第48話

「兄さんは座っていてください」

「だって、やっぱり僕も手伝いたいというか」

「いいの。桜君はそのまま座ってゆっくりしていてね」


 花蓮と楓がキッチンで料理を作っている。


 僕だけ何もしないのは何というか、恥ずかしいというかこうもやもやした何かが心の中に巣食う。


 今どんな状況かというと、僕は知らなかったけれど今日、花蓮と楓が家でお泊り会をするということになっていたらしく家に楓がいる。


 丁度お昼時だったということもあり二人で昼食の準備をしてくれるらしいけれど僕はいつも通り何もさせてくれないみたいだ。


 どうしてかなぁー、僕もしたいんだけれどなという目を二人に送るけれどにっこりと微笑を返されてしまって何も言えなくなってしまう。


 何もしなくても良いと言っても、やはりそわそわしてしまう。


 いっそ他の家事をしてしまう、とか?


 でもそんなことしたら花蓮がいつものように怒ってしまう様な気がするけれど、僕だけ仲間はずれにした罰ってことでしてしまおう。


「少しトイレに行ってくるね」

「分かりました」


 二人に声を掛けてリビングから出ていく。


 洗濯とそれとお風呂の掃除もしてしまおうかな。


 そう思いお風呂場へ。


 水を抜く時間は洗濯物を分類して、洗濯機を稼働させてしまおう。


 妹の下着とかあって少しだけ恥ずかしい気持ちになったけれど花蓮はいつも僕の下着とかしてくれていて、兄の僕が変に思うのも違うと思うし意識しないようにと考えて進める。


 丁度その時間に水もほとんど抜けてきたので、お風呂の掃除を開始する。隅々まできれいに磨くのは少しだけ疲れるけれど、自分でしたという達成感があって凄く充実している。普段はこういうことをまったくさせてくれないから。


 見つかる前にさっさとここを離れないと。

 

 そう思ってお風呂場の扉を開けると


「兄さん?何をしているんですか?」


 そこには一見にっこりとほほ笑んでいるけれど、目だけは深いなにも見えない真っ黒な瞳で僕の事を見ている。正気も言葉にもあんまり力がない。


 これは弁明しなくてはと言葉を出そうとするけれど


「桜君、ダメだよ?そんなことしたら」


 頬を両手に添えて僕の眼を真っ黒な瞳で覗き込んでくる桜。


「私は兄さんに常日頃から家事なんてしなくてもいいと言っていましたよね?」

「う、うん」

「それなのにどうしてしちゃったの?桜君」

 

 二人に事情を問いかけられて、ぽつぽつとその訳を話していく。

 

 すると二人とも事情に納得してくれたのか目が段々といつもの物に戻っていって僕の事を見る目が優しいものになっている気がする。


「そうだったんですね。ごめんなさい」

「ごめんね桜君。でも私たちは桜君を除け者にしようとかそういうことをしたいんじゃなかったの」

「ただ、兄さんには楽をしてもらいたいなって思っただけなんです」

 

 二人は僕の頭を撫でてあやすようにしている。


 あれ?なんか僕が我儘をいっている子供みたいになっていないかな?


 家事をしただけなんだけれど。


 

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