグリフォンの肉 を手に入れた』
『キャロルは ダークスライムのグミ を手に入れた』
『キャロルは こんぼう を手に入れた』
――――――――――――――――――――――――
◇キャロル・ルーサー
レベル:11
HP:81
MP:39
物理攻撃:30
物理防御:12(+4)
魔法攻撃:11
魔法防御:15
素早さ:16
◇装備
防具:布のローブ
◇称号
『勇者』『市長』『村長』『配管工』『錬金術士』『闘争を求める渡鴉』『路上格闘家』
――――――――――――――――――――――――
起き上がって周りを見ると、さっきまで広がっていた森が消滅し、ひたすら荒野が広がっていた。
それから、勇者として旅したときに何度も見た『パラメーター』が目の前に表示されている。
「も、もしかして……夢の中で遊んだテレビゲームと同じことをできるようになってます……?」
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