宝くじで100億円当選したから、田舎で農業を始める。

静 弦太郎

第1話 第一話 100億円当選した

 ある晴れた週末の日、俺は買い物で秋葉原に来て、安いが現金決済専門のパーツ屋でパソコン用のメモリーを買おうとした。だが目当てのメモリーの価格を見て、手持ちの現金が足りない事に気づいた。


 仕方が無いので、商品のメモリーの取り置きを店主に頼んで、銀行のATMから、お金を下ろすために店を出た。


 俺は、秋葉原駅近くにあるATMのある場所まで歩いて、お金を下ろした。

 お金と一緒に出てくる取引明細を何気なく見たとき、変な点に気づいた。


 「あれっ、預金残高が書かれていない、何でだ?」


 今日は、給料日前の週末だから、数万円程度の残高が印字されるはずだ。

 しかし、手にした明細には、預金残高表示欄の欄が「***」となっていた。


 今月はパソコンなどいろいろ買ったから、引き落としで赤字になったため、この表示になったのかも知れない。

 あのOS会社が「エイト」のサポート終了さえしなければ、パソコンを買い直す必要が無かった。パソコンがぶっ壊れたわけでも無いのに、買い換えをする羽目になってしまった。

 全く忌々しくて、腹が立つ。

 計算違いで、借金が出来てしまったのかも知れない。


 俺は、腹立たしい気持ちを抱えたまま、メモリーを買うためにATMコーナーから離れた。




 その晩、たまたま見ていたネットニュースの中で、ある人気ものまねタレントのインタビューを読んだ。


 そのものまねタレントが若い頃、面白くないことばかりが自分に降りかかってくるので、職場の先輩につい愚痴を言ったらしい。

 それを黙って聞いていた先輩がおもむろに口を開いていった言葉は、いわゆる励ましの言葉では無かった。


 「人間ってのは、いいことが無いように生まれついている。やってきた物事を淡々と受け止めているしか無い。もしいいことがやってきたなら、そのとき喜べばいい」


 そう教えられたものまねタレントは、それからなるべく何が起きても怒らないように心がけて、現在に至ったそうだ。


 俺は、その記事の中で「先輩」が言った言葉が妙に印象に残った。

 

 「人間ってのは、いいことが無いように生まれついている」


 なるほど、底辺を生きる俺に合う言葉だな。



 

 ======



 それから数日経って、給料日がやってきた。


 俺は、その日の仕事が終わった帰り道、銀行のATMに寄って振り込まれた給料を下ろしに行った。

 タイミング良く、ATMコーナーには誰もいなかった。

 待たずに預金を引き出せるのはありがたい。


 カードと通帳をATM引き出し機を入れ、パスワードを入力して、二万円引き出すように入力した。

  ATMが通帳に印字する音がした後、通帳と現金が出てきた。


 カードだけで預金を下ろせるのに、わざわざ通帳まで使う理由は、カードだけだと利用明細書が出てくるので、その後始末が面倒なだけだ。

 利用明細書が貯まると鞄の中がごちゃごちゃしてくるので、この間PCパーツを買いに行ったときのような特別な事情が無い限り、キャッシュカードだけでお金を下ろすことはしないようにしている。


 いつものように現金を財布に入れて、それから通帳をバッグに入れる。そのとき通帳の数字をちらっと見たが、いつもと違う数字が印字されていた気がした。


 まあ、家に帰ってからゆっくり見ればいい。通帳をバッグに入れるために動かしていたから、単なる見間違いだろう。

 金が無いから、数字を読み間違えたのだろう。


 アパート近くの商店街で数日分の食材を買ってから、家に帰った。


 家に帰った後、冷蔵庫に買ってきた食材を入れ、仕事で汚れた作業服や衣類と洗剤を洗濯機に入れて洗い始めた。それから手を洗って夕食を作り始めた。明日は仕事が休みだから、ゆっくり夕食が作れる。


 夕食を食べ終わった後、食器を洗って片付け、洗濯が終わった作業着等をハンガーに干してから、風呂の用意をして、入浴を済ませた。

 風呂から上がって、仕事終わりのビールを飲む。月に一回の楽しみだ。


 全く、あのくそ会社、俺を安月給でこき使いやがって、せめて週一回はビールが飲みたい。


 そのとき、俺は秋葉原でお金を下ろしたときの、残高が表示されなかったことを思い出した。


 一体今いくら預金通帳に残っているんだ?


 そう思った俺は、バッグから預金通帳を取り出して、残高を確かめるため、通帳を開いてページをめくった。


 「えーと、このページが今日の日付だったよな、えっ・・・」


 俺は、無言で預金通帳を見つめていた。


 今日の日付で書かれている、預金残高の一番下の数字を見て固まった。


 10,000,001,985


 「いち、十、百、千、万、・・・、ひゃ、ひゃくおく・・・、百億円」


 俺は、額をつぶやいた後、黙って通帳を見つめていた。

 なんで、俺の通帳に百億円と印字されているんだ? 印刷ミスか?

 ATMの故障か?

 銀行の入金ミスか?


 そのとき、あることを思いだして通帳をテーブルの上に置き、スマホを取った。

 宝くじ公式アプリのマイページを開いて、過去の購入記録を確認した。


 そこには、「当選未確認くじ 11」の表示があった。

 急いで、当選確認をしたところ、“当せん”と表示が出て、その横に”一等賞 10口”の文字があった。


 そういえば、先週か先々週に、ベロベロに酔っ払った帰り道か家に戻った後だったのか忘れたが、確かロト7をネット購入した記憶がある。しかも、何を思ったのか一回で購入できる限度の10口買っていた事を思い出した。


 それが当たったのか・・・。

 まさかな、


 こうして、俺は宝くじ長者になった。

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る