第14話 サクヤの仕掛け・中編

 今…俺の目の前には、牢屋の中で拘束具を付けられて捕らわれている三人がいた。


 「ギルドの依頼で来てみれば…まさか捕まっているのがお前達三人とはな。」

 「サクヤ、助けに来てくれたのか!」

 「サクヤ君、お願い! ここから出して‼」

 「お願いよ、サクヤ‼」


 自作のシナリオで、まさかこうも早く捕まるとは思っていなかった。

 この世界は、良い人間もいるが…悪い人間も多いと教えておいた筈だったんだが…?

 まさか、あんな子供騙しの手で引っ掛かるとは思わなかった。

 つーか、コイツ等はこんなんで3か月後に会えるのだろうか…不安で仕方がない。


 「お前等さぁ…何で掴まってるんだ?」

 

 これに関しては、三人は口を噤んでいる。

 あんな子供騙しての手で引っ掛かっているから言えないのは当たり前か。

 

 さて…どうしてこうなったかは少し前に遡る。


 ~~~~~3時間前~~~~~


 牢屋の前で俺とセルリアは、話していた。


 「ここが奴隷商の地下牢という設定なら、数人は奴隷が居ないとおかしいだろう?」

 「やっぱ、そうだよな? この世界の奴隷の年齢っていくつくらいだ?」

 「口減らしで売られる娘なら、6歳~12歳といった所か。」

 「なるほど…後は演技の上手い種族を用意するか。」

 

 俺は召喚で、年齢は10歳から12歳くらいの三人の子供を呼び出したのだった。


 「サクヤ…ちょっと良いか?」

 「なんだセルリア?」

 「お前の召喚魔法というのは、契約した者を呼び出すという物だよな?」

 「あぁ…そうだが?」


 セルリアは俺の胸倉を掴んで叫んだ。


 「あれはどう見ても年端いかぬ子供ではないか‼ あんな子供と契約をして従わせるなど…お前という男を見損なったぞ‼」

 「何を勘違いしているのか解らないが、この三人も上の奴等と同じ魔物だ!」

 「どこからどう見ても、エルフと兎人族と人間の娘じゃないか‼」

 「はぁ…お前達、元の姿を見せろ!」

 「「「ははっ! 主様!」」」


 三人の少女達は本来の姿に戻ると、セルリアと同じ年位の女性に変化した。


 「サキュバス族・メーロアですわ!」

 「ネスティバニーのディアナだよ~♡」

 「ホムンクルスのニャミちゃん、およばれ~!」

 「…という感じで、子供の姿になっていて貰っていたんだよ。」

 「なるほど…それで、この者達はどういった種族なのだ?」


 言葉で説明するより、実践して貰った方が説明が早いと思い…セルリアから妖娘花を抜き取ってから牢屋の中に突き飛ばすと、セルリアは3人に捕まって…と、ここで見ていたら後で殺されかねないと思って上に避難した。

 

 ~~~~~20分後~~~~~


 俺は地下牢に戻ると、セルリアはあどけない姿で涙を流していた。

 すると三人が俺の所に来て言った。


 「主様、この方下さい!」

 「私は…男の方が良いですが、たまに女も良いですね♡」

 「このおねーさんの反応が可愛い♡」


 三人と話していると、セルリアはいつの間にか服を着ていた。

 そして扉からでたので、妖娘花を返すと…いきなり抜いて剣先を俺の顎に突き付けて来た。

 頬を真っ赤にして涙を流しながら無言の睨み付け状態…俺はすぐに謝ったが、当分は許しては貰えないだろう。

 セルリアはそのまま怒って出て行ってしまったので、俺は三人に設定を伝えていた…が?


 「おい、メーロア…お前の弟って確かインキュバスだったよな?」

 「ローアンは確かにインキュバスですが…」

 「ニャミにも妹がいたな?」

 「ニャムの事か~? だけどニャムは力が強過ぎて…」

 「今回の作戦には丁度良い! よし、2人を呼び出すか!」

 

 俺はホムンクルスのニャムとインキュバスのローアンを呼び出した。

 これで役者は揃ったので、それぞれに設定を演じる様に伝え、持ち場に付いて貰う事にした。

 コイツ等はどういう経緯で契約したかはいずれ話そう。

 だが、まずは作戦開始だ!


