第10話 さて…どう話そう?

 ここは警察署内の取り調べ室…

 刑事ドラマでよく見る場所だが、実際にあるとは驚きだった。

 まぁ、実際に無いものが刑事ドラマのセットで使われる訳がないか…?

 そして俺の前には、チャーシュー刑事こと、八木蓋刑事が居て、他にも数人の刑事が囲んでいた。

 どう見ても…犯罪者の取り調べじゃね?


 「今迄散々て手こずらされて来たが…もう逃げられないと思った方が良いぞ!」


 チャーシュー刑事は俺を見ながらそう言って居るが…俺はまともに答えるつもりはない。

 だって…言った所で信じて貰える訳がないからだ!

 さて…なんて答えようか?

 とりあえず、刑事ドラマでは必須のを言ってみる事にした。


 「すいません、カツ丼はまだですか?」

 「お前…この状況で良くそんなものが頼めるな!」

 「なんだ、出ないんですか…なら帰ります。」


 俺は立ち上がろうとしたが、後ろの刑事に押さえ付けられて座らされた。

 仕方ないから…答えるか。


 「まずは今回の失踪事件だが、クラスメートが君を含めて突然の失踪…そして君だけが後から発見された! これについてだが…何か言う事はないか? それに他の四人は何処にいる?」

 「それは…」

 「それは?」

 「宇宙人に拉致されました。」


 俺はそういうと、チャーシュー刑事は額に筋が浮き出た。

 流石に無理があったか?

 でもまぁ…嘘は言って居ないんだよなぁ?

 地球以外の星から異世界召喚って、ある意味…宇宙人の拉致と一緒だし!

 地球以外の星になる訳だから、他の星の人は…宇宙人には違いが無い。

 

 「話を変えよう…白井葱君は知っているよね?」

 「しろいねぎ? ねぎは白いですよ?」

 「以前…君を含めた五人がその場から消えて、君と白井葱君が発見されたという話だ。 残りの三名は未だに行方不明の!」

 「あぁ…あの時の女が白井葱というのか! 初めて名前を知った。」

 「彼女の話を聞くと、あの時の五人は異世界に召喚されて…魔王を倒す為に旅をしていたという話で、他の三人はその時に命を失ったという話だが?」

 「刑事さんだって、そんな話を信じている訳じゃないでしょ?」

 「そんな荒唐無稽な話はね。 アニメや漫画の話ではあるまいし…」

 「それで彼女はついこの間…精神病院で自殺をした。」

 「そうですか…それは御気の毒に。」

 「随分軽薄だな?」

 「あの女もそうですが、他の三人も俺と接点がありませんでしたからね。 見ず知らずの人間が死んだところで、へーそうですか位の関心しかありません。 それで…カツ丼はまだですか?」

 

 俺がそう言うと、チャーシュー刑事の額いの筋が増えた。

 チャーシュー刑事は咳払いをすると、話を続けた。


 「その前は、学校の人間が全て消えたという話だが、何故か君1人だけ発見された事があったね?」

 「そんな事もありましたね…俺は意識を失っていて良く覚えてないけど、何かのガスっぽい物で体が痺れていた記憶がありましたね。 そして気付いたら、ロッカールームに押し込められていた俺だけが後で発見されたとか?」

 「確かに…君も以前はそう供述していたな。」

 「だって、それ以外の事は知りませんでしたからね。 あの時は…」


 セルリアの話だと、確か聴講生として他の学校に行っていたという話だったな?

 なら…?


 「あの時は?」

 「聴講生となって他の学校に行くというのは、ある意味エリートみたいな物ですからね。 やっかむ者達に虐めを受けていた時だったと…カツ丼まだぁ~?」

 「お前はこの状況で良く飯を喰う気になれるな?」

 「チャーシュー刑事を見て居ると、何故か豚肉の物が喰いたくなって…」

 「私の名前は八木蓋だ‼」

 「なんですか、焼き豚さん?」


 俺の発言に背後にいる刑事たちから笑い声が聞こえた。

 チャーシュー刑事は背後にいた刑事たちを睨むと、笑い声がしなくなった。


 「そして最後に…クラスの者達が消えたが、君が1人だけ発見されたという…」

 「そんな事もありましたね! 他の人達は見付かったんですか?」

 「未だに行方不明だ!」

 「多分、某国に拉致でもされたのでしょう。 良くは覚えてませんが、多分そこから逃げ出してきたんですよ。」

 「某国とは何処だ?」

 「さぁ、その辺は僕より警察の方の方が詳しいでしょ?」

 「1つ分かった事がある! 君は先程から真実を一切話していないという事に…」

 「真実は話していますよ。 他の人達が行方不明なのは僕は全く解りませんし、早く見つかって帰って来てくれることを祈っていますから…」

 

 これは本当の話だが、ただなぁ…?

 行方不明者が全員死んでいるから見つかって帰って来るというのは無理な話だろう。

 それに一度行った事がある異世界は、魔王を倒すともう二度と行けないし。

 遺骨でもあれば持ってきたい所だけど。


 「そしてこれらの話を統合すると…行方不明者は必ず君が絡んでいるという事だ‼」

 「あ…それ良く言われますね。 死神だの疫病神だのと、以前は何度か陰口を叩かれましたからね。」

 「ニュースでは君の名前は公表してはいないが?」

 「あんたら警察が接触してきている時点で妙な噂が立っているんですよ。 少しは自覚してくれ!」

 

 まぁ…俺が巻き込んでいるというのは間違えではないが?

 ただいっつも俺だけが異世界召喚されるのかが分からねぇんだよな?

 神がいるなら聞いてみたいが…破壊神とか魔神がいる位だから、神もいるのだろうけど?


