第7話 サバイバルの基本
カスケード城を出発した俺達は、その日の午後に最初に躓いた。
何に躓いたのかというと…俺とセルリア以外の3人は旅に慣れていない為に歩き疲れたようだ。
「おいおい、たかが20㎞そこらでへばってどうする?」
「僕達は別にアスリートとかではないんだ! 歩くのだって限界がある。」
「お前らなぁ…運良く馬車が通ったりすれば別だが、それ以外はほぼ徒歩だぞ! こんなにちんたら歩いていたら、次の村や街に着くまでに何日掛かると思っているんだ?」
「もう少し休憩したら立つから…少し待って!」
「そんなに疲れたのなら、回復魔法でも掛けろ。 足の痛みは和らぐぞ…」
「その手があったか!」
回復魔法を掛ければ、足の痛みは和らぐ…代わりに魔力を消費して体力以上に疲労する。
果たしてそれにいつ気付くだろうか?
「足が軽くなったわ! これでいつでも行けるわよ!」
…と、張り切っている3人だが、いつまでその元気が続くだろうか?
次は20㎞も歩けない内にへばるだろうから、周囲を見てからキャンプに適した場所を探す事にする。
キャンプに適した場所は、出来れば木の多い所の下にテントを張るのが好ましい。
贅沢を言えば、高い岩壁の下とか…洞穴とかあると尚好ましいが…そんなもんにそう見付かる訳でもない。
そして一番やってはいけないのが川の近くだ。
地上の生き物が移動して水場を探すのが主に夜とか、水棲生物が活発に動き出すのが暗くなってからが多い。
他にも雨が降ったら増水するとか、水をせき止めて鉄砲水を起こすといった魔物がたまに居る。
4回目の異世界召喚で、俺の言いう事を聞かずに川の近くで寝泊まりした奴等の大半が喰われたりした。
「…と考えている内に、また座り込んでいたか。 まいったな…こんな調子ではいつになったら村に着くのだろうか?」
「異世界人はこの世界で素晴らしいジョブの恩恵を授かると伝えられていたのだが…」
「これじゃあ、ただの宝の持ち腐れだな。 ほれ、早く立て! もう村に泊まるのは諦めたから、キャンプを出来る場所を探すぞ!」
「サクヤ、もう少し待ってくれ…」
「わかった! では、マサギに会ったら宜しくと伝えておいてくれ!」
「それは…?」
「どういう…?」
「こんな状態でお前達に付き合っていたら、10年経っても魔王は倒せそうも無いからな。 俺はセルリアと共に先に行くから、好きなだけ休むと良い。 運が良ければ盗賊に捕まって、ユウトは殺されるか奴隷として売られて、マミとミクは盗賊達に散々弄ばれてから奴隷か一生慰み者になる。 運が悪ければ魔獣に食い殺される。 だから、マサギに会ったら宜しくというのはそういう意味だ! 行くぞ、セルリア!」
「良いのか、サクヤ?」
「あぁ、動けるのに動けない振りをして甘える態度が気に入らないのでな。」
「なるほど…」
俺とセルリアは歩いて行くと、3人は立ち上がり着いてきた。
人間…声が出る内はまだ動ける。
本当に疲労で動けなくなった時は、喋る事すら出来ない。
そして空が赤く染まって来た頃になって、キャンプを出来る所を探すのだが…?
「だめだ…理想な場所に辿り着けなかった。」
「こんな周囲に何もない所でキャンプでは、襲ってくれと言っているものだぞ!」
「だよなぁ…3人は見張りをしろと言っても、任せるのには頼りないし…」
「吾が起きていようか? 吾なら2日3日くらい寝なくても平気だが。」
「それだとセルリアに負担を掛けるからな…お前等、パーティーに俺がいたことを感謝しろよ!」
俺の言葉に4人は不思議そうな顔をした。
俺は地面に手を置くと、土魔法を使って巨大な柱を4つ出現させてからその間を塀で囲んだ。
そして天井には結界を張って空からの侵入を防ぎ、中には4つの区画を分けてから風呂スペースとトイレ、寝床、食事スペースに分けた。
残り一画は、万が一に備えての空間だった。
この周りの囲いは、滅多な事では破壊される事は無いが、万が一がある。
俺は風呂場に目隠しの壁を出現させてから、穴を魔法で作って…中に水魔法と火魔法でお湯を入れる。
「風呂の用意が出来たから、女共は先に入れ!」
「覗いたりはしないよね、サクヤ君?」
「覗いたらぶっ飛ばすわよ!」
「その元気があるのなら、もう少し歩いて欲しかったな…」
「吾は別に構わないが…」
その言葉に3人は固まった。
ここは異世界だ…恐らくセルリアには倫理観というのはあまりないのだろう。
まぁ、冒険者だしな…エロ目的なら容赦がないだろうが…
「良いからさっさと入れ! こっちはこれらの魔法を使ってそんな元気はねぇんだよ‼」
「ユウト、サクヤを見張っておいてね!」
ミクがそう言うと、3人は風呂に入って行った。
俺は立ち上がると、ユウトは俺の前に立ち塞がった。
「サクヤ…何をする気だ?」
「あ? 飯を作ろうと思ったんだが…何をすると思ったんだ?」
「食事か…風呂を覗きに行くのかと思って…」
俺はユウトを笑みを浮かべながら見ると、風呂の方に向かって叫んだ。
「ユウトが風呂を覗いているぞ!」
「自分はそんな事はしていない!」
「ムキになるなよ…覗いているのがバレるぞ!」
「自分は覗いてない…」
「ユウトはマミの裸がみたいのかーーー」
「そんな事は言ってないし、してもいない‼」
風呂場の方からミクとマミの声が聞こえて来た。
ユウトは酷く怒っていたが、立ち上がる程の力は無かった。
それだけ疲労が溜まっていたのだろう。
俺はユウトを無視して料理を作った。
カスケード城の城下街で、デュラムセモリナ粉が手に入ったのでパスタに挑戦した。
女子達は敬遠するだろうけど、ニンニクとハーブたっぷりのペペロンチーノを作った。
翌日もまた歩く為に、少しでも精を付けてもらう為だった。
女達が風呂から出ると、先に食事をする様に言っておいた。
「ほら、エロユウト…お前が先に入れ!」
「サクヤ…覚えてろよ!」
そういってユウトは風呂場に向かった。
俺はその隙に寝床を整えておいた。
何でこんな事が出来るかって?
