第322話 ようし! なんとかなるだろう!
晩餐会から数日後、レオルドはシャルロットやルドルフを含めた研究チームを引き連れて王城へ来ていた。
「では、新たな結界魔法の成果をご覧頂きましょう」
レオルド達が王城へ来ていたのは新たな結界魔法の発表をするためだった。まずはどの程度のものなのかを国王に加えて重臣達に見せる。
デモンストレーションとしてレオルドが魔法でベイナードが剣で攻撃する。その二つを見事に跳ね返したのを見て国王達が驚きの声を上げた。
結界の強度を確認したので次は導入試験である。まずは一週間、様子を見る事になった。その間はシルヴィアの神聖結界は解除され、城壁に騎士と魔法使いが配置されることになった。これで万が一結界が突破されても迅速に対応する事が出来る。
そういうわけでレオルドはゼアトへ戻る事になる。問題が起きた場合は部下の研究員が対応する手はずとなっているが、研究員では対応できない場合のみレオルドが出向く事になっている。
願わくば自身の出番がないことを祈るレオルドであった。
ゼアトへ戻ったレオルドはひとまず溜まっている書類仕事を片付けていく。その後に、各商会長との面会などを済ませる。
それから、レオルドは自動車製造に励んでいるマルコの元へ向かい、進捗を尋ねた。現段階ではまだ商品として売れるレベルではないとのこと。
「そうか……」
「すまねえ、レオルド様。ご期待に応えられず……」
「気にするな。元より、そう簡単に出来るとは思っていない。一歩一歩着実に進んでいこう」
「ああ。わかったよ、レオルド様!」
完成形を知っていても、やはり完全に再現するのは難しい。それでも完成間近に仕上げただけ凄いと言えるだろう。マルコ達従業員を褒めるべきだ。
工場を後にしてレオルドは開発途中の街並みを見学することにした。道は出来ているが建物はまだ未完成が多く、もう少し時間がかかりそうだった。
そして、もっともレオルドが注目しているのは元帝国領の海に面した領地である。先住民の登録はすでに完了しているのだが、港はない。港がないのには理由があって、帝国領の隅っこであるのに加えて近海には凶暴な魔物が生息しているからだ。
そのおかげで港が作れなかったようだ。しかし、レオルドは港を諦めるわけにはいかなかった。シャルロットの転移魔法でいつでも新鮮な魚を食べることは可能だが、それでは食文化の発展が進まない。出来るなら、もっと大勢の人間に新鮮な魚を食べてもらいたいと思っているレオルドは港の建設を進めることにした。
だが、ここで思わぬ反対意見が飛び出した。観光地にしてはどうかというものだ。近海に住んでいる凶暴な魔物を倒してビーチにして観光地にしようという提案があった。それを聞いてレオルドは悪くはないと思ったが、経済的には港の方がいいのではと反論した。
当然、相手も反論するので議論は続いた。領主であるレオルドに反論するなど本来なら許される事ではないが、レオルドが許可をしているので何も問題はない。ただし、真っ当な意見などのみだ。
色々と話し合った結果、港にすることが決定した。やはり、流通の要にもなるので港は重要だということで観光地計画はなくなった。しかし、今後レオルドが新たに領地を下賜されるようなことがあれば、観光地にすることが条件であった。
「よし! 港を建設するぞ! そして、同時に造船技術者を募るぞ!」
レオルドは天才というわけではない。部下達は勘違いしているがレオルドは真人の記憶から知識を引き出しているだけに過ぎないので造船の知識など一切ない。だから、集める必要があるのだ、専門家を。
そういうわけでレオルドはシルヴィアに頼った。レオルドも人脈は広いのだが、やはりシルヴィアの方が昔から多くの貴族と対談しているだけあって広い。なのでレオルドはシルヴィアに造船技術者の宛てがないかを聞いた。
「殿下! 港を建設しようと思うのですが、船がありません。なので造船技術者などの知り合いはいませんでしょうか?」
「船ですか? そうですわね……。何人か心当たりがあるので話してみましょう」
「おお! ありがとうございます!」
「ふふ、これくらいお安い御用ですわ」
(頼もしい~!)
頼もしい
シルヴィアの協力を得てレオルドは港の建設を始めていく。まずは元帝国民である領民に港の建設を始める事を説明する。海沿いに住んでいる者は一人もいなかったので特に反対されることはなかった。むしろ、流通の場が出来て市場が潤うなら大歓迎といった様子である。
それから、レオルドはゼファーを呼び寄せて森林伐採を依頼した。
「一応、言わせてもらうけど僕は傭兵だからね?」
「知ってるさ、でも、木を切るなら風魔法が一番だろ?」
「そうだけどさ……。君ってほんと不思議なことばっかりするよね」
「まあ、いいじゃないか。ちゃんと金だって払ってるんだし」
「お金を払えばなんでも許されるって訳じゃないからね? でも、お金を貰っている以上はきっちりと仕事するよ。なにせ傭兵は信頼が仕事に繋がるからね」
「よし、その意気だ!」
ゼファーに頼んでレオルドは建築予定の港町が出来るくらいの広さを確保する為に森林を伐採してもらった。
レオルドの頭の中には某有名映画に出てきた港町が描かれている。港のある美しい街並みを再現しようと考えているのだ。
その為にサーシャを呼んでレオルドは頭の中に描いている街並みを説明した。サーシャはレオルドのあやふやな説明を聞いて試行錯誤しながらも見事にレオルドが思い描いた街並みに辿り着いた。
「お、おお……。まさか本当に再現するとは」
「あ、あの……まだデザインなので完成とは言えません……」
「ん、む。そうだな。しかし、さっきの説明でよくここまで再現してくれたものだ。どれくらいで出来る?」
「レオルド様に匹敵する土魔法の使い手が百人くらいいれば三ヵ月で可能かと……」
それを聞いてレオルドは思わず鼻水を噴き出しそうになった。確かにサーシャがデザインしてくれた街はレオルドが思い描いていた理想そのものだ。
しかし、それを再現するのにはとてつもない労力が必要という。流石に難しいだろう。
だが、妥協したくないレオルドは土魔法の使い手を更に雇う事にした。すでに多くの土魔法の使い手がゼアトに勤務しているがレオルドと同等クラスの使い手は数える程しかいない。ならば、新たに雇えばいいのだが問題は土魔法の使い手が王国に少なくなってきていることだ。
なにせ、フリーの土魔法使いはレオルドがほとんど雇ってしまったからだ。
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