第27話 炸裂、ライトニングーッ!

「ライトニング――!」


 レオルドが放った魔法はもっとも得意とする雷魔法だった。

 空を引き裂き一条の雷光が迸る。空気と言う名の絶縁体を破壊した雷撃はワイバーンの頭部を貫いた。


 一撃で絶命したワイバーンは一切の断末魔を上げることなく地面へと落ちていく。その際に捕まえていたシェリアを落とした。


 シェリアはギルバートの孫娘ではあるが、ギルバートと違い唯の一般人なので十数メートルもある高さから落ちればひとたまりもない。


「きゃあああああああっ!!!」


 落ちていく恐怖に絶叫するシェリアだったが、フワリとギルバートに抱えられて無事に地上へと帰還する。

 無事に生きて戻る事が出来たシェリアは恐怖から解放された喜びに泣いてしまう。


「ふぇ……お爺ちゃあああああああああん!!!」


 えんえんと赤子のように泣き声をあげるシェリアをギルバートは優しく頭を撫でる。


「すまなかった。いらぬ苦労をかけてしまったな」


「うぇえええ……んぐっ……うっ……うぅ」


 安堵に加えて泣き疲れたシェリアはギルバートの腕の中で眠りに着いた。死ぬかもしれないという極度の恐怖状態にあったのだから無理もない。


 ギルバートは眠ったシェリアを抱えたまま、大の字に寝転がっているレオルドの所へと向かう。


 レオルドは見事に魔法を当てることが出来た喜びと、ぶっつけ本番に失敗は許されない状況から解き放たれた事でへなへなと力が抜けてしまっていた。

 だから、今は大の字になって空を見上げるように寝転がっている。


(よかった……よかった~~~! もう本当によかった……! シェリアも無事でワイバーンも倒せた! 最高の結果だ!!!)


 満足どころか最高の結果にレオルドは最上の喜びに震えていた。

 失敗したらどうしようかという不安な気持ちもあったけど、終わってみればどうでもいい。誰一人欠けることなく無事だったのだから。


 寝転がっているレオルドの所へギルバートが近付く。足音に気がついたレオルドは首を足音の方へと向ける。


「坊ちゃま。この度は我が孫娘シェリアを救って頂き誠に感謝を申しあげます……!」


「良い。気にするな。俺は当然のことをしたまでに過ぎん。それに、俺のような人間に付いてきてくれた数少ない部下なんだ。助けるのが主というものだ」


「坊ちゃま……! ご立派になられて……」


「立派じゃないさ。ようやく貴族としての責務を果たせただけだ。民を導き、守護してこその貴族だからな」


「おお……坊ちゃま……」


「だから、これからも俺のことを支えてくれ。ギル。頼りにしているぞ」


「この命尽きるまで私は坊ちゃまを支え続けましょう!」


(相変わらず重たいな~。まあ、でも今はいいか……)


 心地よい風がレオルドの火照った体を癒す。あまりの心地よさに眠ってしまいそうになるが、レオルドは体を起こしてギルバートに命令を出した。


「ギル。今日はシェリアに付いていてやれ」


「し、しかし、私は坊ちゃまの執事です。孫は他の誰かにでも看病を任せれば――」


「ギル。あのような目に遭ったのだぞ。赤の他人より肉親が側にいた方がいいだろう。それにギルなら安心もするしな」


「そ、それでは誰が坊ちゃまを守るのですか!」


「俺の事は気にするな。もうワイバーンが襲ってくるような事もないだろう。それに、お前も俺の魔法を見ただろう? 仮令(たとい)、賊が襲ってこようとも返り討ちにしてくれる」


「ですが――」


「これは命令だ、ギル。今日はシェリアの側にいろ。わかったな?」


「……はい――ありがとうございます、坊ちゃま」


 ギルバートはシェリアを抱えて屋敷の中へと戻っていく。レオルドの耳はギルバートが去っていく際に感謝の言葉を述べていた事をしっかりと聞いていた。


「ふっ……さてと、崩れた壁の補修作業でもやってみようかな。土魔法の練習になるかもしれないし」


 呑気な態度でレオルドは崩れてしまった壁の方へと歩いて行く。

 崩れた壁の所には使用人たちが見物客のように集まっていた。レオルドが近付くと、使用人たちはどうしようかと戸惑って動けないでいる。そこへレオルドは使用人たちに命令を出す。


「怪我をするといけないから、お前達はいつもの作業へと戻れ。この辺りを担当していた者は他の所へと移動して手伝うように。それと、崩れる危険もあるからここへはなるべく近付かないようにしろ。わかったら返事!」


『は、はい!』


 戸惑っていた使用人達はレオルドの命令に従い、各々の作業場へと戻っていく。残ったレオルドは瓦礫をどう撤去しようかと悩む。


(う~ん。土魔法で分解できるか? でも、木も混ざってるから難しいかな? 火属性が扱えてたら木は燃やして土は分解とか出来たんだけど、ないものねだりしても仕方がないか)


 とりあえずレオルドは瓦礫の撤去を諦めた。そこで、次に何をしようかと考えた時ワイバーンの死骸が視界に映る。


(そういえば、ワイバーンって何の素材になってたっけかな? 確か、装備品とか作れた気がするんだけど思い出せないな~)


 ワイバーンから取れる素材で何が作れたかを必死に思い出そうと頭を悩ませるレオルドだったが、結局何も思い出せなかったのでワイバーンの死骸を一箇所に集めるだけにした。


 運命48ではワイバーンから取れる素材で防具を作る事が出来る。鉄に比べれば硬さはないが、軽い上に伸縮性のある丈夫な皮は防具として性能が高い。


 ただ、レオルドはすっかり忘れてしまったのでレオルド用の装備が作られる事はない。悲しきかな。思い出しさえすればワイバーンの皮を使った高性能な防具が手に入ったというのに。


 こうしてゼアトにワイバーンが三頭も侵入してしまったが、犠牲者を一人も出さずにワイバーンの討伐は幕を閉じた。

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