#23 俺の話

 どくっ どくっ どくっ

 心拍がデカくなる。

 俺をまともに見てるのはユウキだけだ。

 ミワはにやにやこっちを見てるけど、俺を見てるよーで見てないよーな。

 ヒラタにあっては、なにか違うことをしてるみたいにどこか余所よそを見てる。

 そうなら、ユウキと雑談した少し前と同じだ。同じのはずなのに。

 なんだコレは……。緊張するっっ!!

 三人が皆、俺の言葉を注目して待っているみたいだ。

 

 

「俺は……全然。まだ、してない」

 

 

 答えながら三人の表情かおをうかがう。

 ……まだ、か。

 

世間みんなと同じで、国の決めた人と結婚とか、イメージできなくて、在学中に探した方がいいんだとは思うんだけど……」

 

「国の決めた人と強制ってないよなー。NAITEAナイティーチョイスも似たようなもんだけど、自由意志が認められてるかどうかがなー。さすがに自分が歯車みたいに感じるのは嫌な人間やつの方が多いよ」

 

「なんで活動しねぇの?」

 

 

 おもむろに口を開いたミワが言い終わるより早く、ヒラタが質問を被せてきた。

 

 どくっどくっどくっ

 二人とも、聞いてたんだ。

 えっと、えっっと、

 こういう場合はどっちに反応したらいいんだ?!

 

 

「在学中に探した方がいいと思ってんだろ? なら普通探さねぇ? なんで活動しねぇの?」

 

 

 さっきより声が大きくなった。

 四角い顔がこっちを睨んでる。いや、見てる。

 ヤバい、俺、テンパりそうかも……っ

 

  

「ヒラタ、あんまり男前なこと言うと惚れそうになるから」

 

「はぁっ?!」

 

 

 え?! 何この展開、ユウキが助けてくれたのか?

 ミワがめっちゃにやにやしてるけどっ

 つか、ヒラタってやっぱり声デカい! リアクション、デカい! なにかとデカくてビビるっっ!

 

 

「え゛っ何っ? このってそういうことなのか?! タドコロ、よしとけー、俺は男に惚れられても全く嬉しくない!」

 

 

 え? 俺?

 

 そう思うのとほぼ同時に、

 ぶーっっっ

 とすごい音を立てて、こらえきれないといった風なミワが吹き出した。

 キノコな髪をふわふわ弾ませながら、腹を抱えて涙目で笑っている。

 大爆笑中のミワをチラ見したユウキは、椅子の背もたれに背中を預けて言った。

 

 

「なんでそーなるんだよ。俺だよ。頭でこうしたら良いって思っててもさ、実際に行動するってなると難しいもんなんだよ。ヒラタみたいにすんなり行動できて、口にもできる人間やつは、男前だなって俺は憧れる」

 

「はぁっ? 仮にそういうもんだとしても、ユウキは行動する部類ほうだろ。俺を騙して何をしたい」

 

「ぷぷぷぷっ、ユウキの言いたいことも分かるけど、俺としてはヒラタのツッコミに同意しちゃったなぁ。ヒラタもユウキも俺も、どっちかっていうと思った通り行動してる方だよ」

 

 

 頬杖をついてミワがにやにやにやにや楽しそうに言った。

 ヒラタもその横で「間違いないっ」という顔をしている。

 二人に聞こえたのかは分からないけれど、ユウキがぼそっと、「そーでもないんだけどな」と呟いていた。

 

 

「……俺、実は良く分からなくて」

 

 

 たぶん、三人が俺の方を見たと思う。

 でも、今度は気持ちが落ち着いていて、そんなことは気にならなかった。

 食事の済んだテーブルの上を漠然と見つめて俺は、ゆっくりと考えながら言葉を紡いだ。

 

 

「女の子と結婚するってこと自体が良く分からなくて、活動する気になれないんだ」

 

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る