80-3

「大丈夫かオリビエ」

「大丈夫」

頷いて再びソンシティヴュの騎士に向きあう


「王と王太子は拘束した!まだ続けるか?!」

ダビアのドスのきいた声が響く

その声だけで一部の騎士は剣を捨てた

勝敗は明らかだった

でも…


悪あがきをする騎士達に追い回される町の人たちを見て走り出すより先に頭の中で同じような光景が浮かんだ

「え…?」


思わず足を止めていた

いつなのか、どこなのかはわからない

でも確かにその光景が私の記憶の中にあったのだ

「何…これ…」


気味の悪い感覚にとらわれてた私の視界の端に騎士に襲われそうな子供が映った

「ダメ!逃げて!」


叫びながら咄嗟に魔法で騎士の刀を吹き飛ばす

でも子供は恐怖でその場でうずくまってしまった

騎士がサブの武器を取り出すのに気づいたものの、この位置から魔法を放てば子供も巻き込んでしまう

子供に駆け寄り騎士から隠すように抱きしめる

次の瞬間背中に強烈な痛みと熱を感じた


「オリビエ!」

ロキの声がかすかに聞こえた


「もう、だいじょ…ぶ…」

腕の中の子供に告げながら私は意識を手放した



***

ロキは倒れこむオリビエを抱き上げた

オリビエを傷つけた騎士はロキの放ったナイフが喉に刺さった状態で事切れていた

「くそっ…毒か…」

傷口の周りの皮膚が黒くなっているのを見てロキは解毒薬を2本取り出し1本は傷口にふりかけ、もう1本を口移しで飲ませた


「フロックス!」

「ここだ」

フロックスはすぐに側に来た


「オリビエを頼む。解毒薬は飲ませたし傷口にもかけた」

そう告げたロキの目は怒りに燃えていた


「引き受けた。お前は…?」

「ゴミ掃除だ。これ以上誰も傷つけさせない」

言葉と共にロキは走り出していた

普段見せる事の無い冷酷さで町の者を襲おうとする騎士や傭兵を切り捨てていく

さっきまで命を取らないようにと手加減していたロキはいない

それを目にしたソンシティヴュの騎士は剣を捨てた


「適うわけない…」

誰かが呟く


「何をやってる!1人でも多く殺せ!」

捉えられてもなお叫び続けるナルシスの言葉が空しく響く


「無理です…」

「たわごとはいい!さっさと行け!」

側にいる騎士を怒鳴りつけるも騎士は動かない


今、騎士達の頭に浮かんでいるのはロキの二つ名だった


『戦場の悪魔』


凶悪な魔物をものともしない、魔物と対峙してかすり傷一つ負った事の無い男

それがロキだった

ソンシティヴュの騎士は当然それを知っている

1人で魔物に敵わない騎士程度が叶う相手ではない


戦意を失った騎士は次々と拘束されていく

この町は牢を持たないため魔術師がその場で作り出した

その中に10人ずつ放り込まれていく

ナルシスとオナグルだけは一人ずつ入れられたが…

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