おせっかいな小悪魔JKとイチャイチャしつくすラブコメ
灯色ひろ
第1話 出会いは透けブラ
『明日から来なくていい』
会社で上司からそう言われたのが一時間ほど前のこと。
『――は?』
一度は思わずそう聞き返した。
確かに俺は今日、営業先のお偉いさんを怒らせた。けどそれはうちの会社の商品をバカにされたからであって、そんな会社と取引なんてする必要ないだろ。きっと上司だってわかってくれる。むしろよく言ったと言ってくれるんじゃないか。そんな風に思ってた俺がバカだったのだ。
いい加減我慢の限界だった俺は、拳を強く握りしめながらすぐに会社を飛び出した。
――
ついでに先ほど無職の肩書きまで手に入れた俺は今、夜の公園で一人やけ酒をしているというわけだ。
空になった缶をゴミ箱に投げ捨てるも見事枠に当たって跳ね返され、俺は思わず歯ぎしりをしてベンチを叩いた。
「くそッ! ――なんで……っ」
むしゃくちゃした気持ちを抑えながら立ち上がり、缶を拾いに向かう。
帰宅途中にあるこの海浜公園はデートスポットとして有名で、近くにはショッピングモールなどもあることから昼はたくさんの人で賑わっているものの、夜になると俺みたいな冴えない社会人とランナーばかりになる。以前からよく仕事の悩みなんかを整理して考えるときに利用していたのだが、海が近く、自然も多いため、田舎を思い出して落ち着くことが出来た。
「……はー。なっさけねぇなぁ……」
飛び出して以来帰っていない田舎を思い出すことも、四月に入ったばかりの会社をクビになることも、弱いくせに普段まったく飲まない酒なんて飲んでるのも、すべてを情けなく思いながら缶をゴミ箱へ捨て直す。カランカランと音が響いた。
俺はふらふらと千鳥足で歩くと、遊歩道の柵にもたれかかるように海を眺める。ライトアップされたレインボーブリッジや街の灯りが少し眩しい。夜になれば暗闇一色しかなかった故郷とは大違いだ。
そこでふと思い出す。
今日の上司の言葉が無性にキツく感じたのは、父親のそれと重なったからだ。
『二度とこの家の敷居をまたぐな』
俺の親父は故郷で一番と云われる名士で、日頃からそうとうに厳しい人だった。
好きなアニメを見たりゲームをしたりすることは許されず、高校までスマホは禁止で、テストは満点以外は叱咤の対象。習い事も、観ていいテレビ番組も、進学先も、将来の仕事も、小さい頃からなんでも全部親父に決められてきた。気になる女の子とデートすることだって出来なかった。
やりたいことを何一つさせてもらえずに成長してしまった俺は、大学受験のときに親父には内緒で自分の行きたい大学へと進学を決めた。初めてといっていい明確な反抗だった。母さんは俺の気持ちを汲んでくれて親父に進言してくれたが、やっぱりダメだった。最後まで親父にはわかってはもらえず、その言葉を聞いて以来実家には戻っていない。
そうして一人上京してきた俺は、東京の安いアパートを借りて一人暮らしを始め、大学に通いながら必死に勉強とバイトをしてきた。奨学金があったことで生活はなんとかなり、四年後無事に大学を卒業することが出来たが――希望する業種の企業はすべて落とされ、やりたい仕事に就くことは出来なかった。
俺の夢は、ゲームクリエイターになること。
子供の頃、友達の家で遊んだゲームに熱中した。親父には秘密でと母さんが誕生日プレゼントに買ってくれた携帯ゲーム機は結局親父に見つかって壊されたが、そのときから俺は将来ゲームを作りたいと思っていた。ゲームは夢のない子供に夢を与えてくれるものだと思った。だからプログラミングなんかも学べる大学に入った。
家を捨て、一人きりで夢を追って、それでも夢は叶えられず、けれど諦めきれずに今は今の仕事を頑張ろうと思っていた。金を貯めてから専門学校に通うとか、いくらでもやりようはあった。そう思って頑張ってきた。
そんなとき、突きつけられたのはクビ宣告。
四月に入社してまだたったの三ヶ月。最初はなんのやりがいもなかったけど、仕事を覚え始めてから少しずつ楽しくなってきて、これからだってときの上司のあの一言は今までの自分の努力をすべて否定されたようだった。
これからのことは、今はちょっと考えられそうにない。
「…………海か…………気持ちよさそうだな……」
目の前の静かな海を見て、瀬戸内の優しい海を思い起こす。
酒のせいか、顔が熱を持ってポカポカしていた。梅雨も終わってだいぶ暑くなってきたせいもあるだろう。気付けば目の前の海に飛び込みたくて仕方なくなっていた。そうすれば、今の嫌な気持ちも全部洗い流せるかもしれない。
家も近いし、誰も見てないし、見られたところで構わないし、そもそも海水浴場が近くにある場所だ。俺がここでずぶ濡れになってもたいしておかしかないだろう。
スマホや財布の入ったジャケットと靴だけ脱ぎ、柵の上に登る。
不安定な柵の上で夜風を受けながらネクタイを緩め、ゆっくりと呼吸を整える。
そして、今まさに飛び込もうとした次の瞬間――
「ちょちょちょ! ちょっとおにーさんっ! なにやってんの~~~~~~っ!!」
大声を上げて走ってきたその人物は持っていた鞄を投げ捨てると、勢いよくジャンプして俺に飛びついてきた!
