100日で君を一生分愛す

落ちこぼれ侍

第1話 ヒマワリ

「君はあと100日で死にます」


 7月18日、ある日突然目の前に現れた黒いスーツの男にそう言われた。

いつも通り朝のニュースを見ていたら周囲の気温が数℃下がった気がしたため、

後ろを振り向いてみるといた。驚きのあまり叫び声も上げることできずに固まっていたらそいつは軽いノリで話し始めた。

「どうも!死神です。いやぁ、人間の想像する死神は骸骨の鎌を持ったやつだと思ってたけどこういうふうに考える人もいるんだね」

その男は自称「死神」である。そう言っていた。とてつもないことを平然と言ってのける男(見た目は男だが死神に性別があるのかはわからない)に戸惑いながらも色々聞いてみた。

 さっきの発言についてだが、死神はその人間が想像した死神の姿で現れるらしい。

黒いスーツの死神を想像するのはレアなのだろうか。ちなみに、こいつは俺だけにしか見えないらしい。こいつと話しているところを第三者から見られたらヤバいやつだと思われかねないのでホッとした。驚くべきことに普段は俺の目にも見えないらしい。なんとも便利なやつだ。

出会ったばかりで信用できないが、あと100日で死ぬということに関してはなぜか腑に落ちた。

 日本の中でも学力がとても高い大学に通っていたというのに25歳でコンビニのアルバイトをして生活している。実家からは出たものの同じこの街に取り憑かれたように、誰かを待っているかのようにずっと留まっている。こんな人生に嫌気が差していた頃だったからだろう。

 やりたいことをやれと言われても何も出てこない。遺言書なんて書いても誰も読まないだろう。友達と呼べる人間もほとんどいない。こんな悲しい人生を送っている人もいるんだぜ。やりたいことはやっとけ、後で後悔してもしきれない。

 いつもみたいになんの意味もなく街を歩いていると、ふと懐かしい気配がした。なんだろうかこの感覚。視線は自然と、前から歩いてくる大きなキャリーバッグを持った女性に向いた。高校時代に同じクラスだった人だ。少し茶色がかった髪が太陽を控えめに反射しハーフアップにまとめ上げている。目の下のホクロはいつもなんとなく困っているように見えるため、守りたいと思ってしまう。こんなに美しい人は一人しか知らない。

確か名前は・・・・・・

「楠 花夏はなさん……」

いつの間にか声に出していた。唯一僕に話しかけてくれた女子にして僕と仲の良かった女子。その声に反応したように女性がこちらを向く。怪訝そうな顔に一瞬にして花が咲く。名前の通り、花のようにきれいで、よく笑う人だった。

「小泉くんだよね。小泉 仁くん、久しぶり!」

僕の名前を覚えていてくれたなんて、何も気にしていなかったが花夏さんの前ではどうしても一人称が僕になってしまう。あの頃のままだ。

嬉しさとともにこみ上げてくる哀愁を悟られないように気丈に振る舞う。

 その日は高校時代の話やいま歌手を目指している彼女の話を聞いた。誰々に会ったとか今あいつはこんな職業だとか。25歳で遅れてやってきた青春に胸を躍らせていた。僕は彼女がもう一度この街に戻ってくることを待っていたんだ。

時間が止まればいいのに。

でも僕はもうすぐ死ぬ。せっかく世界が、人生が悪くないと思え始めてきたのに。

やっぱりこの人生は最低だ。


俺が死ぬまであと99日。

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