勝手だね
大乂が、パソコンをパタリと閉じた。
「自分勝手だね」
私はそう言って、ビールを三人の前に置いた。
「いつか、殺すって…。」
「そのいつかは、わからなかったよね」
「殺さなかったかも知れないじゃない」
三人の桜さんは、泣いていた。
「そのいつかが、今日かも明日かも、そう思えば思う程に苦しかったんじゃないだろうか?」
花井さんは、私を見つめた。
「香乂さんは、もう誰も愛していないのですか?」
「残念ながら、私も三人と同じ事を感じた人がいてね。それからは、人に本気にならない事にしているんだ。一夜限りの関係だけを繰り返してる。」
「もう、誰も愛さないのですか?」
並川さんが、私を見つめて聞いた。
「愛さないのではなく、愛せないが正しいのかもしれないね。今回、三人に酷いことをされてさらに感じたよ。抗わずに飲まれていく事の恐怖をね。優季、葵、咲哉は、常に理性と隣合わせだったんだと思う。どこか、冷静な自分が見ていた。楽しめていなかった。でも、楽しむと殺してしまいそうになる。その狭間で、常に生きていたんだと思う。」
「愛する事は、命懸けだったんですね?」
舘野さんは、泣きながら私を見つめていた。
「その通りだと思うよ。愛してるから、支配したい。愛してるから、制圧したい。愛してるから、服従させたい。普通ではないとわかっていながらも、それに抗えない自分。闘って、闘って、心は磨耗していった。死ぬ瞬間は、穏やかだった。って週刊紙に書いていた。やっと、自分の好きな自分になれたのだろうか?」
私は、そう言って顎に手を置いた。
「香乂さんは、今の自分を嫌いですか?」
花井さんの質問に、私は、すぐに答えをだせなかった。
「そうだな。好きではないね。こんなbarをやっているのにね」
私は、笑った。
「抗う事は、とても苦しいですもんね」
並川さんは、私を見つめて言った。
「そうだね。このお店のお客さんで、親から虐待を受けていた人がいてね。その人は、パートナーを服従させ暴力をふるってきた。ここにくるまでは、付き合った人に接近禁止が言い渡されてばかりだった。今、その人は新しいパートナーと幸せに生きているよ。ここに来て、否定ばかりしていた日々をやめた。自分には、その血が流れていると受け入れた。それでも、時々手を出したくなる時があるらしい。それを必死で止める。とても、心が疲弊すると言った。でも、逆らわずに飲まれたら、また元に戻ってしまうと話した。自分の欲望に逆らって生きていく事は、とても苦しい。でも、それをしてでも一緒にいたいと思える人に出会えた事は素敵な事だと私は、思うよ。」
「三人は、逆らい続けた結果、心が限界を迎えたのですね」
舘野さんは、涙を拭きながら頷いていた。
「もう、これ以上は無理だったんだと思う。でも、別れられなかったんだよ。三人は、桜さん達と…。だから、自らの死を選択するしか出来なかったんだと思う。少しでも傍にいたかったんだよ。それだけ、愛されていたって事だと私は、思うよ」
三人の桜さんは、声をあげながら泣いていた。
「生きてくれてるだけで、よかった。」
「私なんか捨ててくれてよかったに…。」
「死ぬなんて、酷い」
私は、三人の痛みがわかっていた。
【香乂、これ以上いたらエスカレートするって何?】
【このままいくと、
【別れようって事?】
【一番いい方法は、それしかないと思ってる】
【何それ、最低ね。】
有花梨は、涙目で私を睨みつけて
去っていった。
心が引き裂かれる程の苦痛だった。
復活した時には、30歳になっていた。
私は、7年間。
毎日苦痛に悶えた日々を送っていた。
目が覚めて泣き、仕事をしながら泣き、帰宅して泣く。
そんな日々を7年続けた。
もう、誰にもそうなって欲しくないとこの店を始めたのに…。
うまくは、いかないものだな。
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