8-2

これで受け入れられなかったらどうしようかと不安になっていると…


「どれも美味い」

ロキからはそう返ってきた


「本当?」

「あぁ。これからの食生活が楽しみだ」

「よかった」

多少お世辞は入っているだろうけど、王宮に住んでたロキの舌に合格を貰えたのなら御の字だろう


「そういやカフェしてたって言ってたな」

「うん。料理もスイーツも出してたし結構流行ってたんだよ?」

「この味なら納得だ。いっそこっちでもやってみれば?」

「…カフェを?」

その発想はなかった

というよりはとりあえず冒険者でそれなりの貯金を蓄えてから考えようと思ってた

私としては従業員の報酬も確保する必要がある

自分がしたいことよりもそっちの方が優先事項なのは言うまでもない


「小さい方の食堂はちょっと改装すりゃ外から入れるだろうしな。最初は珍しさで寄ってきてそのまま常連パターンは多そうだ」

「なるほど…その手があったか」

カフェなら勝手知ったるで経営できるだろう

固定費の大半を占める家賃が実質無料ならリスクも小さいかもしれない

あとはこっちの食材や料理を調べてメニューを決めれば何とかなるのかな?


「考えてみようかな」

「まぁ、すぐに決める必要もないだろうし、町を回って色々落ち着いてから考えてもいいとは思うけど」

「そうだね。なんか楽しみになってきた」

色んな選択肢が持てることが分かるとそれだけで、大きなものを得た気がするから不思議


「…お前大概図太いよな?」

「え?」

「突然知らない世界に召喚されて不安になったりしねぇの?」

ごもっともな質問である

いくら転生や召喚に巻き込まれた人から直接話を聞く機会が多かったといっても、その情報があるから安心できるものでもない


「不安がないわけじゃないんだけど…でもロキがいてくれるから好奇心の方が勝ってるかも」

一人だったらこうはなっていないだろうと思う

特に意識してはいなかったものの、どこかでロキが必ず力になってくれてると思ってるのは否定できない


「…そうか」

顔を反らしてそうつぶやいたロキを見て初めて、自分の発した言葉の意味を考える


「えと…その…」

”ロキがいてくれるから”

そこにどれだけの意味が込められているのか自分でも分からない

自分の顔に熱が集まっていくのが分かりパタパタと手で扇ぐ


「深い意味がないことは分かってる。でもあんまり無防備にそういうことを言うのはやめた方がいい」

「は…ぃ」

本当に気を付けなければと思った

大切だと言ってくれるロキだからこそ無意識で傷つけることは避けたい


「帰ってきたみたいだな」

ロビーが騒がしくなったことにどこかホッとした

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