(7)

 次の日も、スマホのアラームが鳴るよりも早く目が覚めた。

 手探りでスマホを手に取って画面を見るなり、私は目を疑った。

 スマホの画面に表示された日付は、5月12日。

「うそっ!」

 自分でもびっくりするくらい大きな声が出てしまう。

 スマホの調子が悪いかもと、ネットで日付を検索してみるけど、やっぱり5月12日だった。

 どうなってるの? 意味が分からない。

 ベッドから抜け出してリビングをのぞくと、お母さんが立ったまま食事をしていた。

「ん、栞、おはよう。どうしたの。慌てて……」

「お母さん、今日って何日?」

「今日は……5月12日よ」

「本当に!?」

 お母さんは自分のスマホを見せてくれる。たしかに5月12日と表示されていた。

「……ほ、本当だ。ね、お母さん、昨日の商談はどうだった?」

 私は声の震えを精一杯こらえながら、尋ねた。

「商談? その話、したっけ? でも商談は今日よ」

「……っ」

「ちょ、ちょっと、栞!?」

 お母さんの呼びかけなんてまともに耳に入らない。

 私は自分の部屋に飛び込むと、学生鞄をひっくり返して中身を床にぶちまけると、数学ノートをめくった。

「……ど、どうして?」

 昨日たしかに書いたはずの内容が、綺麗さっぱり消えていた。

 数学だけじゃない。他の教科も同じ。

 どうして今日も、5月12日なんだろう。

 悩んでると、ノックの音がした。

 扉を開けると、お母さんが心配そうな顔で入ってくるなり、私のおでこに右手を添えた。

「……うーん。熱はないみたいね」

 どうしたらいいんだろう。お母さんに昨日も5月12日だったって言っても、理解してもらえないだろうし。

「だ、大丈夫だから……」

「本当に? 顔色が悪いけど……」

「私のことは大丈夫。お母さんは大事な商談があるんでしょ。出かけていいよ」

「でも……」

「心配しないで。ちょっと寝ぼけてるだけだから」

「そ、そう? 分かったわ……。いってきます。何かあったらすぐに連絡するのよ?」

「分かった。いってらっしゃい」

 手を振って、お母さんを見送った。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る