「うおぉっ!? ちょ、なんだよっ!?」
「ばかばかばか! やめなって! 生きてたらイイことあるって!」
「はぁっ!? おまえなに言って――つーか離せって! 落ちるぞっ!!」
「へっ? ――わ、わわわわっ!」
抱きついたまま離れないその子は呆然とした顔をしながら、バランスを崩した俺と一緒に夏の海へと落下した。
――ドッポーン!!
ぶくぶくぶく。さすがに暗くて何も見えない海の中で、俺は自分に抱きついているその子を抱えながら海面に上がった。
「――ぷはっ! おい大丈夫か!?」
「けほ! けほけほっ! んっ、ヘ、ヘーキ! 中学水泳部だったし! けほっ!」
何度か咳き込んだその子は、小さくピースサインをしてニカッと笑った。
それから急にキッと眉尻を上げると、俺のおでこにパチンとデコピンをしてくる。
「痛ぇ!?」
「ばか! おにーさんなにやってるワケ!? 飛び込み自殺なんて親に申し訳ないと思わないの!? 反省しろはんせー!」
「は、はぁ?」
「それに酒くさっ! なんかヤなことでもあったんだろうけど、だからって自殺なんてゼッタイしちゃダメ! まだ若いんだからこれからじゃん! しっかりしなよ!」
その子があんまり真剣な顔で見てくるもんだから――俺は少しドキッとして、そしておかしくなって笑った。
「――はははっ! 何言ってんだお前。自殺なんて考えてねーよ」
「へ?」
「暑かったから涼みたかっただけ。俺もガキの頃水泳習ってたしな。つーか、冬ならともかく夏に海に飛び込んでも気持ちいいだけだろ。はー。良い感じに酒抜けそうだわ」
そう言った俺を見て、その子は何度も目をパチクリとさせたあとでどっと笑い出した。
「――アハハハハ! なにそれじゃあたしの早とちりじゃん! 勝手に勘違いして慌てて走って飛びついてずぶ濡れになったってこと? アハハハばかみたい!」
さっきの怒り顔からは一転、子供みたいに無邪気な顔で笑うその子はなぜかキラキラと輝いて見えた。
その子は濡れた顔を拭いながら言う。
「あーおかし。ごめんねおにーさん、メーワクかけちゃって」
「マジで驚いたぞ。すげぇ勢いで飛びついてきてイノシシかと思ったわ」
「んふふっ! 猪突猛進タイプってよく言われる! あたしメイ。名字は
「ん? ああ、俺は湊。悠木湊」
「何歳? 大学生?」
「22。今年就職したばっか」
「ふーん、やっぱ若いじゃん」
「そういうお前はいくつだよ。制服だし、高校生だろ?」
「あのさぁ、年上の人から〝お前〟って呼ばれるのってちょっとムカつかない? あたしニガテなんだよね。だからメイにして」
「お、おう。そうか」
「ん。あたしは16だよ。こっちは今年高校デビューしたばっか!」
ふふーんと自慢げに胸を張るメイ。
クセのないロングの金髪は左右で結われてお下げになっており、睫毛は長く、その大きな瞳は少しばかり青っぽく見える。外国の血が入っているのだろうか。
薄化粧の顔は少し童顔気味で、綺麗というよりは可愛いという表現が似合うタイプだ。日焼けのない白い肌は水を弾いて輝いており、半袖の白いブラウスを押し上げる胸部にかなりのボリュームがあるのはさっきからくっつかれているためよくわかる。ていうかめっちゃ気になっている。ブラウスがずぶ濡れでべったりなもんだから、その下のピンク色のものが……。
「ん? なんで目ぇそらしてるの?」
「いや……見えてっから……」
もうそちらは見ずに答える俺。
するとメイはキョトン顔で下を向き、すぐにじわじわとその顔が赤くなっていって、やがて「ふにゃー!」とケンカ中の猫みたいな声が響き渡った。
ようやくジメジメとした梅雨が明け、ずいぶんと暑くなってきていた七月の初夏。
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