第4話 サクヤの挑発
俺はこの城から旅立つ為に、残り日数は関係各所に挨拶をして回ったりしていた。
今日という日は、他の3人も挨拶周りで別行動だった。
「騎士団詰め所と兵士の詰め所と…冒険者ギルドには一応挨拶をしておくか、これから各支店でも世話になる訳だし…後は、剣聖にも謝罪は必要か!」
冒険者登録をした際に出会った、Sランク冒険者のセルリアという女を辱めたのだった。
辱めたと言っても、下着を見ただけなのだが…かなり睨まれていたのを無視したんだっけな?
仕方ない、蟠りは無くしておいた方が良いし…謝罪だけはしておいた方が良いだろう。
ただ…まだいるかどうか?
俺は城下街に降りてから冒険者ギルドに向かった。
「これはサクヤ様! 今日はどの様な要件でしょうか?」
「もう少ししてから他の大陸に移るので、世話になった挨拶と…セルリアという冒険者に用があるのだが?」
「セルリア様…Sランクパーティーですね。 彼女達のパーティーは現在…岩山に現れたボルテックスドレイクの調査討伐に向かっております。」
「なぁ、ギルマスから俺の事は聞いているか?」
「はい、存じております。」
「俺はこの世界に来てから日が浅いのだが…そのボルテックスドレイクというのは、Sランクが相手する様な奴なのか?」
「いえ…討伐ランク的にはAランクなのですが、数多くのAランクパーティーが敗戦しているという話ですので、彼女達のパーティーが調査に乗り出してくれました。」
討伐ランクがAランクなのに、Aランクパーティーが敗戦続きか…。
ふむ?
「なぁ、そのボルテックスドレイクというのは…変異種とかの類か?」
「実際に目にした訳ではないので何とも言えませんが…ドレイク=龍種なので何かある場合も想定しておかないとですね。」
「先程岩山と言っていたが、そこが奴の住処なのか?」
「はい、その場から離れようとはしませんね。 ただ、たまにその場から離れると、近隣の家畜が襲われるという話なので…」
「それは変な話だな? 龍種の類は、一度摂取すると当分の間は活動を止める筈だが?」
「そうなのですよね…龍種が頻繁に活動を起こすとは考えにくいんです。」
龍種=ドラゴン族は基本的に、一度腹を満たすと数か月は活動を休止する筈?
消化が遅いので、体を休めたり休眠によってゆっくりと消化していくのだ。
まぁ、もっとも…他の生物や冒険者が奴のテリトリーに入らなければという話だが?
ただ…?
「なぁ、そのボルテックスドレイクってメスで産卵時期とかではないか?」
「産卵時期ですか…確かに、腹を満たす為にはそれ相応の大きさを求める筈が、襲われるのは近隣の家畜という話ですからね。 産卵時期と考えれば、無理をして大きな獲物を狩るよりも…あまり巣から離れる事が無く簡単に仕留められる獲物を…という訳ですか?」
「あくまで可能性の話だ。 確証があって話をしている訳ではない。」
「確かに…その辺りの考えが抜けていました。 サクヤ様は魔物の生態に詳しいのですか?」
「生き残る為には敵を知らなければならない。 慎重な性格なんでな、気になるととことん突き詰める癖があってな。」
「高ランク冒険者向けな考えですね、低ランク冒険者にも見習って欲しいです。」
低ランク冒険者がすぐに死ぬ理由は、主な原因として相手を甘く見る傾向がある。
その為に事前に調べもせずに出たとこ勝負の者が多くて、全滅するパーティーが多い。
「俺の考えている事が正しければ…Sランクパーティーはもしかしたら危険だぞ?」
「彼女達のパーティーなら大丈夫かとも思いますが…他のランカーにも声を掛けた方が良いかもしれませんね。」
「場所を教えてくれれば、俺が行くが?」
「ですが、岩山地帯はここから2日ほど掛かりますが?」
「問題ない!」
俺は浮遊魔法を使って浮いてみせた。
受付嬢は俺の姿を見て驚いていた。
「この状態なら、この大陸を1周くらい1日で回れる。」
「それは、飛行魔術ですか? 初めてみました!」
「まぁ、似た様な物だ。 それで、方角的にどっち方面だ?」
「ここから南西に行った場所になります。」
「わかった、急いで向かってみる。」
俺は冒険者ギルドを出ると、すぐに浮遊魔法で岩山地帯に向かった。
そして10分後にその場所に辿り着くと、セルリアという冒険者が剣が折れた状態で立ち回っていた。
他のメンバーを見ると…来るのが遅かったみたいで既に死んでいた。
「下がれ!」
「貴方は…あの時の⁉」
俺はセルリアの前に出ると、聖剣を取り出してからボルテックスドレイクを鑑定した。
