超ベテラン子ども部屋おじさんの俺が、世界最強の武闘家になりました。 ~超クズ大勇者にいじめられ、パーティーを追放された俺。20年後、俺は最強の武闘家になり、大勇者をリアルファイトでぶっとばしました。

武志

第1話 俺はゼント。魔物討伐パーティーから追放される

「おい、ゼント。お前、俺たちの魔物討伐とうばつパーティー、『龍の盾』から出ていってくれねえかなあ!」


 バーン!


 幼なじみの勇者ゲルドンは、イライラして机を叩きながら声を上げた。最初は、彼の言っている意味がわからなかった。


 ──ここは宿屋、「獅子王亭ししおうてい」。この街ではかなり大きい宿屋だ。


「お、おい。冗談はよしてくれよ。本気じゃないよな?」


 俺は引きつりながら笑って言った。


 俺の名前はゼント・ラージェント。グランバーン王国のマール村出身。16歳の魔物討伐家とうばつか──魔法剣士だ。


 ゲルドンとは、10年以上もいつも一緒だ。ただ、ゲルドンは俺のことを、子どもの頃からずっといじめている。

 では、どうして一緒に行動しているのか? ゲルドンは本当に強いヤツだからだ。俺は彼の強さに関しては、尊敬していた。


 そう──ゲルドンは、王国に100人しかいない「勇者」だった。


「俺が冗談を言うはずねーだろうが。クソ野郎。出ていけって言ってんだ」


 ゲルドンは俺の胸ぐらをつかんだ。


 ゲルドンの後ろに立っている聖女のフェリシア、女剣士おんなけんしのエルサはただ黙っている。

 フェリシアは街でうわさになるくらいの美女。回復魔法が得意だ。一方のエルサはエルフ族。エルサも結構かわいい。

 フェリシアはオレの彼女だ。付き合っている。俺の大事な人だ。ちなみに手はつないだこともないし、キスもまだだ。俺は……ものすごい恥ずかしがり屋だった。

 

 だが、フェリシアはなぜかうつむいて何も言わない。


「本当に俺らの魔物討伐とうばつパーティーから、出ろっつってんだ! クソ弱いんだよ、お前はっ!」


 バシャッ


 ゲルドンが、自分の飲んでいたぬるい紅茶を俺にぶっかけてきた。これも昔からやられる、いじめだ。訓練学生時代は、牛乳を頭からぶっかけられた。


 俺ら4人は、マール村で育った幼なじみ。魔物討伐とうばつ訓練学校も一緒だった。


「や、やめてくれ、ゲルドン」


 俺はそう言ってただ、我慢していた。紅茶にまみれながら。


 ゲルドンは、性格も口も悪いが勇者だ。

 彼は体の大きさも俺より2倍はある。強い男で、誰からも頼られる。魔物をバッタバッタとなぎ倒す、すごい剣豪だ。格闘も強い。ちなみに父親は村長だ。


 さて俺は、身長161センチの小柄な魔法剣士。ゲルドンがひょいと持ち上げるおのを、俺は持ち上げることができない。一言で言うと、俺はメチャ弱い。魔法? 使えない。訓練学校時代、必死に勉強したが、覚えられなかった。


 俺は子どものころから、ゲルドンにいじめられていた。ゲルドンにいきなり、背中や顔を殴られることもしばしばあった。理由? ムシャクシャしてたから、らしい。


 それでも俺は、幼なじみとして、ゲルドンの強さを尊敬していた。だから彼が俺に、「パーティーメンバーを出ていけ」と言うなんて、思いもしなかった。


「お、俺にパーティーを抜けてほしい理由は?」


 俺はゲルドンの真意を問いただそうと聞いた。


「俺はお前たちの役に立っているはずだが」

「役に立ってねえよ!」


 ゲルドンが声を上げた。


「お前は魔法剣士を名乗っているが、剣も魔法もまともに扱えねえ。お前の役割は、単なる雑用と荷物持ちだろうが!」

「俺の役割? 魔物討伐とうばつの時、薬草、地図、毒消し草を忘れずに持ってくる。他には、武器や防具の整理。大事なことばかりだろう?」

「ほとんど、フェリシアの魔法で代用できるだろう! お前は役立たずなんだよ!」


 ゲルドンが再び、俺の胸ぐらをつかむ。


 分かっている。分かっているんだ。

 俺は弱い。単なる荷物持ちで役立たずだ。この間は、下級モンスターの毒兎どくうさぎきばを皮膚に受け、フェリシアの解毒魔法で、やっと助かった。

 