 ユウト、ミク、マミは俺と噴水広場で別れてから情報を集める為にそれぞれ3人に分かれて行動をしていた。

 初めての街で慣れる為には常に一緒に行動した方が良いと言った俺の忠告を無視した行動だった。

 その街の状態がある程度把握出来てから行動しないと危険だからだ。

 

 作戦名その1…「イケメンには気を付けろ!」


 この作戦のターゲットは…マミだ。

 ユウトはマミの事を気になってはいるが、マミは極度のイケメン好きだ。

 しかも細身の男だと尚良し!

 だから、騎士団の中にもイケメンはいたのだが、マッチョなのでアンテナに反応しなかった。

 ローアンの任務は、マミを口説いてお持ち帰り…という訳ではない。

 

 「すいません、貴方は治癒術士の方ですか?」

 「は…い、そうですが。」


 マミの前には、マミ好みの息を飲むようなイケメンがいた。

 

 「実は…この街に来る前に、妹が魔物にやられて怪我をしてしまったのですが…治癒術士の方が見当たらなくて困り果てていたんです!」

 「私で良ければ、妹さんをお助けしましょうか?」

 「ありがとうございます!」


 ローアンはマミの手を取って、マミの目を見つめた。

 イケメン好きだが男子に免疫がなく、困っている人がほっとけない性格なので…ローアンの行動にマミは落ちかけていた。


 「こちらです…」


 そう言ってローアンは、マミを路地裏の方に連れて行った。

 しかもマミは全く疑わないで着いて行った。

 そして路地を抜けた先に、ローアンの妹役のホムンクルスのニャムが顔が青ざめている状態で荒い息をしていた。

 ちなみにニャムのこの顔は演技ではない。

 だけど、体は何処もケガをしていないのだが…服には大量に赤い血痕が付着していた。


 「待っててね、今助けてあげるから…」

 

 そう言ってマミは、ニャムに回復魔法を施していた。

 だが、かなり強めの回復魔法を施しているのに…顔色は一向に良くならない。

 普通の治癒術士なら、ここまでの状態なら普通は気付くのだが…?

 マミはイケメンに頼まれて役に立ちたいと思いながら、必死に回復魔法を放っていた。

 すると、徐々にミャムの青ざめた顔が戻って行き…呼吸が安定した。

 マミはやり切った表情をして立ち上がろうとしたが、足がもつれて上手く立てなかった。

 そしてそのまま地面に横たわり、意識を失った所でミャムが起き上がった。


 「おねーさん、ゴチそうさま~♪」


 ミャムは魔力喰いのホムンクルスで、常に魔力欠乏症なので他者の魔力を奪って欠乏症を満たしていた。

 マミは調子に乗ってほとんどの魔力をミャムに吸われてしまった為に昏睡しているのだった。

 その隙にローアンは合図をすると、物陰に隠れていた2人のダークストーカーが現れてマミを担いで影移動した。

 そしてマミは装備を剥がされてから、拘束具を付けられてから牢屋に放り込まれた。

 これで…まず1人確保!


 作戦名その2…「ちょっとついて来て!」


 ミャムはミクに声を掛けた。

 

 「お姉ちゃんは騎士様だよね? 向こうで僕のお兄ちゃんが悪い人達に殴られているの! 助けに来て貰えないかな?」


 ミクは暴力事はあまり好きではない。

 だが、小さな子供は弟達を思い出させるので、何も疑わずにミャムの後を付いて行き路地を抜けるとそこには…3人の男達から暴行を受けているイケメンがいた。

 

 「貴方達、止めなさい‼」

 

 ミクはそう言って盾を構えて向かおうとすると…背後から2人の男に羽交い絞めにされてから、鎧のない箇所に手を当てられて雷魔法のスタンを浴びせられた。

 普通の人間なら気絶する程の魔法なのだが、覚醒したミクには効果が薄かった…とはいえ、ダメージは通っていて若干麻痺をしていた。

 普段の状態なら、男達は振り払える筈なのだが…体が麻痺していて思う様には動けない。

 そしてトドメを刺す様に、ミャムがミクの体に触れて魔力を吸い取ったのだった。


 「おねーさん、ゴチ~♪」


 ミクは魔力欠乏で動けなくなると、その場に居たダークストーカーに袋に詰められて邸の地下牢に行き、装備を剥がされてから拘束具を付けて牢屋に放り込まれた。

 これで…2人目が確保された。


 作戦名その3…「上手い儲け話には裏がある!」


 ミク、マミ、ユウトの三人が現在、直面している最大の問題は…金が無い事だ。

 フレイラッツの街には、5つの宿がある。

 貧民街に存在する宿屋は、格安だが食事が出ない上に不衛生。

 風俗街にある宿屋は、料金は安いが隣の部屋の壁が薄く…丸聞こえ。

 住宅街に存在する宿屋は、値段は中間だが食事付き。

 商業街にある宿屋は、割りと綺麗だが食事は別。

 貴族街にある宿屋は、Aランク以上の専用の宿屋で貴族も使用出来るホテルでサクヤとセルリアが泊っている。

 そんな中間の宿屋に泊まった三人だが、本来の資金なら2週間は泊まれた筈が…リュックの購入や道具を揃えていて、泊まれても1週間分くらいの金しかない。

 そんな訳で、冒険者ギルドに来てクエストを見ているのだが…?

