閑話10-2
「それに成人したらこの家から出るようにと言い含められたおかげで自立も出来た」
「そう…だったな」
「だから形だけの家族に思うことは何もない。成人してから言葉を交わしたこともないしな」
そうだ
顔など思い出せなくて当然なのかもしれない
俺は家を出てから家族の誰とも話をしたことが無いのだから
王宮ですれ違っても挨拶すら返されなかった時には流石に凹んだが…
でもそのおかげで家族を切り捨てることが出来たのも事実だ
「お前が気にしないならいいんだ」
「悪いな。変な気を回させた」
「いや」
クロキュスはそう言って首を横に振る
家族を何より大切にしていたクロキュスらしい気遣いだった
側にいるオリビエがそんなクロキュスの心に寄り添っているのが伝わってくる
今のクロキュスの家族としての愛情はほぼ全てオリビエに注がれてると言っていい
勿論カクテュスの王族に対しても多少の愛情は有るだろうけど、オリビエは明らかに別格だ
それが嬉しく、どこか羨ましく感じる
俺にはそんな風に大切にしたい家族も恋人もいない
飲み会以降、女性騎士と簡易パーティを組んで迷宮に行くことも増えた
でも、特別な付き合いをしようと思う相手とは出会ってないからな…
「俺に出来ることがあるなら手伝わせてもらいたい。それで称号持ちだった事実を消すことも、償うことも出来ないことは分かってるが…」
「お前は充分償った」
「は…?」
全く心当たりがないのだが?
「王宮にいた称号なしに未来への道を与えたのはお前だろう?」
当然のように言うが…
「あれはお前の案だろ」
「実行したのはお前だ。俺には実行は出来なかったからな」
確かに手紙を読んで無茶ぶりと思ったのは否めないが…
でもクロキュスが俺を信頼して送ってきたことは分かっていた
だからこそ、その期待にこたえたいと思った
「そもそも称号持ちへの処遇は民の意志を汲むためのものだ。感謝されてるお前に罰を下す方がおかしいだろ」
「感謝などされてないさ」
「知らないのか?騎士や王宮に勤めてた者の家族、その周りの人間からお前の事は恩人だと広まってるぞ」
「な…?」
「だからお前に家族と同等の裁きを下せば別の意味で問題が起こるだろうな」
信じられない言葉だった
「あれは俺だけの力じゃ無理だっただろ。現にジルコットの協力がなければ…」
「その協力を得れたのは、フロックスが称号なしの人たちを称号と関係なく、一人の人として対等に見てたからだよね?」
そう言ったのはオリビエだった
「大半の称号持ちは称号なしに協力を仰ぐことは無いってことだ」
「…そういうことか…」
だから、王族ではなく国民の為に先陣を切っていたカトリックも同じようにこの町に来た
長い間クロキュスと一緒に働いていたはずの側近は声さえかけられなかった
ずっと引っかかっていたその理由を初めて理解した
家族と相いれることは無かった
でもそのおかげで手に入れたものが確かにそこにあった
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