エピローグ 終わりから始まる物語
第54話 エピローグ 無限転生
「……もし……もし……」
誰かが……呼んでいる……。
荒ぶる量子の世界で別れた……あの
「……もし……もし……」
黒い髪の……黒い瞳の……女の子……。
あの娘の名前……名前……。
思い出せない……。
「もし、もし」
なんだったっけ……。
なんだったっけ……。
「もし!」
「ディーヴァ!!!」
身体を揺するその手をつかみ、俺はガバッと身を起こした。
「きゃっ!」
亜麻色の髪をした美しい少女が、驚いて身を退く。
「…………あ」
「ああ、よかった。起きてくれたのね」
俺に手首をつかまれたまま、反対の手で胸を撫で下ろす。
驚かされたというのに、腹を立てる素振りは見せなかった。
「…………君は……」
「ごめんなさい。わたしはディーヴァさんじゃないわ。わたしは――」
「テニア……テイタニア……」
少女然とした
マキシマム・サークが手折り捨て去った、アスタロテ・テレシアの親友……。
「まぁ、どうしてわたしの名前を御存じなの?」
俺は答えず……答えられず、テニアの手を放して呆然と辺りを見渡した。
帝都ヴェルトマーグ郊外に広大な面積を有する、騎士の子弟のみが入学を許された神聖イゼルマ帝国の士官学校。
通称、
「……騎士学校」
ここはその敷地内にある森。
マキシマム・サークは入学初日にこの場所でテニア・テイタニアと出会い、親密になってからも人目を忍んで逢瀬を重ねていた……。
俺は身につけている服を見た。
テニアと同じ白地に金糸で精緻な装飾が施された、イゼルマの軍服。
何もかもが同じだった。
マキシマム・サークの記憶にある、テニアとの出会いと。
「あの……大丈夫? もしかしてどこか具合が悪かったの?」
「…………いや、大丈夫」
「そう、それならよいのだけれど」
「今日は……式典だよな? 騎士学校入学の」
「まだ寝ぼけているの? ええ、そうよ。もうすぐ始まるわ。奇麗な森があったから式が始まるまで少し散策をしていたのだけど――どうやら素敵な出会いが落ちていたみたいね」
テニアはそういうと、愉快げにクスクスと笑った。
「あなたのお名前は? 寝坊助さん」
「マキシマム……マキシマム・サーク」
「まあ! あなたがあの有名な?」
「有名?」
「ええ、そうよ。とっても乱暴で恐ろしい人だって聞いていたわ。でも噂なんて当てにならないわね。だってこんなに面白そうな人なんですもの」
「……」
テニアの明朗な声は、耳に届いていなかった。
(……戻った……四年前に……)
それは、いったい何を意味しているのか?
ディーヴァはここで、いったい俺に何をしてほしいのか?
違う――そうじゃない。
そうじゃないんだ。
俺がここで何をしたいかなんだ。
もちろんそんなことは決まっている。
やり直す! そしてもう一度ディーヴァと巡り会う!
あの結末を修正して、未来を変える!
そして今度こそ本当に、彼女との人生を手に入れる!
一度で駄目なら二度。
二度で駄目なら三度。
成功するまで何度だって、無限にだって転生してやる!
俺の本当の人生は、今ここから始まるんだ!
「どうしたの、マックス?」
「いや、なんでもない――行こう、テニア。式が始まる」
そして俺は、二度目となる騎士学校の入学式典に臨んだ。
第一部 完
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ここまでお読みいただき、ありがとうございました。
気に入っていただけましたら、感想や評価などいただけると嬉しいです。
第二部『騎士学校篇』は要望があるようでしたら書きたいと思いますので、
ブックマークはそのままにして続報をお待ちください。
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