「ねえ、賭け、してみない?」――――そう言って、頬を染める君は、夕陽に負けないくらいとても眩しかったんだ。
うさみち
第1話 君から僕への、甘い提案
「ねぇ、賭け、してみない?」
「賭け?」
「そう、賭け」
――1年3組、放課後の教室。
一学期の期末試験の追試に向けた自主学習をする僕ら。
夕陽を背に浴びながら、僕に賭けの提案をして、彼女は笑ってみせた。
少し跳ねたショートカットの髪の毛を耳にかけながら、イタズラっぽく、でも、少しはにかんで。
「いいけど、どんな賭けなの?」
「追試の点数で負けた人は、勝った人の言うこと全部聞かなきゃいけないの」
うう〜ん、と悩むフリをしながら、なんとなく教室を見渡す僕。教室内には既に僕らしか残っていないというのに、とんだ猿芝居だ。
なんだか、二つ返事でOKを出すのがこの上なく恥ずかしい。
だって、「喜んで!」とか食い気味で言ってみようものなら、願ってもない提案だっていう気持ちが丸出しになっちゃうだろ?
そんな僕の様子を、頬杖をつきながらニヤニヤ顔で見つめている彼女――
期末試験の少し前に、僕らの高校に途中編入してきた
可愛らしくて、愛嬌もある。
途中編入の理由も伏せられているあたり、ミステリアスな感じがして注目の的なんだ。
――実は僕は、彼女に片思いをしている。
透き通った白い肌に、
癖っ毛で少し跳ねた栗色のショートカット。
ストレートの眉に、
少し垂れ気味な大きな目。
目の下には、泣きぼくろ。
線の細い身体に、大きな黄色のリボンタイがよく目立つ。
見た目ももちろん好みだけれど、僕は何より、彼女の優しい性格が好きなんだ。
その証拠に、特に取り柄もない僕に優しく微笑んで話しかけてくれる。
――惚れないほうが、どうかしてる。
これが僕の名前。
名前も平凡、見た目も平凡。
身長は、小柄な彼女より大きいくらいの165。
僕にとっては、心許ない身長だ。
平々凡々な僕に話しかけてくれるだなんて、赤宮さんは天使じゃないかと思ってる。
僕は勉強だって、あまりできないしさ。
……まぁ、だから追試受けるんだけど。
――そういえば、彼女はどうして追試を受けるんだろう。勉強、できないわけじゃないっていうのに。
……と、隙あらば彼女のことばかり考えてしまう僕はストーカーっぽくて気持ち悪いな。自重自重。
でもこれは健全な高校生の証?
特に取り柄のない僕だって、人並みに思春期真っ盛りだ。
とにもかくにも。
引っ張りまくった挙句、僕はまるで上から目線で
「その賭け、乗ったよ」
と偉そうに言ってみた。
「ふふふ。約束だよ?」
――そう、ふわりと笑った彼女の頬は、背景の夕陽のせいもあってか夕陽色に染まって見えた。
「ちなみに赤宮さんが僕に勝ったら、どんなお願いをするつもり?」
「んん〜、内緒だよ?」
彼女は両腕を机にぎゅーっと伸ばして、背筋を反りながら目を細めてニヒッと笑った。
「それ、反則……」
危うく僕は、言ってしまいそうになった。
『可愛いすぎるだろ……なんだその、仔猫みたいなニャンコさんポーズは。そんな可愛い赤宮さんは反則だ』って……。
まずいまずい。
そんなこと言ったら平々凡々な僕は恥ずかしさのあまり明日から登校拒否するしかなくなるもんな。
でかしたぞ、僕。
よく、寸止めしたもんだ。
「じゃあ、鈴木くんがもし勝ったら、どんなお願いするつもり?」
「ええと……内緒、かな」
思わず、含みをもたせるような言い方をする僕。
そんなの、考えるまでもなく決まってる。
――デートしてください!
その一択だ。
……さすがに、付き合ってください、は
彼女と付き合ってみたいって考えることすら、平々凡々な僕には業が深すぎるから。
「え〜! じゃあ、鈴木くんも内緒なら、反則だね」
「まぁ、追試結果のお楽しみってことで」
「そうだね」
――君と僕とじゃ、反則の意味合いは違うけれど、っていうのはさて置いて。
「これ、二人だけの秘密だよ?」
「うん、秘密。約束だ」
二人だけの、秘密の約束ができてしまった。
「ふふふ。約束、約束!」
――――そう言って、頬を染める君は、夕陽に負けないくらい、とても眩しかったんだ。
◇ ◇ ◇ ◆
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