第4話 ばあちゃんとお菓子
あれから布団を干したりするのを手伝いながら、さりげなく祖母に『神子』について聞いてみたものの、『神事を執り行う役割の子ども』だとしか教えてもらえない。
あまり深く聞こうとすると、祖母の声音は強張ったものに変わり、俺の中の『これ以上はやめておけ』というセンサーが働く。
今までの経験上、何度も助けてもらったその独特の感覚にはなるべく従うようにしている。以前それを無視して無理に人と関わった結果、散々な目に遭ったことがあるからだ。
「ねぇ、この村って俺の同級生は何人くらいいるの?」
「そうねぇ、二十人くらいじゃないかしらねぇ。村の子どもは皆いい子ばかりよ」
「そうなんだ。じゃあきっと、ひとクラスしかないんだね」
一年生からずっと同じクラスで六年間過ごすってどんなんだろう。前の学校は三クラスあったから嫌な奴がいてもクラス替えで離れたりしていたけど、ここはそれが出来ないんだ。
勿論前の学校でも仲の良い友達はちゃんといた。けれど一部の同級生が俺を煙たがっていたのは自覚している。そんな奴らは決まって子どもっぽい性格で、いかにもガキっぽい嫌がらせをしてきたりするだけだから、俺は大して気にしてなかったけど。
「今の学校はおばあちゃんもよく知らないけれど、
和則というのは父親の名前だ。その名前を聞くだけで、ぎゅっと胸が握り締められるような気がした。
「大丈夫よ、賢い桐人ちゃんならすぐに皆と仲良くなれるわ」
俺が心配して顔を顰めたと思ったらしい祖母は、そんな風に励ました。別に心配なんてしていない。いつもの通り、相手の様子を見ながらそれなりに仲良くしてればいい。
「そうだね。きっと仲良く出来ると思うよ」
俺が目を細め笑いながらそう答えるのを聞いて、祖母は「そうかい」と満足げに頷いた。
大人が喜ぶ為には良い子でいるのは大切だけど、同時に子供らしい態度も必要だと知っている。
両親の前では今更子どもらしい態度をする気にもなれないけれど、せめてこれから出会う人達の前では気をつけていく事が大切だ。
布団も干し終えて、祖母がオヤツでも食べろと言うので「やったー」などと言いながら喜んだ顔をして家に入る。
「ほら、どんなお菓子が好きなのか分からないからねぇ。適当に買っておいたんだけど」
祖母の準備してくれたものは、寒天のゼリーみたいなやつ、チョコレート、タマゴボウロ、酢昆布、飴玉……。正直あまり食べた事が無い物ばかりだったけれど、俺の為に選んでくれたのだと思うと嬉しかった。
「ありがとう。ばあちゃんはどれが好きなの?」
「そうねぇ、おばあちゃんは……これかしら」
祖母の選んだのは寒天のゼリーみたいなお菓子だった。色とりどりのそれの中から、ピンク色を選んだ祖母に習って自分も黄緑色を手に取った。
「このゼリーを包んでる透明の紙みたいなの、これって剥がせるの?」
「あぁ、それはそのまま食べて大丈夫よ。溶けて無くなっちゃうから」
そんな事を言いながら、祖母と初めてのオヤツを口にした。ゼリーのお菓子は甘ったるくて、グジュグジュした食感が少し苦手だったけど、祖母が嬉しそうだったから良かった。
さて次は何を食べようかと選んでいたところに、玄関のチャイムが鳴った。同時に引き戸がガラガラっと開いて、どこかのおばあさんの声がする。
「すみちゃーん! 集会場、そろそろ行くよー!」
チャイムと引き戸が開くのがほぼ同時だったから俺は本当に驚いたけど、祖母は全く気にしていないようだ。
「ああ! 忘れてた! もうそんな時間かい。はーい! 今行くよぉ!」
祖母も玄関のおばさんに負けないくらいに大きな声を張り上げて返事をした。
「どこか行くの?」
「秋の神事についてのね、寄り合いがあるんだよ。年寄りだけのね」
座卓に手をついて立ち上がった祖母は、「昼までには帰るから」と言って出掛けていった。居間にポツンと一人取り残された俺は、酢昆布を口に入れてその塩っぱさと酸っぱさに顔を顰める。
「すっぱ……」
やはり両親は俺を迎えに来る事もしないみたいだ。少し行ったところに家があるのだから、ちょっとだけ覗いて来ようか。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます