異世界にトリップしましたが、何の能力も無くて生きるだけで精一杯です!

小林ぬこ

異世界トリップって楽じゃないね

異世界トリップ


オタクや夢見る女子ならば一度は体験したいと願った事はないだろうか?


あの作品のキャラと恋愛したい!

魔法のある世界に行きたい!

俺つえぇぇ!したい!


色々あると思う。


各言う私もその口だ。

仕事に疲れ果てては「異世界いきてぇ」「貴族令嬢あたりになって働きたくない」などと願う。


それは現実世界から逃避して楽しんでいるだけなのだ。

そう、実際に起こらないと分かっているから楽しいのである。


まあ、何が言いたいかと言うと…


「ここ、どこですかね?」


実際トリップすると不安しかないって事ですかね。




★異世界にトリップしましたが、何の能力も無くて生きるだけで精一杯です。★




私からの質問に猫はひとつあくびをした。

いいですね、荒んだ心に猫たんは保養になります。


噴水がある広場で腰をかけながら街を見渡す。

日本にはない煉瓦造りの街並み

行き交う人々はスーツやオフィスカジュアルな服装ではなく中世ヨーロッパか?と言いたくなるようなドレスを着ている人や剣をぶら下げている人もいる。

まあ、中世ヨーロッパの服装なんてよく知らんけど。


皆様の顔立ちなんて、お鼻が高く色白、更には色とりどりの髪色や目の色をされている。


この噴水に座って結構な時間が経つが、黒髪黒目の方を見たことがない。


明らかに日本じゃない。

何なら、私は今の今まで仕事をしていた。

お客様とお会いするため、待ち合わせ場所であるオフィスに向かう為に電車に乗っていた。


長距離移動だった為、電車でうとうとしていた。

そう、少しだけ寝てしまったんです。


ふと目が覚めて、今がどの辺りなのかを確認する為に周りを見渡したらそこには煉瓦造りの街並みが…


スペースキャットになるとはこの事、いつのまに電車から降りて噴水に座ったのか本気で考え込んでしまったのだ。


突然の拉致なのか夢遊病か悩んだが、どう考えてもあり得ない。

夢なのかと自分をつねってみたけど痛感もあった。


どうしたら良いのか分からず、お隣で日向ぼっこしている猫たんの横で虚無になる。

腰に剣をさしている騎士っぽい人が怪しい人物を見るような目でこちらを見ては仲間とヒソヒソと話をしている。


不審者だ、明らかに不審者扱いされている。

そうよね、この中世ヨーロッパの雰囲気には相応しくない紺地にストライプのスーツ。

色とりどりな色彩の中に真っ黒な髪、皆様と違う顔立ち…

あ、何か、泣けてきた…


ポケットからハンカチを出そうとしているのに、うまく取り出せない。

これだから、少しピッタリ目のスーツは…と文句を言っていると、突然影ができた。


私は噴水に座っており、先程見渡した時には影ができるようなものは近くに無かったはず…?

更に、先ほどまでは見えなかった足みたいなものが見える。


恐る恐る顔を上げていく。

腰に剣をさしているのが目に入る。

服装は先程の騎士っぽいひと達より煌びやかだ。

良くトリップものや転生系の話に出てくるイケメン騎士団長!みたいな服装だ。


夢ならば、かっこいー!!と叫びたくなるような服装だ。

夢ではないので、今の私には恐怖しかない。


更に視線を上に上げると、綺麗な空色が目に入る。

綺麗な空色の目が私を見下ろしている。

明らかに乙女ゲームなら攻略者じゃん!と言いたくなるようなお顔の男性だが、とても綺麗な目の色に言葉を失う。


ある漫画の主人公を思い出す。

金髪に空色の目、いつも真っ直ぐでどんな状況でも諦めない…そんな彼に恋をし、彼みたいな人間になりたいと願っていた私の初恋に想いを馳せる。


そんな彼とは似てないが、同じような綺麗な目に張り詰めていた緊張が解けていくのを感じる。


鼻の奥がツーンとする

視界が涙でぼやけてくる


あ、泣くわと思っていると彼が口を開く。


「ここで何をしている」

初恋の彼とは全然違う冷たい声色で問われる。




不審者扱いされてたの忘れてたわ。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る