第6話 図書室に行こう

 先ずはこの世界についての知識を得ようと考えたレティシアだったが、5歳の幼女があれこれ聞きまわるのも不自然だと思い、基本的には図書室の蔵書を片っ端から読むことを考えていた。


 そこで一つ問題がある。

 彼女は既に文字は覚えているし、ある程度は文章も読めるが……当然ながら、難しい単語はまだ分からない。

 なので、先ずは言葉を覚える必要がある。

 ある程度分かるようになれば、あとは辞書で調べるなどしながら読めるようになるだろう。


 家庭教師をつけてもらうことも考えたが、あまり親に負担はかけたくないと彼女は思った。

 モーリス家は大貴族だから、その程度は大した負担ではないし、そもそもレティシアが言い出さなくてもそろそろ家庭教師を付けようか……と両親は考えてたりするのだが。

 その辺の感覚はまだ前世の意識を引きずっているようだ。


 とにかく、先ずは簡単な絵本などから始めて、分からない言葉が出てきたらエリーシャに聞いてみる…………と言うような流れをレティシアは考えていた。









「エリーシャ、お願いがあるんだけど……」


「はい、何でしょうか」


 今後の指針を決めて行動を開始しようとしたレティシアは、早速エリーシャにお願いする。


「あのね、私、本が読みたいの」


「まあ…………それでしたら、図書室からいくつか持って参りますね」


 前世の記憶を思い出す前のレティシアは邸中を駆け回るような活溌な娘で、あまり本などは興味なかった。

 なのでエリーシャは彼女が「本を読みたい」と言ったことに多少驚いたが、特に断る理由もないので快く彼女のお願いを了承した。


 図書室の場所はレティシアも知ってるので、一人で勝手に持ち出しすることも可能だが、こうして誰かと一緒に行動する方が自然と彼女は考えている。


 そんなふうに、あくまでも自然に見えるようにしようと考えているあたり、レティシアは前世の記憶があることは自分だけの秘密にする……ということにしたようだ。




「できれば自分で選びたいの。だから、一緒に図書室まで来てくれる?」


「はい、もちろんです。では行きましょうか」


 出来れば、自分が読んでも不自然ではない範囲で、なるべく難しそうなものを選びたいのだ。














「お嬢様がお読みになる本だと…………この辺りですかね。リュシアン様がご幼少の頃に揃えられたものです」


 図書室にやって来て、エリーシャが子供向けの本が収められている書架を教えてくれた。

 適当に抜き出してパラパラとページをめくって見る。


(う〜ん……私の年齢だと絵本なんだろうけど、挿絵ばかりで文が少ないのは目的から外れるよね……でも、ある程度は絵があった方が言葉の意味も分かりやすいかな……)


 そう考えながら物色していくと、ひとつ気になる本があった。


「ああ、それはこの大陸に伝わる神話を子供向けの絵本にしたものですね。ちょっと、まだお嬢様くらいの年齢だと難しいかもしれませんが……」


 確かに、挿絵はふんだんに使われているが、文章もそれなりに分量が多いので、5歳児が読むには早い気はする。


(でも、神話って文化に根ざしてるものだし、この世界のことを知る第一歩としては相応しい気がするね)


 そう考えたレティシアは、その本を読むことに決めた。


「私、これにする!」


「分かりました。難しいところがあれば私に聞いてくださいね」


「うん!」


 もとより彼女はそのつもりである。






 そして、その他にもいくつか本を選んでから自室に戻るのだった。



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