地上最強の魔王、勇者学院に通う〜最強の魔王は転生して平和を求める〜
ふぃるめる
プロローグ †転生†
戦乱の時代――――
オルトラッセ大陸は人族、魔族、神族による三つ巴の戦場となっていた。
悪しき魔術に溢れ安息の地などない、それがオルトラッセ大陸だった。
「よくぞ来た、勇者代表アウストロ。そして魔王イオニス」
勇者と魔王、この戦乱の光と影の英雄を神殿に招いた創造神クラウディアは両の手を広げて言った。
「三種族の長とも言える俺達が雁首揃えて、いったいどんなショーを始めるつもりなんだ?」
あからさまに不機嫌な態度でアウストロはクラウディアに言った。
「そこおる魔王の誘いに私がのったまで。話は彼から聞いて」
やや投げやり気味にクラウディアは話を魔王イオニスへと投げる。
「長きに渡るこの戦乱で我々は余りにも多くのものを失いすぎた。神族は多くの神を、すなわち秩序を失い人族は豊穣の大地と命を失った。それは魔族も同様、この辺りで終わらせるべきじゃないか?」
空気は淀み、大地は
秩序を失った世界は、目に見えて破滅へと向かっている。
世界に灰の雨が降り注ぎ色さえも失いつつあった。
「何を言うかと思えば、今更そんなことか。俺達人間の憎悪、今更止められると思うか?」
勇気と愛を糧に魔術を構築してきた人族は、気付けば魔術の本質が憎悪怨嗟へと変わっていた。
どこまでも荒んでささくれだった魔術だった。
「それは我らとで同じ。しかしこの世界が滅びれば何のために戦ってきたのか、その意義すら消失することになるのだぞ?民を納得させるのが我らの務め、違うか?」
アウストロは、勇者の長であり人族の連合王国を束ねる王でもあった。
「お前はこの【
人族魔族神族の三種族による史上例のない【
「私はそこおる魔王に賭けてみることにした。私は私の望む優しい世界のためならばこの命すらも
迷いなく澄んだ瞳で言った創造神クラウディアの言葉にアウストロは息を飲む。
そして観念したかのように言うのだった。
「そうか……お前はそういう稀有な神だったな」
その言葉にイオニスは微笑む。
それは悪逆無道とまで畏れられた魔王には似ても似つかぬ表情だった。
「だがその代償、重くはないのだろう?」
覚悟は決まっている、そんなふうにアウストロは言った。
「あぁ、信頼のおける者に後は託して来た」
「私も同様。お前はどうなのだ?」
イオニスとクラウディアはその命を捨てる用意などとっくに済ませていた。
「あんまり俺を馬鹿にしてもらっちゃ困るぜ?敵対する二人に呼ばれてんだから、そんなのは済ませてきてるさ。用意してないのは墓穴くらいだな」
アウストロは、これから死ぬことなど些事でしかないとばかりに笑った。
「信用されてないな」
「えぇ、簡単に裏切りが起きる世界ですから」
イオニスは困ったような、クラウディアは冗談ともそうでないとも言えないふうな反応をした。
「ただ少なくとも、世界を或いは自身の民を守りたい、そこだけは皆同じだ」
冷酷さと愛情を兼ね備えるイオニスは、あたたかさを感じさせる声で言った。
「そうだな……」
「それはそうです」
三人が三人ともに眼下に広がる大地を別れを告げるような眼差しで見つめた。
「なら、そろそろ行きましょうか。【
「この間にも無辜なる命は失われてるからな。【
「善は急げってことよ!【
三人は三者三様の色合いの魔法陣を展開した。
やがてそれは重なり合い一つとなる。
そして眩いばかりの光が溢れた。
互いに手を取り合った三人を中心にありえないほどの風が吹き渡り、激しい地鳴りと共に大陸は三分割されそれぞれに
「あたたかい光だな」
「世界が喜びと幸せに満ちて行く光景が目に浮かびます」
「今更だが随分とちっぽけなことで争ってたんだって気づいたぜ」
三人を包む光はその明るさを増しやがて弾けるように三人の命と共に消えた。
◆❖◇◇❖◆
夢を見ていた――――。
あの悲劇が繰り返される夢。
人が魔族が神が互いに殺し合う悪夢のような夢。
そして創造神なる少女は俺にこう告げた。
『かつての勇者達は今、転生を終え復活した。悲劇の再現をお前が望まぬのなら再びを剣を取り立て』
その姿は俺の知る創造神クラウディアでは無かった。
「お前も転生したのか?」
「転生?私は私。他の誰でもない」
言っていることの意味が分からない、とでも言うような口ぶりだった。
「そうか……勇者アウストロは?」
クラウディアは行方知れず、となれば気になるのは共に【
「彼の根源は消滅した」
淡々と告げられる衝撃の事実。
「……何があった?」
「かつての勇者達により、その根源は消滅させられた。常世の闇へ行っても最早探すことは叶わぬ」
死後に根源が集い次なる生のために循環させる自然の摂理、それが常世の闇。
常世の闇に行っても見つからないのなら、根源の消滅または転生した可能性が考えられる。
だが、根源は消滅したという事実を元にすればもはやこの循環する世界には存在し得ないということになるのだろうか……。
「お前は悲劇の再来を防ぐため俺を転生をせる、そういう事か?」
世界を隔てる【
その俺に転生した戦乱の時代の勇者達の企てを止めろと言うのなら、転生をさせるということなのだろう。
「それが私の役割だ」
「お前は悲劇の再来から守られた世界に何を望む?」
そう尋ねると眼前の少女は苦悶の表情を浮かべた。
「私が望むのは、……ぐっ……神の…統べる…喜びに…………」
少女の中で何かが葛藤している、そんな様子がみてとれた。
魔術を行使し真相を確かめたい、そう思ったが生憎今の俺は肉体を持たない。
肉体を持たずして魔術を行使することなど無理だった。
「まぁいい。事情は察した。転生した勇者は何処に?」
「勇者の学び舎に」
苦悶の表情はなりを潜め平静のままに少女は言った。
勇者の学び舎というものが何なのかは分からなかったが兎にも角にも行くしかないのだろう。
「最後に質問だ。お前の名は?秩序は
おそらく最初に訊くべきだった質問を最後に尋ねる。
「私は創造の秩序を司る世界と神の母、創造神クラウディア」
少女の告げた名に、俺はますます分からなくなったまま、転生の魔術に意識を手放すのだった。
いずれ確かめなければな……俺の知るクラウディアがどこへ行ったのかを――――。
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