第90話 回る回る世界はくるくる
リヒトーのレオルドへの疑いも晴れて、ようやく王都へと戻る事になった。五度目の転移にレオルドは慣れたもので、眩い光も今では転移する楽しみだと微笑んでいた。
王都の近くにある古代遺跡へと戻って来た四人は王城へと戻る。
王城へと戻ると、待機していた騎士や国王の帰還を待っていた貴族達は大層驚いた。王城から出て行って僅かな時間で戻ってきた事に。
本当に転移魔法が存在していたのかが気になる貴族達は国王の報告を待つ。
「では、これより結論を述べる! 此度の古代遺跡の発見並びに失われし伝説の魔法。転移魔法の存在。しかと見届けた。故に私は断言しよう! 失われた伝説の転移魔法はこの日、この時を以て復活したと!!! レオルド・ハーヴェスト! お前の成した功績は国の、いや、世界の歴史に残る偉業と言えよう。私は誇りに思う。お前を臣下に持てたことを! お前には後ほど、此度の功績に応じた報酬を支払おう。王家の威信にかけて、必ずや相応しいものをな」
「はっ! 有り難き幸せにございます!」
「うむ。では、これにてレオルド・ハーヴェストの謁見を終わりにする」
この日、多くの貴族が耳にした。失われた伝説の転移魔法がレオルド・ハーヴェストの手によって復活したと。王都は湧き上がる事になる。歴史的偉業を成したレオルドに。
そして、この朗報は人から人へと伝わり、遠く離れた地にいる、とある人物にも伝わる事になる。
「レオルド・ハーヴェスト……うふふ。まさか、先を越されるなんて〜。是非ともお話を聞きたいわ」
人が立ち入ることはしない奥深くの森の中にひっそりと佇んでいる家にいた女性は、レオルドの名前を口にして
ここでひとつ思い出して欲しい。レオルドが危惧していた事を。
レオルドは転移魔法を復活させると、とある人物が出てくる事を示唆していた。
そう、世界最強の魔法使いを。
こうして、世界最強の魔法使いは動き出す。自身が研究していた転移魔法を先に復活させたレオルドに興味を抱いて。
レオルドはまだ知らない。自分が世界最強の魔法使いに目をつけられたことを。レオルドは忘れていた。ゲームではなく現実だと言うことを。
そして、世界最強の魔法使いだけではなく世界が動き出した事をレオルドは予想もしなかっただろう。人の口に戸は立てられない。
転移魔法の復活は王国に隣接している帝国にも伝わっていた。民から貴族へ貴族から皇家へ、そして皇帝に。
真偽を確かめるべく皇帝は動き出す。王国へと皇帝は諜報員を送り込んだ。
さらには、帝国を挟んである聖教国。王国が転移魔法を復活させたという一報を聞いて、聖教国の支配者である教皇も動き出した。
レオルドを巡って水面下で三つの国が慌ただしく動いている事にレオルドは気が付かない。何せゲームには無かった話だから。
ゲームだと主人公とヒロイン達が褒美を与えられる事になっていたので、レオルドもその程度だろうとしか思っていなかったのだ。
そして、もう一人忘れてはいけない人がいる。誰よりも早くレオルドに興味を抱いていた
「非常に不味いです。このままだと、レオルド様は確実に誰かに取られてしまいますわ! それに今レオルド様は婚約者もいない。そして、今回の転移魔法の復活という歴史的偉業。これだけの功績があれば過去の罪など帳消し所かお釣りが来ますわね……! お父様にご相談しなくては!」
善は急げとシルヴィアは早速レオルドを手中に収めるために奔走する。
しかし、既に国王も動き出していた。恐らく各国が動き出すであろうと予測しており、レオルドを他国に取られてはならないと囲い込む気でいた。
「さて……レオルドについてだがどう思う?」
「そうですな。やはり、おかしな点が多いでしょう。古代遺跡の発見までは偶然という事は考えられますが、転移魔法は文献もほとんど残っていない代物。だと言うのに、彼は転移魔法を復活させてみせたと言うではありませんか。これは、どう見ても怪しいです。背後に誰かいるのかもしれません」
「ふむ。やはり、そう思うか。だが、何かを企んでいるようには思えない。むしろ、好意的に見える。尤も、それら全てが演技だと言うのなら賞賛すべきであろうな」
「笑い事ではありませんぞ。もしも、帝国、もしくは聖教国と秘密裏に繋がっていたとしたら、彼はとんでもない事を仕出かしたのですぞ」
「そうだな。しばらくはレオルドに監視を付けておこう。それと、報酬についてだが爵位を与えようと思う」
「それが妥当でしょうか。とは言っても転移魔法の復活だと相応しくない気がしますが……そもそも、転移魔法を復活させた功績に相応しい報酬は少々難しいですな」
「うむ……爵位だけではなく領地も与えるか。それから、転移魔法が今後普及すれば転移魔法がもたらす利益をレオルドにも渡すと言うのはどうだろうか?」
「それならばよろしいかと。しかし、問題は爵位と領地をどうするかですな」
「その点については、問題ない。現在、レオルドはハーヴェスト公爵領であるゼアトをベルーガの代わりに治めている。だから、そのままゼアトをレオルドに譲渡させれば問題ないだろう」
「なるほど。確かにそれならば、誰も文句は言わないでしょうな」
生き残る為に必死なレオルドはいずれ思い知る事になる。自分はとんでもない事をしてしまったと。そして、極めて面倒な事になった事を。
果たして、レオルドは生き残ることが出来るのだろうか。
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