「変異種ではないが、進化系か…」
「進化しているのか⁉ どおりで途中から他の者達が適わない筈だ。」
「アイツの相手は俺がする、邪魔だから下がっていろ!」
「しかし…1人では?」
俺はボルテックスドレイクの首を刎ねると、刀身に付着していた血を振って払った。
「何か言ったか?」
「そんな…あっさりと………」
俺はセルリアに話し掛けると、上空で拍手をする音が聞こえた。
「お見事ですね…ボクの力を貸したボルテックスドレイクをあっさりと…やはりただ者では無かったみたいですね。」
「男の子?」
「いや、魔族だ。 お前はあの時の
「貴方という人は…本当にボクを苛つかせてくれますね…誰がレッサーですか⁉」
「冗談だ…お前は
「はぁ…やれやれですね。 魔王様の側近であるボクが…そんなに地位が低い訳がないでしょう! ボクは
「…という事は、その姿は偽りか? 真の姿があるんだな?」
「当然です…これは魔王様の趣味で、ボクはこの様な姿に模しているだけですよ。」
「魔王はショタコンか…って事は、魔王は女か?」
「そんな事よりも…前回はよくもボクを虚仮にしてくれましたね…」
「質問に答えろ、レッサーデーモン!」
俺の言葉に怒りを感じたのか、少年は険しい顔になった。
「貴方という人は…本当にボクを怒らせるのが好きみたいですね!」
「質問に答えないからな。」
「良いでしょう…魔王様は女性の方です。 ボクがお仕えしているのは、真魔王・マーデルリア様ですよ。」
「それは、三魔王のどれかか?」
「そんな訳がないでしょう! 三魔王の頂点に仰せられる御方です。」
なるほど…これでこの世界を支配している魔王の名前を知る事が出来たな。
それにしても女が魔王か…過去の召喚の時も女の魔王はいたが、やり難かった覚えがあるな。
「それはそうと…今日は復活した勇者は連れていないんだな? 奴は魔王城か?」
「今回はその件で来たんですよ、ボクに砂を渡すなんて…」
「砂? 何の事だ?」
「しらばっくれるつもりですか? 貴方がボクに渡した壺の中身は砂だったんですよ‼」
「砂? そんな筈は…」
俺は収納魔法の中に首を突っ込むと、思いっ切り笑みを浮かべた。
魔王の側近が偽物を掴まされて魔王に献上した姿に笑いが込み上げて来たのだ。
「あ、済まない…前回渡したのは石灰だった。」
「そうでしたか…」
少年は姿を消すと、セルリアの背後に行って首に鎌の刃を当てていた。
「この女を殺されたくなければ…今度は本物を渡す事をお勧めしますよ。」
「人の命が掛かっている時にふざける事なんか出来ねぇよ! これが、ユーシャの灰だ。」
「それが本物である証拠はありますか?」
「お前…鑑定は使えないのか?」
「鑑定ですか…そういえばその手がありましたね!」
少年は鑑定魔術を使うと、その壺には【ユーシャの灰】と記されていた。
それを確認すると、少年は笑みを浮かべた。
「今度はどうやら本物の様ですね?」
「だから言ったろ、この状況で嘘はつかんと…」
「良いでしょう、この女は開放しますよ。」
少年はセルリアを開放すると、その場から飛び去って行った。
「大丈夫か? キュアヒール!」
「あぁ…怪我が治った?」
「済まなかったな…もう少し早く来ていれば、仲間は助けてあげられたかもしれなかったのに…」
「いや…冒険者である以上、仲間の死や自分の命はいつ果ててもおかしくはない。」
俺はセルリアの仲間の遺体を布で包むと、収納魔法に入れた。
そしてセルリアに触れると、冒険者ギルド前に転移したのだった。
「ここは…冒険者ギルドか? 貴方は、伝説の転移魔術が使えるのか⁉」
「まぁ、そんなところだ。 とりあえず、報告を済ませよう。」
俺とセルリアは冒険者ギルド内に入り、受付に報告すると…ギルマスのアダンが飛んできたので事情を話した。
「魔王の側近の力を与えられたボルテックスドレイクに、Sランクパーティーが壊滅だと⁉」
「デーモンロードが魔王の側近と考えると、魔王は相当な力を持っているという事になるな。」
「デーモンロードか…三魔王でもそこまでの力があるかどうかだな。」
「だろうな、普通に考えれば…デーモンロード程の力がある奴が魔王に下っている理由が解らんからな。」
デーモンロードなら、普通に魔王を名乗っていてもおかしくはない実力がある。
それが魔王の配下で側近となると…考えるのが少し怖いな。
勝てない事は無いだろうが…手順すっ飛ばして魔王を倒した時に現れた、魔神位の実力か?
