38.テスト結果2
都は罪悪感と一縷の望みという、相反する感情を抱えながら、特進科コースの棟に向かった。
特進科コース棟の多目的ホールに上位3名の名前が貼り出されることは知っていた。
そこにはいつも和人の名前が載っている。
都はその雄姿を写真に収めるために、テストが終わると必ずそこに行っていた。
滅多に行くことのない特進科コース棟で緊張するが、和人の名前が載っていることを確かめたくて、毎回訪れていたのだ。
しかし、今回はいつにも増して緊張する。
一人で行くことが出来ず、静香に付き添ってもらい、多目的ホールまでやって来た。
中央の大きな柱に成績の紙が貼り出されている。
それを見て、都は二の足を踏んだ。
「う・・・、緊張する・・・」
都は静香の腕にしがみ付くと肩に顔を伏せた。
しかし、静香はそんな都に構うことなく、ズンズン中央に進んで行く。
引きずられるように貼り紙の前に連れて来られた。
「あ、都ちゃん! どうしたの? 特進科まで来て」
知った声が背後から聞こえた。
振り向くと高田が立っていた。
「あら、高田君。今回は勉強見てくれてありがとう。ホント助かったわ」
都より先に静香が答えた。
「やあ、佐々木さん。テストどうだった? 頑張ってたよね」
高田はにこやかに静香に返事をした。
だがその笑顔には、都に話しかけたのにも関わらず、意中でない女に返答された苛立ちが見て取れる。
そんな愛想笑いに、静香は若干引いたが、すぐににっこりと笑った。
「お陰様で。今回は50番以内を目指していたんだけど、それ以上の出来だったわ。30番以内に入れたの」
「へえ、すごいじゃないか?」
「ありがとう。これも、高田君が図書室に来てくれたお陰ね」
「ははは」
「ふふふ」
お互い適当な愛想笑いを終えると、高田はスッと都の隣に立った。
その顔はちょっと誇らしげだ。
「もしかしてこの貼り紙を見に来たの?」
そう都に話しかけた。
「へえ! すごいじゃない、高田君! 1番なんて!」
静香は都を間に挟んで立つと、成績表の貼り紙を見上げて、手を叩いた。
「ありがとう、佐々木さん」
高田は素直にお礼を言うと、チラッと都を見た。
都は顔を上げて成績表を凝視していた。
「・・・った・・・」
都が何かを呟いた。
「え・・・?」
「・・・良かった・・・」
ポロリと涙が頬を伝った。
「え? え? どうしたの? 都ちゃん!」
高田が驚いて都の顔を覗き込んだが、すぐに静香に引き寄せられた。
「大丈夫、大丈夫! 気にしないで! さあ、都、行こう!」
「・・・うん」
都は小さく頷いた。
「え? で、でも!」
都は目を擦ると、動揺する高田に向かって微笑んだ。
「高田君、1番おめでとう。じゃあね、バイバイ」
呆気に取られている高田をその場に残し、都と静香は多目的ホールを後にした。
その背後には大きな柱に張られた成績表が見える。
『3番 津田 和人』
「良かった・・・。和人君、ちゃんと3番に入れて・・・」
都は静香の腕にぎゅっとしがみ付きながら歩いた。
「そうね」
「・・・都、負けちゃったね・・・」
「そうね」
「・・・うん、負けちゃった・・・」
静香は都の歩調に合わせて、ゆっくり歩いた。
恐らく都は涙で前が見えていないだろう。
貸した腕に絡ませている都の手を、空いている方の手で優しくポンポンと叩いた。
その後は何も言わず、都に寄り添って歩いた。
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