それは安全に寝られる為の寝床を確保する為に必要だったからだ。
パーティーに参加できていれば苦労はしないが、ソロだと村や街にでも入らない限り熟睡が出来ないからだ。
「飯を喰ったらさっさと寝ろ。 明日も歩くからな…」
「こんなに早く寝られないわよ!」
「ならそこの広場で、スクワットを500回くらいやってろ。 そうすれば眠くなるから…」
「いえ、大人しく寝ます。」
「サクヤ君…襲わないでね!」
「襲うか‼ 下らねぇこと言ってないで早く寝ろ‼」
こんなに早く…と言っていた割には、寝床に入ってから物の数分で寝息が聞こえて来た。
そしてユウトも風呂から出ると食事をしている最中に眠りこけたので、寝床に運んでやった。
「全く手の掛かる奴等だ…だがやっと風呂に入れる!」
俺は体を流してから風呂に浸かると、セルリアが入って来た。
セルリアにとっては、大して疲れてないのだろう。
俺は一緒に入るかと誘った。
すると、セルリアは頷いて湯船に入って来た。
そしてセルリアは俺の体を見て言った。
「サクヤの体は、前も後ろも傷だらけだな?」
「俺は3人と違って異世界召喚は初めてでは無いからな。 過去に数度召喚されてその世界を救って来た。」
「過去に数度って…サクヤは今回の召喚で何回目なんだ?」
「今回で7回目だ。 傷が多いのは、最初と2回目の召喚で斬られたり斬り飛ばされたりされたからな。 その時の怪我は回復魔法で治ったが、傷は残った。」
「なら、その傷は今迄激しい戦いの証か?」
「そんなところだ。 アイツらと一緒に風呂に入れないのは、その辺を気を使っているだけだ。 セルリアなら問題はないだろ?」
「あぁ、旅した仲間には傷は多い者も居たからな…だが、そこまで傷の多い者は見た事は無いが…」
その後に今迄の召喚の話をセルリアに聞かせて言った。
そして風呂から出ると、2人共次の日に備えて寝る事にした。
翌日…皆よりも早く目が覚めた俺は、空いた区画で素振りをしていると、セルリアが起きてきて手合わせを願って来た。
俺は木刀を渡して試合をした。
そして…
「はい、また俺の勝ち!」
「もう1本頼む…」
「はいはい、どうぞ~」
こんな感じで20本中全勝だった。
セルリアは負けず嫌いな性格だったのか、何度も挑んできたが…全て俺が勝った。
「やはり…掠りもしないか!」
「だが、剣筋や剣速は良い物を持っているな。 段々鋭くなっているぞ。」
「6つの世界で魔王を倒したという話は本当だったんだな?」
「まぁな! あ、そうだ! セルリアの目標を聞かせてくれないか? まだ聞いていなかった。」
「吾の目標か? 今の仲間達と一緒に魔王を倒す…」
「俺が一緒なんだから、魔王は倒すは当たり前だ。 どうせなら、魔王を倒す前に俺に一撃を入れるのを目的にしたら良いんじゃないか?」
「それは…魔王を倒すより難しそうだな…?」
「セルリア、妖刀を出せ! 正しい構えから、居合の方法を教えてやる。」
「あぁ…片刃の刀というのは使った事が無いのでな、宜しく頼む!」
俺は他の3人が起きるまでの間、セルリアに刀の使い方を教えた。
そして3人が起きると、食事をしてから再び歩き出した。
ここまで大きな戦闘は無かったが…とりあえずは、50㎞を歩ける体力を身に付けるのを目標にしたいが…
それはいつになるのだろうか?
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