蛇の呪いをかけられたので解呪の為に全力で王位を狙います

蜜柑缶

第1話 プロローグ

「ハァーッハッハッハッハッ!!やってやったぜ!これでまた俺の力が世に示されるってもんだ!!」

 

 ゴドウィンの血みどろになりながら悦にいっての高笑いで気がついた。

 

 お前は魔王か!

 

 小高い岩の上に立ち握りしめた剣はかの有名な『魔獣殺しビルギスタ』だ。伝説によると炎龍ファイヤードラゴンをも討ち取ったとされ、龍殺しの剣とも言われている、らしい。

 

「いいから早く額の魔石を取り出しなさい」

 

 エミリオが意識を失ってマントをかけられていた私に着替えを渡してくれながらいつもの美しい顔を歪ませゴドウィンを急かす。

 

「わかっている、任せろ」

 

 ひとしきり勝利に酔った後、ゴドウィンはさっき倒されたばかりの巨大な蛇の頭部の三つ目と言われる額の真ん中にある赤い石を剣でほじくり出した。既に事切れていた蛇はピクリとも動かず取り出された跡からはダラリと一筋血が流れ出す。

 

 この蛇はただの蛇では無い。胴回りは大人二人がかりで手を広げたほどもあり全長はどれほどか。持ち上げた鎌首は大岩のようでその口から伸びる牙は人体を軽く貫くだろう。

 

 取り出された赤い魔石をこちらに放り投げるとエミリオが受け取り血にまみれたそれを丁寧に拭うと金の鎖のネックレスにつけられた小さな籠にそれを入れた。

 蛇の魔石が入ったネックレスを渡され解呪に一歩近づいた気がして少し気が緩んだ。

 

「まず一つ目ですね」

 

 そう言ってエミリオは頷き優しく微笑んだ。

 

「そうね、もうこんな所に用はないわ」

 

 ゴドウィンが血だらけの顔を拭い三本のポーションを駆使して傷を治し破れてボロボロのマントを羽織った。ここまで着てきたシャツはどこかへ行ってしまったようだ。

 

「とにかく酒だ。早く酒を入れに行こうぜ」

 

 彼の言葉にエミリオが鼻にシワを寄せる

 

「酒は入れるものではない。味わうものです」

 

 疲れ切っていたエミリオもポーションを使い回復した。

 私も渡された服を着てフラフラと立ち上がると散らばった荷物を集め大きく息を吐いた。

 

「じゃあ行きましょう。近くの街までどれくらいだっけ?」

 

 私の問に疲労して顔色の悪いエミリオがため息をつきながら答える。

 

「四日ほどですね……最短で」

 

 ……生きてたどり着くかな。

 

 ここは深い森の中、人が足を踏み入れない奥地にポッカリと現れた岩石地帯の巨大な洞窟の中だ。深い穴の中は暗く、あちこちにエミリオが魔石を使った簡単な魔術具で明かりを取っていた。

 これまでいずれ統治すると思っていた領内にこんなところがあるとは知らなかったが、今はそれどころではない。

 

 炎蛇えんだと呼ばれる火を吹く種のいる巨大蛇オロギラスを倒す為にここまでやってきた。横たわる巨体に今更ながらよく殺れたと思う。

 

「牙は取った?」

 

 オロギラスを倒したあかしはその牙だ。牙の大きさで本体の大きさがわかる。良質で貴重な素材でもあるその牙は大きければ大きい程高値で売れるしどれほどのモノを倒したかでその者の腕前が優れているかがわかる。

 

 ゴドウィンは取り忘れていた為、慌てて引き返した。

 先程額の目から魔石をほじったばかりの鎌首の口を大きく開かせるためそこらの岩を噛ますと牙を手で握り根本からへし折った。二本目も軽く折ると何とか形を保っていたマントで包みロープで括り付け自ら背負った。

 

「よし、今度こそ忘れ物は無いわね」

 

 ポーションを使ったものの、まだフラフラの私は二人に支えられながらデコボコとした岩場を進み洞窟を出た。

 

 急がなきゃ四日じゃ着かないな。

 

 日が傾き始めた空を見上げてやっと呼吸が出来た気がした。薄っすらと透きとおるような蒼さの下弦の月が空に浮かんでいる。

 

 まだ一匹目だ、先は長い。

 

 

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