第49話 いいから揉んで元気だせ!
だが、思い出してみてもあまり良い青春の記憶なんてもんはなかった。
「学生の頃はそりゃ気になる相手くらいいたけど、別に何もなかったからなぁ」
「え~告白とかは?」
「しないって。そんな話したこともない相手だったし、可能性なんてなかっただろうしな。そもそも好きだったかどうかもわかんねーっていうか。本当に気になる程度だったし。あっちは彼氏いたかもしれないし」
「ふーんそっかぁ。てかおにーさんってさー、やっぱあんまモテないっしょ?」
「オイ! いきなり事実のナイフで刺しにくるな!」
「アハハゴメンゴメン! けど悪いイミじゃなくってさー」
「はぁ? じゃあどういう意味だよ?」
意味がわからずそう返すと、メイはニマニマしながら俺の顔を見て答える。
「おにーさんって、別に顔は悪くないしむしろイイ方じゃん? 性格だって真面目で優しいしさ、むしろモテ要素多いんだよねー」
「え?」
いきなり褒められてちょっとうろたえる俺。メイはくすくす笑って続ける。
「でも恋愛から距離とってるっていうか、女の子のことよくわかんないから近づかないようにしてるっていうか? ちょっと怖がってるのかも? そういう消極的な人ってさ、そりゃ積極的な人に比べてモテないに決まってるじゃん。だからもったいないなーって」
「ああ……そういうことか……」
「つーかさー、おにーさんのこと好きな子がいたのにその好意にすら気付いてなさそう。そりゃドーテーのままだよねー」
「だから笑顔で刺しにくるなよ……」
そんな何気ないメイの発言は、しかしがっつり当たっているような気がした。
まぁ性格的な問題もあるんだろうが、もしも俺が積極的にガンガン行きまくるタイプだったら彼女くらい作っていたのかもしれないな。それが気になる相手かはわからんだろうが。
するとメイが明るい声で言う。
「ほらほらそんな落ち込まない! あたし的にはガンガン行っちゃうチャラい人って好きじゃないから、おにーさんはおにーさんのままでよかったなーって思うけどね? もしそういうチャラい人だったら一緒に旅行とかゼッタイ行かんし~!」
「なんだよそれ、慰めてくれてんのか?」
「んふふ♪ ってか今はメイちゃんと一緒に温泉デート出来てるんだからそれで十分すぎんじゃねー? これ以上モテる必要ないっしょ!」
そう言うメイに、こっちもつられて笑ってしまう。
「……ぷっ! 相変わらずお前が言うなって感じだわ」
「アハハハ! でもこんなカワイイ子と一緒なんだから嬉しいっしょ?」
「まぁ少しは救われたわ」
「ならオッケー! じゃあ次は小学生の頃のこととか教えてよ! 恋バナじゃなくてもいーからさー!」
「はぁ? まぁ別にいいけど、面白いことなんてそんなねーぞ?」
「いいよいいよっ。あたしも教えてあげるからさっ! あ、じゃあ小さい頃ってどんなアニメ観てた? あたしはねー」
メイは楽しそうに笑いながら既にこっちを見ていて「へへ」と笑っていた。暗闇に目が慣れたことでその顔もさっきよりよく見える。
なんて他愛ない話をしてあーだこーだと盛り上がり、ジェネレーションギャップで笑い合い、30分くらいだべったところで眠気が出てきた。
「ふぁ……メイ、そろそろ寝ないか?」
「んーそだね。──あ、じゃあ最後に気になってたの一つ!」
「なんだよ?」
「もう結構時間経ったけどさ、そいやおにーさんって前の面接の結果ってもう来たの?」
「うっ」
ここに来てまさかの一言。一気に目が覚めてしまった。
「えっなに? そんな急所突かれたみたいな声だして」
「いや、一番遠ざけたかった話題を不意に突かれたから」
「えっどゆこと? あ──」
メイは布団から身を起こし、ちょっと申し訳なさそうに声量を落とした。
「……ひょっとして、聞かない方がよかった?」
「そういうわけじゃないんだけどさ。……いやまぁ、メイに隠しとくわけにもいかないか」
俺も布団から出て上半身を起こし、スマホを手に取ってあのメールを開いた。
「実はもう面接結果のメール来ててさ。悪い。ダメだったんだ」
スマホの画面を見せると、メイはすぐに内容を確認。いわゆる『お祈りメール』と呼ばれるものだったからか、メイはちょっと慌てたようにこちらの顔を見上げた。
「ゴ、ゴメンおにーさんっ。なんか軽く訊いちゃった。ゼッタイ受かってると思って!」
「いいんだって。てか俺ももっと早く言わないといけなかったんだけど、ほら、みんなとプール行ったり遊んだり、この旅行もすごい楽しみにしてたみたいだからさ。どうしても言うタイミングが見つからなかったんだよな」
「そ、そっか。……う~! ゴメン!」
「だからなんでメイが謝るんだよ」
「だ、だって気を遣わせちゃってたじゃん。てか、一緒に見られなくてゴメン!」
「は?」
「そういうのってさ、一人で見るのすごい勇気いるじゃん? ほら受験の結果とかも! だからあたし一緒に見ようと思っててさ! なのに出来なかったからっ」
「……メイ」
ちょっと笑えてきてしまう。それくらい、やっぱメイがイイやつだと思ったからだ。そうやって他人の気持ちに寄り添おうとしてくる。
俺は布団の上でどっしりと座り直し、あえて明るめな声で話す。
「ま、最初からダメで元々だったからな。面接してもらえただけでもよかったよ。それにほら、メールの内容も明らかなテンプレじゃなくて、ちゃんと俺個人への配慮があるだろ? やっぱいい会社だよここ」
「おにーさん……」
「メイがそんな顔するなって。そもそも面接なんて何度も落ちて当たり前だからな? みんな苦労していきたいとこの内定勝ち取るんだからさ。大学の頃からこんなもん慣れてるっつーの」
「そ、それはそうかもだけどさ」
「マジでそんなショックでもないんだよ。また新しいとこ探して受けるだけだ。だからメイが気に病むなって。むしろメイは応援してくれてたのに、こっちこそごめんな」
それは強がりでもなんでもなく本心だった。もちろん多少がっかりした気持ちはあるが、受かる方が確率はずっと低いわけで。いちいち結果を気にしすぎていたら就職活動なんてやってられるもんじゃないからなぁ。しっかし、メイのお父さんに自分の仕事は自分で見つける~なんてかっこつけたこと言っといてこれじゃダサイな……!
「…………」
「ん? メイ?」
「…………んん~~~~っ! あーもうやったれっ!!」
メイはなぜかその顔を赤らめていきながら、やがて意を決したような真剣な表情でキッと俺を見据えた。
そしてメイは俺の手を両手でガッと強く掴むと、
「お──おっぱい! 揉んでいいからっ!」
あろうことか、それを自らの胸元にむぎゅっと押しつけた!
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