「だが…デーモンロードがこんな辺境な場所に何しに来たんだ?」
「どうやら魔王がな、マサギと俺のやり取りを見ていたらしくてな…灰になった勇者の灰を欲しがっているようだ。」
「勇者の灰…配下として扱う気か?」
「目的はそうらしい。」
「先程のセルリアの話だと、サクヤ殿がデーモンロードに何かを渡したとあったが…それが勇者の灰か?」
「いや…ユーシャの灰だ。」
「同じ言葉に聞こえるが?」
「名前は一緒だが、全くの偽物だ。」
「サクヤ殿はあの状況で…良く偽物を渡せたな!」
ギルマスのアダンとの会話を終えると、俺はホールにやって来た。
セルリアは俺を見付けると駆け寄って来た。
「サクヤ…殿! 此度は感謝する! 礼なのだが…我に出来る事は少ないが出来得る限りの事はしよう。」
「それはどこまでという意味だ?」
「貴方が望むのなら命だって賭けれる。」
「ならホテルで夜の相手をしろと言われたら出来るのか?」
「それが…貴方の望む事なら。」
「ふぅ…あまり自分を安売りするなよ。 そうだな…礼か?」
「何でもする!」
「なら俺のパーティーに参加して魔王討伐に力を貸せ…と言ったら?」
「魔王討伐が貴方の目的なのか?」
「上手く行けば、仲間の仇も取れるかもしれないぞ! 直接的な仇はボルテックスドレイクだが、その原因を作ったのはデーモンロードだからな。」
セルリアは考え込んでいた。
こんな話はすぐに答えは出ないだろう。
「俺は3日後にこの国を立つ。 それまでに返事を聞かせてくれ…」
俺はそう言うと、冒険者ギルドを出た。
セルリアがもし参加してくれるのならば、ひよっこの3人の面倒を分担して見れる事も出来るし、この世界に詳しい者がいると旅もスムーズに進むだろうからな。
俺は城に戻って、国王陛下にも一応報告した。
国王陛下は、勇者損失以外に新たな問題に頭を抱える羽目になったのだった。
~~~~~一方、魔王城では?~~~~~
「マーデルリア様、勇者の灰を手に入れて参りました!」
「でかしたルック…では、儀式を開始するが…今度は本物でしょうね?」
「間違いありません、鑑定も行いましたので…」
「そうですか、では勇者の復活を!」
マーデルリアは陣の上に壺の蓋を開けて詠唱を唱えた。
すると壺の中の灰が地面に流れ出して、徐々に形を成してきた。
そしてその姿が完成すると…?
『ブモモモモモモモーーーーーンンン‼』
…という鳴き声が魔王城に響いた。
マーデルリアとルックはその姿を見て唖然としていた。
「ルック…これは何ですか? 貴方は鑑定をしたと言っていましたよね?」
「え? あ…え…あれ? あれ??」
「また騙されたのではないのですか、あの人間に…」
「何度も何度も…主の前でボクを虚仮にしやがって‼ あの人間…次は本気でぶっ殺してやる‼」
サクヤがルックに渡した【ユーシャの灰】とは、ユーシャーという品種の牛の骨の灰だった。
ユーシャーという品種は、牛の中で最も高い地位にいる品種で…意味は【大いなる者】という希少な存在だと言われて重宝している。
この世界の品種の牛の種類であった。
だから鑑定しても…【ユーシャの灰】と表示されるので、ルックは疑わないのであった。
それにしても、サクヤは何でこんな物を持っていたのだろうか?
その謎が明かされるとしたら、また別の話で語られるだろう…か?
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