47.忘れていた準備委員
「ねえ、ねえ、静香ちゃん。手を繋ぐのってそんなに難しい事?」
都は窓辺に頬杖を付いて外を見た。
そこからは、まだ登校してくる生徒たちが見える。
その中には仲良く手を繋いでいるカップルもいる。
「和人君、手を繋いでくれないの・・・」
都は羨ましそうにその景色を見つめながら言った。
「へえ、小学校の時は毎日手を繋いで登校していたのにねぇ」
静香は興味無さそうに、手鏡を覗き込み、前髪を直している。
「そうなの・・・。小学校の時までは手を繋いでくれたのに・・・」
「まあ、手を繋いでいるって言うより、都が無理やり引っ張り回していた感じだったけどね」
「いいなあ・・・、あのカップルたち・・・」
都は外の景色を眺めながら溜息を付いた。
★
ホームルームも終わり、下校時刻になると、都は登校のリベンジを果たすべく、気合を入れて下駄箱に向かおうとした。
しかし、静香に首根っこを掴まれた。
「どこ行くの? 都」
「え? またねって言ったじゃない。 何?」
都は不思議そうに静香に振り向くと、その横には体育祭準備委員の田中が立っていた。
「神津さん。今日、準備委員の集まりだよ・・・」
田中はさっさと帰ろうとする都を驚いた眼で見ている。
「え? 準備委員って?」
「だから、体育祭に準備委員だってば。都、自分で立候補したのよ? 田中君も困ってるでしょ?」
ポカンとした顔をしている都に、静香は呆れたように言った。
そうだった・・・。準備委員・・・。
そんなものはすっかり忘れていた。
自分の人生を左右するほどのビッグイベントを挟んだおかげで、そんなものの存在自体忘れていた。
(・・・何で立候補しちゃったんだろう・・・)
せっかく、久々に和人君と帰れるところだったのに。
しかも『彼女』として。
「リベンジは明日の朝、頑張りなさい。じゃあね。田中君も、また明日」
静香は情けなさそうな顔をしている都の頭をポンポンっと叩くと、困惑気味の田中に手を振って教室を出て行ってしまった。
「神津さん・・・。行ける?」
田中は何だか申し訳なさそうに、都を見ている。
その顔に都は居たたまれなくなった。
「・・・うん。ごめんなさい。田中君・・・。場所どこだっけ?」
「多目的ルームだよ!」
素直に謝り、集まりに参加する意思を示した都に、田中は気を取り直したようだ。
「じゃあ、行こう!」
ニッコリと笑うとご機嫌に教室を出た。
都はガックリと肩を落とし、スゴスゴ後を付いて行った。
先に教室を出た静香は、振り向いて、都と田中が多目的ルームに向かって行くのを見届けると、昇降口に急いだ。
普通科寄りとも付かず、特進科寄りとも付かない微妙な位置に、少し不安そうに立っている和人を発見し、スタスタと近寄っていった。
「お疲れ、和人君!」
「え? あ、佐々木さん・・・」
和人は突然声を掛けられ、ビクッと体が震えたが、相手が静香だと分かり、ホッとしたようだ。
「すぐに都から連絡があると思うけど、あの子、体育祭の準備委員なの。今日集まりがあってそっちに行ってるわ」
「え、あ、そうなんだ」
そこに、和人のスマートフォンが震えた。
急いで開いてみると、号泣する動物のスタンプがどんどん連投されてくる。
「ね?」
「・・・うん。本当だ」
和人はスマートフォンを覗きながら頷いた。
「ところで、都から聞いたけど、今回はおめでとう」
「え?」
静香の言葉に和人は飛び上がった。
そして、顔を上げて静香を見たが、見る見る顔が熱くなり、慌てて顔を背けた。
「正直、傍から見たら、降格なのか昇格なのか分からないけど、本人は昇格と思ってるみたいよ」
「う、うん・・・」
和人はモジモジしながら俯いた。
静香は、腰に手を当ててはあ~と溜息を付くと、
「ま、今回は、私も和人君の存在の大きさを思い知ったわ・・・。ってことで」
静香はいきなりガシッと和人の肩を組んだ。
「え?! なっ! ちょ、ちょっとっ」
慌てる和人の首に腕を回し、軽いヘッドロック状態を取ると、
「頼むから、もう都を野放しにしないでね。和人君の手を離れると、私が倍どころか3倍くらい大変になることが分かったの」
そうにっこりと笑った。
「さ、佐々木さん、ちょっと、く、苦しい・・・」
「あなた達の茶番に付き合わされた埋め合わせは、今度しっかりしてもらうわよ」
「わ、わかりました・・・」
「じゃ、都をよろしくね」
「は、い・・・」
和人の返事を聞くと、静香はパッと手を放した。
ケホケホと咳き込みながら喉を摩る和人の肩をポンポン叩くと、
「じゃあ、またね。和人君」
手を振って、颯爽と去っていった。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます