第78話 うち、ブラックだけど働いてくれる?

 一先ずレオルドは、バルバロトに頼んで雑用係になっている騎士を呼んでもらう。集まった雑用係の騎士は五人。

 ゼアトに駐屯している騎士団の数は二百人だ。それに対して五人と言うのは少ないように思えるが、今は関係の無いことなので話を切り出した。


「早速だが、君達に尋ねたい。この中で文官になりたい者はいるか?」


 レオルドの問いに五人はお互い顔を見合わす。どう答えればいいのか分からない表情だ。いきなり文官になりたいかと言われても、騎士を辞める訳にはいかない。

 だから五人は、答えることが出来ずにお互いの顔を見合わせていた。


(うーん……反応がよろしくないな。やっぱり、俺の部下にはなりたくないのか)


 自己評価が低いレオルドは自分の部下になりたくないと勘違いをしていた。

 しかし、ゼアトの騎士団はレオルドの事を高く評価している。モンスターパニックでは最前線で戦い、一人の犠牲者を出さずに終息へ導いた事から、騎士団から厚く信頼されている。


「あの、何故自分達なのでしょうか?」


 五人のうちの一人がおずおずと手を挙げて、レオルドに尋ねた。


「ふむ。正直に言うと人手不足なのだ。それと、騎士団の改善をしようと思っている。まあ簡単に説明すると、騎士団へ雑用をこなせる人材を派遣しようと思う。そもそも、ゼアトに駐屯している騎士団は二百人だ。その人数を五人で支えるのは厳しいだろう」


「それは有難いのですが……給金は出ませんよ? 我々は騎士として給金を頂いておりますが、領主様が派遣なさる方々には騎士団は給金を払わないと思いますよ」


「ああ、だろうな。だが、安心しろ。俺が出す」


「ええっ! 領主様が自らですか!?」


「うむ。そうでもしないと騎士団の雑用など誰もやりたがらないだろう」


「そうですけど、良いのですか?」


「勿論だ。それに、今は俺がゼアトの全権を握っている。騎士団への介入も可能だ。あとは俺が書類を纏めておこう。で、だ。この話を聞いたお前達は文官にはなりたくないか? その……言い方は良くないが、お前達は家督を継げない貴族の三男、四男と言った立場の弱い人間だろう。悪い話では無いと思うのだが……」


 レオルドも言ってて気まずくなったのか、五人から目を逸らすように話を続けた。このような言い方では色良い返事など貰えないだろうと、頭を搔く素振りを見せる。


「すまない。やはり、無かったことに――」


「やります。いえ、やらせてください」


「えっ?」


 しばらく沈黙が続き、レオルドは諦めて話を終わらせようとした。しかし、雑用係の一人が文官になりたいと立候補したのだ。

 驚くレオルドは思わず聞き返してしまう。


「い、いいのか? 俺が言うのもなんだが、文官は大変だぞ。毎日、書類の山に追われるようになるんだ。正直、辛い仕事だ。別に無理はしなくてもいいんだぞ?」


「勧めておいて、何を戸惑ってるんですか……」


「うるさいわ、イザベル! それで、もう一度聞くが、本当にやってくれるのか?」


「はい。自分は確かに剣の才能が見込めず、雑用係をずっとやっていました。だから、何も出来ない自分が嫌で仕方がありませんでした。だけど、レオルド様の下で文官を務める事が出来たなら、こんな自分でも人に、家族に誇れると思ったのです!」


(しっかりとした意見ですわ! ただ、やる気だけあってもダメなんだよなぁ。自分から言っといてなんだけど、試験が必要だな)


 人柄は確認できたが能力は分からない。なので、レオルドは立候補した者に試験を受けさせる事にした。

 さすがに公爵家の領地であるゼアトを取り仕切る文官を口頭で選ぶのは不味い。レオルドの判断は正しいと言えるだろう。


 一人が立候補したおかげで残りの四人も立候補してくれて、レオルドは大満足である。ただ、彼等に務まるかどうかは試験次第だ。

 一旦、帰宅したレオルドは試験問題を作成して後日五人に受けさせる事にする。


「レオルド様。騎士団の雑用係を採用するのは分かりましたが、騎士団の雑用をする人材はどこから派遣するのです?」


 当然の疑問をレオルドにぶつけるイザベル。レオルドはニヤリと口角を上げて答える。


「その事なんだが、イザベル。お前には新しく雇った使用人と一緒に騎士団へと行ってくれ。ある程度、新人の育成が終わったらこちらに帰還して欲しい」


「は? レオルド様。私は姫様からレオルド様の下に就くように言われましたが、そこまでする義理はありませんよ」


「お前以外に適任がいない。それに暑苦しい男連中の所にも花は必要だろう」


「まさか、私を性欲の捌け口にするおつもりですか?」


 自身の身体を両手で抱きしめるイザベルはか弱い乙女のように震える。しかし、レオルドはイザベルなら返り討ちにするだろうと確信しているので心を痛めない。


「お前なら問題ないだろう。ただ、他の者は確かに危険な目に遭うかもしれんな。騎士は貴族が多いから権力で物を言わせてくる輩もいるかもしれん」


「レオルド様みたいにですね」


「そうそう……ってやかましいわ!」


「見事なノリツッコミでございますわ」


「ありがとう。まあ、その一点が心配だがお前が上手くやってくれ」


「お断りしても?」


「なら、殿下に報告してお前を王都へと送り返す。こちらもお前が王家直属の諜報員だと言うことは知ってるしな」


「……侮れない御方ですね。分かりました。このイザベル、レオルド様の命令に従い騎士団の改善を試みましょう」


「よろしく頼む」


「ちなみに見事成し遂げた暁にはご褒美はあるのでしょうか?」


「その一言が無かったら考えたのになー!」


「私としたことがうっかりしてましたわ」


 イザベルはレオルドの命令に従い、数人の使用人を連れて騎士団へと向かった。

 レオルドはイザベルがいなくなったのを見て、マル秘ノートへと筆を走らせたのである。

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