 だが、俺の恋人、フェリシアは俺の味方になってくれるはずだ。俺はすがるような目で、フェリシアを見た。


「ゲルドンさんの言っていることは、正論ですよ、ゼント」


 えっ……。フェリシアはゴミでも見るような目で、俺を見ている。お、おい。そんな目で俺を見るなよ。恋人同士だろ?


 しかし、もっと俺を地獄に叩き落すような事実が、これから語られるとは、思いもしなかった。


「俺様とフェリシアはな、今、つきあってるんだ」


 ゲルドンはうすら笑いを浮かべて言った。


「え、何だと?」


 俺がぼんやり言うと、女剣士おんなけんしのエルサがめんどうくさそうに言った。


「にぶい男だね。フェリシアは弱いあんたに愛想あいそをつかして、ゲルドンと付き合うことにしたんだよ」


 エ、エルサ、マジで言ってんのか? 俺はフェリシアを見た。


「ウソだよな? フェリシア……」


 フェリシアはひきつった笑いを、俺に向けた。


「何もとりえもない人が、聖女の私と付き合うなんて、ハッキリ言って不安です。将来の収入……お金のことを考えると……」


 金? あ、愛情にそんなの関係あるかよ!

 フェリシアは俺らの生まれた、マール村の神父の娘。名士の娘だ。しかも美人。


 ゲルドンは、フェリシアの肩を抱き寄せながら言った。


「俺の方が将来性があって、かせげるってよ。弱キモ男のゼントよぉ」

「て、てめえ! 俺の彼女を奪いやがったな!」

 

 俺はゲルドンの胸ぐらをつかんだ。勇者であり、「グランバーン王国の未来をになう男」とたたえられる、ゲルドンの胸ぐらをつかんだのだ。


 案の定、俺はいとも簡単に、投げ飛ばされて、壁に叩きつけられた。い、痛い。体中がバラバラになりそうな痛みだ。


 ガスッ


 ゲルドンは、床に倒れた俺の側頭部そくとうぶを、足で踏みつけた。


「うう……」


 俺は泣いた。悔しくて泣いた。ゲルドンは足で、俺のほおをグリグリ踏みつける。


「おい、見ろよ。こいつ、泣いてやがるぜ! ガハハ!」


 ゲルドンが声を上げた時、小さくフェリシアが言った言葉が耳に入った。


「ほんと、キモい……」


 俺が、「キモい」だって? ち、ちきしょう。なんでこんなことになったんだ? 何が悪かったんだ?


「というわけだ」


 ゲルドンはつぶやくように言った。


「お前は、もう俺らと関わらないでくれ。俺の出世にも響くし、邪魔だ。じゃあな、ゼント」


 俺は体中の痛みを感じながら、宿屋を出ていくゲルドン、フェリシアを見た。


 一方、エルサは椅子と机の位置を直し、俺を起こしてくれた。

 

「ゼント、あんたは才能あるのに」


 エルサはつぶやくように言った。


 え? どういうことだ?


「ゼントはすごい武闘家ぶとうかとしての才能があるって言ってんの。素手の闘いの才能があるはずだ。あたしはよく分かってるよ」


 え? 何言ってんだ? 俺は魔法剣士だぞ。しかも武闘家ぶとうか──素手の闘いの才能? クソ弱いオレに、そんな才能なんかあるわけないだろう。


 俺はうなだれて言った。


「なぐさめてくれるのはありがたいけど……。俺には剣術の才能も、武闘家ぶとうかの才能もない」

「……ま、そう思うのも良いけどさ、残念。……じゃあ」


 エルサは、2人のあとについていく。


(……俺は成り上がってやる!)


 俺は心の中で叫んだ。何かでゲルドンを見返してやりたい。商人とかギャンブラー、僧侶に転職してもいい。

 その時はそう思った。

 しかしだ。


 俺は、故郷に帰って……引きこもりになった。


 その日から、20年間も。

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