第64話 恋は交通事故みたいなもんよ

「ふんふふ~ん」


 シェリアは王都でも有名な商店街を回っていた。とてもご機嫌らしく、鼻歌を歌いながら道を歩いている。

 なにせ、レオルドからお土産代と称してお金を貰ったから。


「あっ! このお菓子、新作だ! 美味しそう~」


 商店に並べられているお菓子を見つけては、足を止めて吟味するシェリア。シェリアに限らず、多くの人がお菓子を見ている。どうやら有名なお菓子のようだ。


「うう~ん。どれにしようかな~?」


 あれもいいな、これもいいな、とシェリアは贅沢な悩みに頭を捻る。

 レオルドから渡された金額は、ゼアトの屋敷に勤めている使用人、バルバロトの土産を買っても余るほどある。

 本来なら無駄使いはダメなのだが、シェリアはレオルドが絶対に怒らないであろうという確信がある。


 だから、悩みに悩んだシェリアは少しだけ欲を出した。自分の分を多めに買ったのだ。


 これで用事は済んだと、シェリアは満足してレオルド達の元へと帰る。

 だが、ここで問題が発生する。シェリアが帰ろうとしたら、目の前を三人組の男に塞がれてしまう。


 ニヤニヤと厭らしい笑みを浮かべてシェリアを見る三人組は、一歩ずつシェリアへと近付く。


「な、なんですか、貴方達は?」


「ああん? 使用人風情が口の利き方がなってないんじゃないのか~?」


「えっ!」


「俺は男爵家の三男だぞ。お前のような使用人など、父上に言えばどうとでも出来るんだからな~」


「わ、私はハーヴェスト公爵家の使用人です! そちらこそ、誰を相手にするか考えた方がいいと思いますよ!」


「へえ~。それが?」


「それがって!? 聞いていなかったんですか! 私はハーヴェスト公爵家の――」


「でも、お前は所詮使用人だろ?」


「っ……」


「別に取って食おうってわけじゃねえんだよ。ちょっと、俺らと遊んで欲しいだけなんだ」


 三人の厭らしい視線は先程からシェリアの胸や足に向けられている。シェリアもその視線に気が付いているから、どうにかして逃げられないかと必死になっている。


 人通りが多いのにも関わらず、道行く人々は見ても助けはしない。誰も厄介事には関わりたくないのだ。

 しかも、三人組が着ている服は庶民ではなく貴族が着るような上等なものに見える。下手に首を突っ込めば、どうなるかわかったものではない。

 それ故に、見てはいても誰も助けはしない。


「なあ、おい。俺らが優しくしてるうちに来ればいいんだよ。わかってんのか?」


「うっ……」


 三人組はシェリアの態度に苛立ち始めている。シェリアは助けを求めるように通行人に目を向けるも、皆目を逸らしてしまう。

 誰も助けに来てくれないと分かり、シェリアは恐怖に染まり震え始める。


「ああ、言っとくけど、悲鳴をあげようもんなら俺達なにするかわからねえから」


「ひっ!」


 最早逃れる術はない。絶望に頭が真っ白になるシェリアは泣きたくなった。

 さっきまで楽しくお土産を選んでいて、帰ったらお菓子を食べようかとワクワクしていたのに、どうしてこんなことになるんだと。

 こんなことなら、祖父であるギルバートと一緒に来ればよかったと、後悔するシェリアであった。


「おい、何をやってるんだ!」


「あ?」


「え?」


 もう諦めかけていたシェリアの耳に救いの声が聞える。

 シェリアに絡んでいた三人組は突如声を掛けてきた人物に振り向く。


「誰だよ、お前。今、いいところなんだから邪魔するなよ」


「そうなのか?」


 三人組に声を掛けたのはジークフリート。運命48の主人公であった。正義感の強いジークは、怯えているシェリアを見掛けて助けずにはいられなかった。


「ち、違います! この人達が無理やり――」


「ああっ!? てめえ、何言ってんだ!」


「ひっ!?」


「おい! 彼女が怯えているだろ! 女の子一人に寄って集って恥ずかしくないのか!」


「うるせえよ! お前、俺が男爵家の三男だって知っても同じこと言えるのか!」


「男爵家? それがなんだ? 偉いのは親父さんであってお前は偉くないだろ。それに、俺も男爵家の人間だ」


「なぁっ!? 口からでまかせ言ってんじゃねえぞ! どうせ、その辺の平民だろうが!」


「嘘じゃない。俺はジークフリート・ゼクシア。ゼクシア男爵家の嫡男だ」


「えっ! ゼクシアだと!?」


 ゼクシア男爵と言えば今は有名な貴族だ。何せ、ジークが学園で行われた決闘でハーヴェスト公爵家の嫡男であるレオルドを倒したことで一躍有名となった。


「お、お前がジークフリートだと……」


「ああ、そうだ」


「あ、う……くそ! おい、行くぞ!」


 流石に分が悪くなったのか三人組の男達はジークから逃げるように立ち去った。ジークは三人がいなくなったのを確認してから、怯えて動けないでいたシェリアの元へと近寄る。


「大丈夫だったか? なにかされてないか?」


「え、あ、だ、大丈夫です! あの、助けていただきありがとうございます!」


「別にお礼なんていいさ。放っておけなかったからな」


「ほんとにありがとうございます! あのままだったら、私どうなっていたか……! せめて何かお礼をしたいのですが! あっ、よかったらこのお菓子受け取ってください!」


 シェリアは助けてもらったお礼にと、後で食べようかと買っておいたお菓子をジークに渡す。押し付けられるように渡されたジークは返すのも悪いと思って素直に受け取る。


「あっ、さっきの奴らがまた来るかもしれないから、俺が一緒にいようか?」


 心強い一言に、窮地を救ってもらってときめいているシェリアには断る理由がなかった。二つ返事で了承すると二人で歩き始める。


 こうして数奇な運命は絡み始める。運命48の主人公ジークと、既に運命48の物語から姿を消したレオルドが再び出会う時は近いかもしれない。

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