ヒマを持てあます令嬢の人生ゲーム

蕪 リタ

1 今日も楽しい人生ゲーム

「死ぬ! 死ぬって⁉ 死んじゃうから‼」

「殺そうとしてるんですもの。死ぬでしょう?」



 泣き叫ぶ声が響きわたるのは、この国随一ずいいちの学舎である国立学院最上階の踊り場。雨の多いこの国だからこそ、水のカーテンのおかげで外の音が遮断され、建物内はよく響く。

 柱にぶらさがるように意匠デザインがほどこされた灯りを浴びて淡い桃色に光るピンクブロンドの髪を振り乱し、涙に濡れる青い瞳でにらみつける少女の先には、美しく結い上あげられた真紅の髪の大人びた少女が不敵にほほえんでいた。



! 階段落ちって足ひねるくらいで終わりじゃない⁉ 死なないのがでしょ⁉」

「死なない? 何を生半可なまはんかなことを言っているのです? さっきから言ってるでしょう、死ぬように仕向けているのですからって」

「あぁああんた、おかしいわよ⁉」

「可笑しくはないでしょう?」



 手と手を握りあい、泣き叫ぶピンクブロンドの少女の足は、今にも走り出しそうな体勢で耐えている。そう、プルプルと。小刻みに震えながら耐えているのだ。

 口から発する言葉が少々汚い彼女も、不敵に笑う紅髪の少女も貴族なので、カップやソーサーより重たいものを持ったことがない。この学舎は従者たちも付きそえるため、かばんなんて柱の陰でめた目をしてため息をつく専属のメイドに持たせたり。あるいはピンクブロンドの少女のように、周りにうろつく男たちへ持たせてしまえば持つはずもない。

 そんな彼女たちは手と手を握りあい、国立学院最上階の踊り場で押し合っているのだ。体重をかけて。か弱い少女たちでも、自身の体重さえかければ人ひとり転ばせることができる――そう授業の一環である『体術』の時間に学んだばかりで、早速実践していたのだ。国立学院最上階の踊り場で。

 紅髪の少女は高位貴族で、幼少期からしぐさや姿勢を優雅にみせるよう努力させられた。結果、同じように体重をかけているが、ただ美しい姿勢のままたたずんでいるようにしか見えない。手先はプルプルと小刻みに震えているが。


 もう一度言う。

 この国リウビアは『雨の国』と呼ばれるほど雨が多い。毎日が雨なんて普通。雨の多いこの国だからこそ、水のカーテンのおかげで外の音が遮断され、建物内はよく響くのだ。そう、よく響く。

 彼女たちの周りには、響いた声につられていつの間にか人だかりができていたのだ。

 よくある光景なのか、何かを期待するキラキラした目を彼女たちに向けながら。


 なぜ、こんな状態で言い争いをしているのかというと。

 事の発端ほったんは、紅髪の少女の『婚約』が原因であった。

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