彩雲華胥 ー泡沫語ー
柚月なぎ
一、神子と華守
―――――五百数年前。
穢れで満ちている
前の
「
それは瞬く間に各地に伝えられ、国中に知れ渡った。同時に、
しかし
****
――――十五年後。
ある山を住処とする、少数しか存在しないと言われる
「
民の長が代表して声をかける。
生まれてから十五年の間、新しい身体に霊力を馴染ませながら、準備をしていく。魂という名の記憶は永遠に紡がれたまま、また初めからやり直すような感覚。
「みんなも今までありがとう。今生の役目は必ず果たすよ」
これから何年、何十年という年月、命が尽きるまで国を回り穢れを浄化し続ける。挨拶も終え、最小限の荷物を背負い、そのまま振り返ることなくその地を後にする。
麓の地で待つ
長い髪の毛は背中に垂らしたままで、その左右のひと房ずつを纏めて、後ろで軽く結っている。髪の毛が揺れると、一緒に結っている赤い紐が遅れて揺れた。優しい印象を与える翡翠のその瞳は大きく、少しも焼けていない色白な肌は透き通って見える。少女なのか少年なのか区別が付かない中性的な顔は、幼さが残るが美しい。
軽い足取りで山を下って行く。季節は春。青い草の香りがふっと横切る。ばさりと羽ばたいて黄色と黒の羽をもつ小鳥が肩にとまった。
「君も一緒に来るかい?」
肩から指に小鳥を移動させて、ふふっと困ったような笑みを浮かべる。そのまま小鳥を放って、去って行く小さな影を見送った。木々の葉から零れる光が眩しい。
草が生い茂る道を抜けて開けた場所に出ると、こちらを待っていただろう青年が遠くで一礼してきた。遠目でも背が高いと感じたが、近づいてみるとその差がはっきりと解った。
目の前に立つと、青年はその場に跪き、腕で囲いを作り丁寧に頭を下げて
「
「うん、私のことは
囲っている腕に細い指を置いて、その顔を覗き込む。下げていた頭を上げて、
隣に並ぶと、
「私は自分の身は自分で守るから、君が守るのは一に民、二に自分自身、余裕があったら私という順番でかまわないよ」
「一に
足を止めてきっぱりと無表情で答える。声音は低く、淡々としている。
「
「そうなんだ。じゃあ私の剣となって自身を守り、盾となって民を守って」
何のためらいもなく返した
それなのに。目の前の
「じゃあ、これならどう?
確かに。なによりも
「・・・善処、します」
「よろしい。では、改めて。よろしくね、
「・・・よろしくお願いします」
けれどもどこまでも優しい笑みと、穏やかな声に、心を奪われる。
「あと、敬語もできればやめて欲しいかな。君には従者としてではなく、友として傍にいて欲しいから」
気が遠くなるほど長い年月を共にするのだ。どうせなら、楽しく過ごしたい。
「友、とは・・・?」
「え?故郷に友達、いるでしょう?」
「いません」
「え?ひとりも?」
「いません」
あははっとおかしくなって
「・・・・っごめんごめん、あまりにも真面目に答えるから、なんだかおかしくなっちゃって。別に馬鹿にしているわけじゃないから安心して?」
はあとひとしきり笑った後、じゃあこうしようと両手をぱんと叩く。
「じゃあ、今、この瞬間から、私たちは友になろう!友とは、一緒にご飯を食べ、話をし、笑い、遊ぶ。困った時は助け合い、手を差し伸べ合う」
「・・・・友?」
くるっと回って
「実は、私も友と呼べる者は今のところいない。お互い、初めての友だねっ」
にっと口元を緩めて笑みを浮かべ、ほら手を取って?と言って首を傾げた。その手を恐る恐る取り、触れれば、そこにちゃんと温度があった。
「・・・・はい、」
これが、
それから数年の時が過ぎた—————。
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