11 緑陰

 休日の昼、新奈にいなに連れられてアウリオンはショッピングセンターに来ていた。


 新奈のアパートから徒歩十分ほどで景色ががらりと変わった。

 アパートの近くには住宅しかなかったが、ショッピングセンターの近くには工場やビルも建っている。


 たった十分で変わるものだなとアウリオンはあたりを見回した。


 目の色を隠すために薄い色のサングラスを借りているが、髪はそのままだ。

 いくら黒に近いとはいえ群青色は目立つようで、視線をそれなりに感じる。

 かといって、話しかけてくるわけではない。アウリオンが視線の元に顔を向けるとそっと、あるいはあからさまに目をそらす。


 じっと見つめられるより「見られている」という意識が刺激される。


「リオン、行こう。買うものがたくさんだから、荷物持ち頼むわ」

「あぁ」


 今日の買い物は主にリオンの服や日用品だ。


「あんまり高いのは買えないけど二着ぐらいなら大丈夫。特に、下着のことはよく判らないから自分で選んで」


 少し恥ずかしそうに言う新奈は、ちょっとかわいい。アウリオンは思わず微笑みを漏らした。


 他にもこまごまとしたものを買って、いったんアパートに戻ることにした。


「ごめんね。車とかあったら買い物も楽なんだけどね」

「新奈が謝ることなんかない。むしろ俺のためにいろいろ買わせてしまってすまない」

「いいよ。リオンも動画配信がもうちょっと軌道にのったら収入あるんだし」

「新しいネタ考えないとなぁ」


 とりあえす、魔法陣を描いてみたという動画を配信して、新奈の予想よりも少し多い閲覧数を稼いでいる。まだ生活の足しになるような金額ではないが。


「あれ見た人は画像加工で魔法が発動したように見えてるよね、きっと」

「そうじゃないと俺が本当に異世界人だってバレる」

「あはは、それは困るね」


 新奈と話しながらなら、何度だって往復しても苦にならない。

 それだけ、アウリオンにとって新奈のそばは心安らぐ場所になっていた。


 だが、外に出るとそう言っていられないこともある。

 アパートとショッピングセンターを行き来する間にも、やはり人の視線を感じる。


「初めて会った時に新奈が言ってたこと、わかる気がする」

「え?」

「俺の恰好と言ってることで、通報されるって」

「大木の木陰みたいな濃い陰の中とか夜とかならまだごまかしもきくけど、……目立っちゃうよね。黒色のウィッグ買うか、染める?」


 言われて、うなずきかけた。


 だが、まるで緑陰の中でしか生きることを許されない、まさに日陰者の烙印を押されるみたいで、抵抗する心が急速に膨れ上がった。


 ――俺はなにも悪いことなんか、していない。


 アウリオンはかぶりを振った。


「新奈が気にしないなら、そこまでしなくていい」


 アウリオンの答えに、新奈は少し驚いた顔をしてから、笑った。


「わたしは気にしないよ。でも、そうね、あなたが通報されて捕まっちゃったら困るから、できるだけ夕方とかに出かけるようにしようか。あと帽子をかぶるのもいいね」


 髪を染めてと言わない新奈に、自分という存在を認めてもらえた気がして、アウリオンは温かい気持ちを感じた。

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