一本桜のその下で

三愛紫月

久しぶりにいた人

彼女に出会ったのは、今から16年前の出来事だった。


「チー子、もうお婆ちゃんになっちゃったよな。」


僕は、ヨタヨタ歩くチー子と一緒にこの場所にやってきた。


今年も、綺麗に咲いてる。


毎日、毎日、チー子はここに足を運ぶ。


俺より、8つ下の弟が明日結婚する。


「チー子、いないんだよ。もう、富士丸には会えないんだよ。」


【ワン、ワン】


珍しくチー子が、吠えた。


「えっ?」


サラサラの茶色の髪の毛をなびかせて、真っ黒なワンピースを着た女の人?が、立っていた。


「チー子、駄目だよ」


「富士丸の友達?」


その子は、富士丸と呼んだ犬を見せる。


【クゥーン、クゥーン】


チー子は、凄く喜んでいた。


「すみません」


「いえ、いいんですよ」


その人は、チー子を撫でる。


【チー子ちゃんって言うの、可愛いね】


その笑顔が、あの子に重なった。


「あの、いつも此処で話してたの覚えてますか?」


「えっ?あー。姉をご存じ何ですか?」


「姉…?」


「はい、双子の姉です」


そう言った彼女を見て、僕はこの人が男だと確信した。


「君は、男だよね?」


「はい、男です。」


「何で、そんな格好をしてるの?」


「母が、あの日から許してくれないんです。私が、男になるのを…。」


そう言って、寂しそうに笑った。


「許してくれないって?」


「あれ、あの事件を知らないんですか?」


「事件って、何ですか?」


「自分で、調べて下さい。桜の花女児殺害事件。調べたら、一発で出てきますよ。この場所が…。」


「あの、君の名前は?」


「私は、相原夢希あいはらゆめきです。」


「あの、また会える?」


「明日もいますよ。この時間に、じゃあ」


そう言って、彼はお辞儀をして去っていった。


「チー子、帰ろう」


【クゥーン】


チー子は、寂しそうにしながら帰った。


「いっちゃん、お帰り。明日のスーツ用意した?」


「あっ」


「またかい?兄ちゃんは、アホやなー。」


「うるさいな」


僕は、チー子を繋いで二階に上がる。


明日も会えますか?なんて、言っておきながら弟の結婚式を忘れていた。


僕の名前は、沢村一季さわむらいちき、30歳。会社をクビになって、ただいまフリーター。


「アホやな、俺の貸す?シワシワやで」


「ノックぐらいしろよ」


こいつは、沢村大和さわむらやまと22歳。高校から付き合っていた彼女の紗奈さなさんと明日結婚する。


順風満帆な人生だ。


「桜の君を忘れられんのもたいがいにしとけやー。兄ちゃん、もう30やろ?おかんとおとんが泣くで」


「相変わらずだな。好きな人の喋り方になるの」


「郷に従えって、やつやん。で、また、チー子と散歩行ってたんやろ?桜の君には、会えたんか?」


「あっ」


僕は、パソコンを開いた。


【桜の花、女児殺害事件】


「何か、こわそうやな」


「ああ」


僕は、クリックを押した。


本当だった。


一発で、見つかった。


えっと、何々…


事件が、起きたのは今から15年前だ。


「女児って、一人除いて男やんか」


大和の突っ込みに僕は、パソコンを凝視した。


本当だ。


相原夢子あいはらゆめこ、彼女以外は、全て男児の名前だった。


春日井忍かすがいしのぶ【8歳】、立川幸也たちかわゆきや【9歳】


沢見友基さわみゆうき【10歳】、鳴海隼人なるみはやと【11歳】


相原夢子【12歳】


「何で、一人だけ女の子なん?」


「さあな?」


記事には捕まった犯人が、ミスをした。と繰り返し話したと書いてある。


「ミスってな。こんだけ殺しといてよおゆうな」


「大和は、この事件覚えてる?」


「あー。せやな、おかんが、何か言ってたわ。兄ちゃんは、ええけど。あんたは、チー子の散歩行くなとか何とか」


「そうか」


「一本桜が目印って書いてるやろ?チー子が、好きな場所がそうやから、アカンって言ってたわ」


「確かに、書いてる」


【一本桜の下で、一人で過ごす男児や女児に声をかけたと言う。】


「大和ー。紗奈ちゃんきたよ」


「あー。わかった。ほな、先おりとーで」


「うん、すぐに行く」


大和は、下に降りて行った。


僕は、あの日を思い出していた。

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