 Fランクでは碌に稼げるクエストが無かった。


 「やはり…ランクを上げないと駄目か。」


 ユウトは、ギルドの椅子に座りながら計算をしていると…急に2人の兄弟らしき人に声を掛けられた。


 「貴方は魔術師様ですか?」

 「まぁ…そんなところです。」

 「実は兄妹で旅をしていたのですが、妹が魔物に殺されて亡くなり…外に墓を作ったのですが。」

 「それは御気の毒に…」

 「それでギルドに依頼をして魔術師様に、死者の弔いの魔石に火を灯す依頼をしたのですが…この街にいる魔術師では魔石に火を灯すという事が難しいらしくて、出来ない人がいないかを探していたのです。」

 「兄ちゃんは、火のは使えるか?」

 「あぁ、使えるよ!」


 ユウトは右手から炎を出現させてから握って消した。


 「すっげぇな兄ちゃん! これなら姉ちゃんの魂を天に上げられるな!」

 「魔術師様、お願い出来ませんか? 本来なら冒険者ギルドを通さないといけない決まりですが、急を要していまして…あまり時間が経ち過ぎると、妹の魂は天に上がれなくなるんです。」

 「そうだったんですか…ですが、ギルドの依頼では無いとなると報酬はないですよね?」

 「いえ…報酬は用意致します! 成功報酬になりますが…銀貨150枚を御用意しておりますので!」


 するとユウトは頭の中で瞬時に計算を始めた。

 銀貨150枚もあれば、当分の生活費には問題はない。

 しかも火の魔法を使って魔石に火を付けるだけ…!

 これ程美味しい仕事は無いと…。


 「わかりました、出来るかどうか解りませんが…自分がお手伝いしましょう!」

 「そうですか、ありがとうございます!」

 「あんがとな、兄ちゃん!」


 この時にユウトは気付くべきだったのだが、あまりにも高い報酬で考えが回っていなかった。

 そして兄弟に連れられて街の外に出ると、盛られた土に大きな石で作られた墓があった。

 その墓石の上には、球を置く台座があり…兄の方が台座に魔石をセットした。


 「それでは魔術師様、宜しくお願いします!」

 「あぁ、わかった! ファイア!」


 ユウトの放たれたファイアが、台座の魔石に当たると…青い光の柱が空に伸びて行った。

 

 「魔術師様…本当にありがとうございます!」

 「いえいえ、こんな事でお役に立てたのなら良かったですよ。」

 「本当に…本当に…本当に、鹿な奴で助かりました! 冒険者ギルドでは、貴族の指名依頼以外では…冒険者ギルドを通してでは無いと依頼を請けてはならないという決まりがあるのに、これだからFランクの初心者は騙しやすくて良いカモなんですよね。」

 「な…何だと⁉」


 男は手を挙げると、草の中から7人の男が立ち上がった。

 そして7人の男は、ゆっくりとユウトを囲み始めてから徐々に距離を詰めて行った。

 ユウトは杖を構えて魔法を使おうとしたが、魔力が上手く練り上げられなかった。

 ユウトは足元を見ると、先程の弟らしき子供がユウトの足に触れていた。

 ユウトは急に眩暈が起きて杖を落としてその場で倒れた。


 「ヘヘっ! 兄ちゃん、ゴチ♪」

 「では、この者も連れて行って下さい。」


 そしてユウトも装備を剥がされて、拘束具を付けられてから牢屋に放り込まれた。

 三人は意識が覚めると、自分に置かれている状況の意味が解らなかった。

 部屋の隅を見ると、三人の少女が体を寄り添って固まっていた。

 そしてこの後にサクヤが助けに来る…のだが、そんなに早く助けに来る訳では無かった。

 捕まったら…せめて自分の愚かさを悔い改める為に、拷問を受けて貰う…というのがサクヤのシナリオだった。

 一見…何処までも腐ったシナリオだが、この程度の事で捕まったコイツ等にも非がある。


 さて…拷問の始まりです!

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