第92話 ムキムキや!
モンスターパニックの終息祝いで王都に呼ばれた時以来となる、久しぶりの我が家に帰ってきたレオルド。
(意外と帰ってくるの早かったな〜。前回帰って来た時は半年ぶりだったけど、今回は二ヶ月程度だしな)
馬車から降りて、レオルドは久しぶりの我が家に入ろうとしたらオリビアが飛び出してきた。いきなり、飛び出してきたオリビアはレオルドを抱き締める。
「おかえりなさい、レオルド!」
「は、母上。ただいま戻りました」
「ええ、ええ。元気で……レオルド! 貴方、物凄く痩せてないかしら!?」
「えっ? そうでしょうか?」
「ええ! 前に見た時も痩せていたけれど、今はもっと痩せているわ! それに筋肉も付いたから、がっしりとした体型になってるわよ」
「気が付きませんでした……」
レオルドはオリビアに言われてから初めて自分が痩せている事に気が付いた。
実はギルバート、バルバロト、イザベル、いなくなったシェリアなどはレオルドが痩せている事を知っていた。そもそも、前者の三人はいつも近くにいるのだから知っているのは当たり前だが。
しかし、何故、レオルドは自分で気が付かなかったのか。以前はウエストが減っている事に自分で気が付いていたと言うのに。
その理由は、一つ。領主代理となって激務の毎日だったからだ。だから、レオルドは自分の体型のことすら頭から抜け落ちていた。
とにかく忙しかったので、自分が痩せているかどうかなど確認していなかったのだ。鏡すら見ている暇も惜しかったので、レオルドは客観的に自分を見る機会は無かった。
だが、今オリビアによりレオルドは自分の身体を見下ろした。確かに言われてみれば、中年オヤジのようだった下っ腹は凹んでおり、顎と首の肉が同化して顎が無くなっていたのが元に戻っている。
ただ、まだレオルドは同年代の平均体重に比べたら重い。しかし、その重さは何も脂肪が原因というわけではない。レオルドの努力の証である筋肉だ。
「こうしてはいられません! レオルド! 服を買いに行きましょう!」
(あ〜、今繋がった。父上が言っていた言葉の意味はこういう事だったのか)
なるほどとレオルドは納得した。ベルーガが王城で伝えてきた言葉の意味はこういう事だったのかと理解する。
恐らく、断る事など出来ないだろう。こういう時の母は強い。決して首を横には振らないだろう。何せ、二ヶ月ぶりに帰ってきた愛息子とのショッピングだ。オリビアがこの機会を逃すはずがない。
「わかりました。ですが、先に荷物を片付けておきたいのですが」
「それなら、使用人に任せればいいわ」
オリビアの指示により使用人達がレオルドの荷物を奪い去って行く。レオルドは少し休みたかったが、母親の願いは無下には出来ない。
護衛としてギルバートとバルバロトをレオルドは指名してオリビアと共に街へと向かう。残されたイザベルは何故自分も連れて行かなかったのかと、恨めしそうに睨んでいたがレオルドは無視した。
馬車の中でオリビアは二ヶ月ぶりに会うレオルドへ楽しそうに会話をしていた。
「聞いたわ、レオルド。貴方、伝説の転移魔法を復活させたんですってね。凄いわ! やっぱり貴方は自慢の息子ね!」
「ッ〜……ありがとうございます」
古代遺跡での出来事を思い出してしまうレオルドは母親からの賛美に思わず泣いてしまいそうだった。
「あら、どうしたの?」
「いえ、何でもありません。それよりも母上はいつからその事を?」
「貴方が陛下に報告した時には聞いたわ。ベルーガから教えて貰ったの」
「そうなんですね」
「そうなの。それよりも、気になるのだけれど転移魔法はどこまで使えるの?」
「残念ながら私は使えませんよ。魔法陣を用意すれば使用は可能でしょう」
「あら、残念。レオルドが使えるのなら、これでいつでも会えると思ったのに……」
「ははは、仕方ありませんよ。ですが、私が使った転移魔法陣は王都の近くにある古代遺跡からゼアトの近くにある古代遺跡へと繋がっていますから、今までよりは近くなったと言ってもいいですね」
「まあ! それは本当かしら?」
「え、ええ。本当ですよ」
「良かった。これで、レオルドに会いに行こうと思えばすぐに行く事が出来るのね。それって素敵な事だわ」
手を鳴らして喜ぶ母親にレオルドは顔が綻ぶ。今まで悲しませた分、自分という屑人間にも無償の愛を注いでくれた母には笑顔でいて欲しいとレオルドは願ったからだ。
「じゃあ、次はお嫁さんね!」
「へあっ!?」
「何をそんなに驚いてるの?」
「その嫁と言うのは私には良いかと……。ほら、私が婚約破棄をしたのは元婚約者を襲ったという理由がありますから……」
「そうね。でも、それは未遂で終わっているでしょ。それに、貴方が成した事は国だけでなく世界的に見ても偉大な功績だと思うの。だったら、多くの人は貴方を放っては置かないでしょうね。そうしたら、沢山の縁談が届く事になるから、無視なんて出来はしない。だから、選ぶしかないの」
「それは……そうなのですが……」
「何か嫌なの?」
「……実は父上とも同じ事を話しました。一応は父上がお断りしたそうです」
「そうなのね。でも、まだ何かありそうだけれど?」
「……どうやら、殿下から縁談の話があるそうです」
「それは、まあまあ!」
父親とは反対の反応を見せる母親にレオルドは絶望しか無かった。どうやら、オリビアは乗り気なようだ。このままではシルヴィアの思惑通りになってしまう。それだけは阻止せねばならぬと、レオルドは拳を握り締める。
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