第84話 才能って残酷だよね
「はぁ……」
何度目のため息だろう。アイナの前ではいつも通り適当なおっさんを演じているが、自室で一人になるとため息しか出てこない。レベル上限に到達したら進化なりするかと期待していたが、やはり期待通りにはいかなかった。端的に言えば、俺のステータスは打ち止めなのだ。スキルレベルは上がるだろうが、ステータスというある種の絶対的な数値が低い時点でこれから先の戦いはかなり厳しいものになる。
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レベル:30/30
種族:ヒューマ
基礎魔力:C+
基礎物理攻撃:D
基礎物理防御:D
基礎魔法攻撃:C-
基礎魔法防御:D+
基礎俊敏:C-
スキル:剣術Lv.4 槍術Lv.4 斧術Lv.4 棒術Lv.4 鎌術Lv.4 槌術Lv.4 体術Lv.4 身体強化Lv.7 呪い耐性Lv.2 痛覚耐性Lv.4 魔法陣Lv.7 錬金術Lv.7 魔力操作Lv.7 気配探知Lv.8 隠密Lv.8 料理Lv.2 言語理解 生活魔法
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これが俺のステータス。伸びの良かった魔力でさえBに到達しなかった。スキルも上がらなくなってきた。身体を使うスキルは4止まり。魔力を使うスキルは7で止まった。何となくだが、これが俺の限界だという自覚がある。
「ふっ、何とかなるさ」
などと明るく言ってみるが、気持ちは晴れない。正直、自分の限界を目で見て確認できるってのがこんなにキツイとは思ってなかった。ファンタジー世界に転移するという非現実的な現象を体験したのだから、才能を努力で覆すことができると思っていた節があった。いや、そう思い込もうとしていたんだろう。
「ファンタジー世界でも才能が必須か……。やっぱ人生ってクソゲーだな」
ファンタジー世界でも現実ってことか。環境と才能で人生決まるもんな。さて、どうすっかね。
「アイナに相談……はダメだな。無駄に心配かけさせるわけにはいかねぇし。となると、可能性はファンタジーか」
地球と違うところ、それはこの世界にスキルがあるということ。細かい理屈など鼻で笑うような奇跡の御業に頼るしかない。俺は作業台の前に立って、この世界に来てから一番真剣に自身の欲しいものを思い浮かべる。
「クッ、格下が格上に勝つ方法なんて古今東西決まってるよなぁ?」
俺は皮肉に笑いながら、これからのために準備をしていった。
翌朝、張り切ったアイナに叩き起こされてダンジョンに向かう。
「今日は30層のエリアボスを倒すわ。九城さんのパーティは27層。突き放すわよ」
爽やか君のパーティは4人。爽やか君とイケおじ、髭熊、門番君だ。男ばかりで実にむさくるしいパーティだ。アイナはこの期間のうちにグループ全体と仲を深めることができたようで、俺の部屋に入り浸る頻度は減った。少し寂しい気もするが、子供が独り立ちするのだから応援するのが親の役目だろう。俺も子離れせねばならない。
「あんまり急いでも意味ないだろ。何時かは合流するのだろうし」
「……知らないわ」
わかっているだろうに。アイナがどれほど強くても一人では限度がある。俺はどんどん行く立たずになっていくし、同格の仲間は必須だ。アイナも爽やか君以外とは普通に話せるようになったのだから、妥協してほしいものだ。
そんなやり取りをしてから俺とアイナは28層に向かう。アイナは気が急いているようで、いつもより早く家を出たため人影は少ない。
「いつも以上に暗いわね」
「そりゃ早かったからな。しかも階層を下るごとに木が増えてるっぽいしな」
21層からは森林エリアだった。最初こそ整備された公園くらいの木しか生えていなかったが、段々と鬱蒼とした森に変貌していった。現在は今にももののけが出てきそうな雰囲気だ。命を吸い取られるかもしれない。
「何をぼーっとしているのよ。早く行くわよ」
「エリアボスは逃げねぇから落ち着けって」
「九城さんたちは迫ってきているじゃない」
そんなに爽やか君が苦手か。頭と人当たりはいいし真面目過ぎるから驚かすのは楽しいぞ。爽やか君も俺みたいに適当に流せばいいものを、能力があるから真面目に考えちゃうんだなぁ。難儀だ。
28層までは昨日行ったので道のりは判明しているし、28層も宝箱探しで歩き回ったので階段の位置もおおよそ把握している。なので、あっさりと29層に到達できた。階段を降りてすぐの洞窟内の広場には何組かパーティが既にいた。恐らくここで寝泊まりしているのだろう。
「そこの2人。見ない顔だな」
お? なんか話しかけられたぞ。なかなか渋いおじさんじゃないか。イケおじとは別ベクトルで格好いいじゃん。おれもこんなおじさんになりたいぜ。
「何か御用でしょうか?」
「ここに初めてきた奴にはできるだけ忠告しているのさ。30層のエリアボスは2種類いる。片方は普通の敵だが小高い丘の上にある階段には入るな。あそこのエリアボスは異常に強い。しかもトラップまである。仲間を死なせたくないなら絶対に行くんじゃないぞ」
意味深なことを言うおじさん曰く、昔の意味深おじさんのパーティは意味深おじさんを残して全滅した。そのトラップというのはパーティの内1人を隔離するもので、そのトラップに囚われたからこそ生き残れたそうだ。
「あら、そんなものどうにでもなるわよ」
「そう言う若造のパーティが壊滅する姿を何回も見てきている。ま、どうするかは自由だ。忠告はしたぞ」
意味深おじさんそう告げて去っていった。
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