 「終わりなら、これで帰って良いですか?」

 「いや、まだだ! おい、アレを!」


 チャーシュー刑事は、スマホの動画を見せて来た。

 そこには、俺が学校の屋上まで飛び上がっている動画が映っていた。

 やばい…あれ録画されていたのか⁉

 

 「今の撮影技術は凄いんですねぇ? これはハリウッド並みだ! どうやって加工を?」

 「これは何も加工はされていない! これは一体なんだ⁉」

 「さぁ? 何でしょうねぇ?」

 

 ここまで俺の顔が鮮明に映っていて言い逃れは出来ないよな?

 俺は昔見て居た特撮ヒーロー番組を思い出した。

 多分これをいったら確実にキレるだろうな…?

 でも、他に言い訳出来る理由が無いし…やるか! 


 「わかりました、全てをお話致します…ですが、これを聞いた貴方達も狙われる事になりますが、宜しいですか?」

 「狙われるとは?」

 「この世界の征服を企む悪の組織です。 その名も…悪の組織アクダイバー!」

 

 すんごい適当な名前を付けたが…あ、チャーシュー刑事がめっちゃ怒っている。

 俺は頭をフル回転して設定を考えた。

 そして立ち上がってからポーズをしながら叫んだ。


 「変身!」


 取調室の中で眩い位の光魔法で演出をして、頭の中のヒーロースーツに身を包んだ。


 「俺の名は…閃光戦士・ライトブリンガーだ‼」


 デスブリンガーの光版の名前を適当に付けた。

 あまりの出来事に、取調室の刑事たちの反応は呆然としていた。

 そして俺はヒーロースーツのまま座ってから話し始めた。


 「チャーシュー刑事、最初のクラスの全員が消えた時の話をしよう。 あの時は悪の組織のアクダイバーが人体実験をする為に若い人間を拉致したんだ。 その中に俺も混じっていた…他の者達は薬物実験により人の姿を保てなくなってほとんどが死んだが、俺だけは適合してこの力を得た。 力を得た者は他にも数人いたが…ヒーローの姿になれたのは俺1人だった。」

 「へっ?」

 「次に…学校全体の人間が消えたという話だが、その時は俺を含めた数人がその学校に送り込まれた。 そこでは他の者達が化け物の姿に変身して、他の生徒達や先生たちを喰い荒らしたのだった。 俺は奴等を止める為に必死に戦ったのだが、気が付くと俺1人だけ気絶していて…他の者達は学校から消えていたんだ。」

 「お…おい、その話は?」

 「そして…白井葱という女の事は良くは知らんが、他の三人はアクダイバーの手によって改造された凶悪怪人で、俺の抹殺の為に送り込まれた奴等だった。 一度怪人に変身した者は、二度と元の姿に戻れない。 そして本能の赴くままに殺戮を楽しむ殺人兵器になる為に、それを阻止する為にやむを得なく殺すしかなかった。 そして最後に残った女に偽の記憶を与えて保護して貰ったんだ。」


 よくもまぁ…こんだけ適当な話を思い付くと、我ながら呆れてしまう。

 ただこの話を警察が信じるとはとても思えないが…どういう反応になるのだろうか?


 「はぁ…仮にその話が本当だとして、今回の四人の失踪はどう説明する?」

 「臣道 正義は…アクダイバーの手によって改造された怪人だった。 俺は奴を止める為に戦い…そして始末した。 他の三人は気付いた時には既に見当たらなかった。 組織の捕らわれたか…始末されたかまでは分からない。」


 俺は変身を解くと、お腹を押さえて腹が減ったというアピールをした。


 「すまない…カツ丼はまだか? この変身には体力を著しく消耗するので、カロリーを摂取したのだが?」

 「お前の言っている話が、本当だとしてもだ! 警察ではそんな話は聞いた事が無いぞ⁉」

 「チャーシュー刑事だって、世の中の犯罪者の名前を全て把握出来ている訳ではないだろう?」

 「なら、お前は何故屋上にいたのだ?」

 「俺が発見された場所で、奴等の痕跡を探す為だ。 昼間の学校で立ち入り禁止場所に入るより、夜の学校に忍び込んだ方が怪しまれないからな!」


 さて…警察はこの話をどこまで信じるだろうか?

 適当に作った設定の割には、完成度は高いから…余程鋭いツッコミでもされない限りは大丈夫だとは思うが?

 それに…間違いなく混乱しているだろうし、大丈夫か…な?

 それに…魔王を倒して元の世界に戻れば、この話は無かった事になっているだろうし、早くこの場から開放されたい所だが?

 どうやってここから抜け出すかな?

 

 「むっ? 奴等の気配がする! 皆、壁から離れろ‼」


 俺はそう言うと、壁に炎魔法を放って壁を破壊した。

 そして俺の体に炎を纏わせてから倒れ込むと、そのまま気を失うフリをした。

 …っていうかさぁ…見てないで炎を消してくれよ、熱いんだよ!

 近くにいた刑事たちは俺の消火に当たった。

 そして…こんな演出をしたお陰が、俺の言っている事を少しは信じている様だった。

 俺は起き上がると、刑事たちに告げた。


 「奴等はこの程度で俺が死んでいるなんて思わない。 この警察署を戦いの場にする訳にはいかないから俺は行くが、良いよな?」

 「あぁ…これを目の当たりにすればな。」

 「ありがとう! いつか…いや、今は奴等だ! 変身!」


 俺は再びヒーロースーツに身を包むと、破壊された取調室の穴から飛び出して行った。

 こうなってくると…本当に魔王を倒さないと不味い状況になるな。

 俺は元の異世界に戻る為に学校の屋上に急ぐのだった。


 「そういえば…警察に捕まったという話は家に連絡が行っているよな? それにしては、誰も来てくれなかったが…どうなっているんだ?」

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る