第43話 おニューのワンピなんだけど♪

 8月の最終週。東京駅の発車メロディが鳴る中、俺とメイは早朝から慌てて新幹線のホームを走っていた。


「おにーさんこっちこっち~っ! ほら早くっ! 出発しちゃうってー!」

「わかってるってーのっ!」


 ちょいちょいと手を振るメイのところへ、両手に荷物を抱えながら急いで駆け寄る。


 そして新幹線に乗り込み息を整えているところで、プシューとドアが閉まった。


「ギリギリセーフっ! アハハ出発前から終わるとこだったねー!」

「ハァハァ……! 暗いうちから早起きして、めっちゃ余裕もって家出たのに……! メイがじっくり駅弁選びすぎるからだぞ……!」


 背中に自分のリュック、右手にはメイのキャリーケース、左手には二人分の弁当袋を持って息を整える俺に、メイはおかしそうに笑いながら言う。


「アハハごめんてー! だってあんなに種類いっぱいあったら悩むじゃーん?」

「まぁわかるけどな……ハァ……とりあえず席いくか」

「うん! うわ中めっちゃ涼しー!」


 そのままメイと車内の指定席へ。窓側がメイで通路側が俺だ。道中富士山が見たいとのことでメイの希望である。

 ようやく落ち着いたところで新幹線が出発すると、メイは笑顔で窓の外へ手を振っていた。どうやら見送りか何かに来ていたらしい母子と交流していたようだ。コミュ力すごいなコイツ。


 車内アナウンスが流れ、いよいよ旅が始まるという実感が深まってきた。


「これ聞くと旅始まる~ってカンジするよね! ちょっとドキドキしてきた!」

「ああ、俺も同じこと思ってたわ」

「だよねー!? てか今日も朝から暑いね~! あっ体調崩したら台無しだし、ちゃんと水分ミネラルとっとこねっ。ほらおにーさんも!」


 そう言ってペットボトルの麦茶をグビっと飲むメイ。俺も一息つくことにした。また塩分タブレットなんかも持ってきているようで、なかなか意識の高いJKだ。


 そんな今日のメイは、普段の夏の装いよりも露出は控えめに上品な水色のワンピーススタイルで、薄手のショートカーディガンを羽織っている。長い髪はおさげに結われていて、さっきまで被っていたつばの広い帽子を膝上に置き、普段のギャルっぽい格好よりかはイイトコのお嬢様という印象が強かった。


 こんな格好も似合うなと思っていると、隣でメイが俺の袖をくいくいと引っ張った。


「おにーさーん? 今、メイちゃんの美人っぷりに見惚れてなかった~?」

「自分で言うなよ。まぁちょっとはそう思ってたけど」

「アハハ素直じゃん! これイイっしょ? 避暑地の清楚なお嬢様~ってカンジでさ~! 今日のためにおろしたんだよ? おにーさんこういうの好きそうかなって♪」


 などと言いつつ、裾をちょいと持ち上げて軽くひらひらと揺らすメイ。リップサービスだろうがこそばゆい気持ちになってくる。また動きやすいようにか、ちゃんとスニーカーを履いてくれているのに安心した。


「それにほら、このカッコならもしもおにーさんの家族にバッタリ鉢合わせとかしても恥ずかしくないしっ!」

「そんなこと考えてたのかよ? はは、さすがに心配ないって。ほらこれメイの弁当。こっち置いとくぞ」

「うんありがとっ! 食べるときおかずシェアしよーね!」

「わかったわかった。しっかし昨日は夜までバタバタだったよなぁ。宿題終わらないと行けないーってさ」

「ねっ! だってパパが旅行の条件で宿題全部やってからって言うからさ~! なんとか昨日のうちに終わってよかったけど、おかげで少し寝不足~!」

「はは。そういや今時ってAI使って宿題済ませる子もいるんだろ? メイはちゃんと自分でやってて偉かったじゃん」

「あー聖櫻ウチはそういうの禁止されてるからねー。もし違反してバレたら宿題2倍にされんの」

「マジで? 今時はそんな規則まであるのか」

「他のとこはわかんないけどねー? ま、あたしはめちゃエラだから禁止されてなくても自分でやるけどねん。てかそうじゃなきゃイミないし?」

「やっぱ偉いなメイ。俺も学生の頃は親父が厳しかったからなぁ。宿題なんて7月中には終わらせろって毎年キツかったわ」

「うわーそういう子いるいる! おにーさんも早めにやるタイプだったんだ。昔のおにーさんこそエライじゃーん。イイ子イイ子♪」


 とか言って俺の頭を撫でてくるメイ。周囲の目が気になってちょっと恥ずかしかったがされるがままにしておく。


「じゃこれ、おにーさんが暑い中荷物持ってくれたお礼と、昔宿題ガンバったご褒美ね! じゃじゃ~ん! 『シンカンセンスゴイカタイアイス』~!」

「おお! これが例の!」

「へへっ。ちゃんと自販機で買っときました!」


 メイが差し出してくれたのはカッチカチのカップアイス。話には聞いたことがあったが実物を見るのは初めてだ。確かもう車内では買えないんだったよな。


「サンキュー。てかこんなとこでまでアイスって、メイってホントアイス好きだよな」

「にへへ、心の清涼剤的な? あたし小さい頃からさ、旅行先ではゼッタイにソフトクリームとか食べてたんだよねっ。ほら、ソフトクリームとかアイスってだいたいどこでも売ってるし、味も思い出になるっていうか?」

「ああ、なるほどなぁ。ご当地の定番だもんな。なんかちょっとわかるわ」

「でしょ! 今日も見つけたらめっちゃ食べるのでよろしく~!」

「いいけど食べ過ぎには注意しろよ? 途中でお腹壊したら大変だし……ってこのアイスホント硬いな? 絶対食えないだろ」

「アハハ! 10分くらい置いといてちょっと溶けてから食べるといいよ~。それまでいろいろお話してよっ」

「だな。じゃ、先に予定だけ確認しとこうぜ。まずは尾道に寄るんでよかったよな?」

「うんっ! なんか景色良い見晴台あるんだって! んで、尾道ラーメン食べた後はウサギ島行って~!」


 と、メイのスマホを一緒に見ながら予定確認。

 そして思わず驚く俺。

 そこには行きたい場所や食べたい物のリストがこれでもかというくらいズラリと並んでおり、また観光地での滞在予定時間やらお店の定休日やらまでしっかり調べ尽くしてあった!

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