(3)
3時限目は体育。
女子と男子に別れて、サッカー。
運動が苦手な私は、チームの人たちに迷惑をかけないようにしなきゃとと緊張しっぱなし。
「……沢海さん、大丈夫?」
声をかけてくれたのは、近藤さん。
「う、うん……」
「私も運動苦手だから、憂鬱だよぉ」
近藤さんは少しおどけながら、私の隣に腰かけた。
私が一人でいるから心配してくれたんだろう。
友だちと一緒に過ごしたいはずなのに、気を遣わせてしまって申し訳なかった。
男子たちは授業がはじまるまで、サッカーで遊んでいる。
そんな男子の中心にいるのが、学級委員の綿引君。
さわやか系で、サッカー部でもある綿引君は面白いし、勉強もできるし、1年の中でもかなり人気のある人だ。
身長も他の男子よりも頭1つぶん高いから、遠目にも目立った。
「…………」
近藤さんは頬杖をつきながら、男子たちを見ている。
そこへ、サッカーボールが転がってきた。
転がってきた方向を見ると、ポニーテールの女の子が手を振っていた。
五十嵐千瀬さん。
女子で唯一、男子に混じってさっきからサッカーをしていた。
「晴海、パスパス!」
「いくよ!」
近藤さんはボールを蹴った。
ボールは綺麗な弧を描きながら、五十嵐さんのもとへ。
五十嵐さんはそれを胸で受け、軽くリフティングする。
すごい!
私だったらボールを胸で受け止めただけで、痛くてしゃがんじゃう。
「サンキュ! ――俊一郎、決着をつけるわよ!」
「うっしゃ! こいよっ!」
「――みんな、集合!」
体育の先生がホイッスルを吹く。
「沢海さん、行こっ」
「……うん」
近藤さんに促され、私は立ち上がった。
今日も特別、代わり映えのしない1日が過ぎていく。
授業を受けて、休み時間はスマホをいじって……その繰り返し。
表向きにはスマホは禁止されてるけど、休み時間中とか授業がはじまる前に触るくらいは黙認されていた。
昼休みは図書室で過ごして、気付くと放課後のHR。
教室にぴりぴりと緊張感が漂っているように感じられるのは、仲のいい工藤さんと清水さんが1時限目の休み時間からケンカをしてるせい。
帰りのHRが終わると、ようやく教室が騒がしさを取り戻す。
私は鞄を手に、いそいそと教室を後にした。
「ただいまぁ」
誰もいないのは分かってるけど、真っ暗な部屋はちょっと怖いから、誰もいないことを知った上で声を出して家に入るのが、すっかり習慣になっていた。
部屋はしんっと冷えて、空気がこもっている。
帰宅すると、各部屋の窓を全開にして空気を入れ替えるのが日課――なんだけど、今日はなんだか疲れてしまって、何もする気になれなかった。
友だちのいない私にとって学校ほど息の詰まるような場所はなくって、週に何度かはこうしてクタクタになってしまう。
部屋に直行すると、制服のままベッドに飛び込んだ。
頭の中では服を着替えなきゃ制服がシワになっちゃうと思うのに、それよりも眠気が勝ってしまう。
目を閉じると、夢を見る間もなく眠りに落ちた。
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