第77話 I tremble at the blade of the one who desires……

「「「考え?」」」


 スサノオの発言に3人はキレイに揃ってハモっていた。まぁ、キレイにハモってはいたが、3人のその発言に続きがあるとするならば、その部分はキレイに揃わなかったのもまた事実だろう。



「ねぇ、操られてた時の事を何か覚えているの?その、フレイヤにされたコト……とか?」


「いんや、サッパリ。ってか、なんだそれ?」


「うぇあッ?!う、ううん、な、なんでもない、なんでもないのよ。でもってそれじゃあ、どんな「考え」があるって言うのよ」


「なぁんか、気になる発言だったな。まぁいいか、見てろよ」


 少女が気にしてたコトは「スサノオが覚えているか?」だった。だからフレイヤを引き合いに出したものの、あの時あの場でフレイヤにされていたコトをスサノオが、自分がスサノオにした事もと考えたのである。

 当のスサノオが覚えていたら、今後目を見て話す事なんて出来ないくらい恥ずかしくて溜まったモンじゃないからだ。



「八雲立つ 天日鷲あめのひわしの 八咫烏やたがらす 山宝さんぽう瀧宝たきほう 牛玉宝ごおうほう かしこみ畏みオレサマ放つ」


しゅっ


「そぅらよッと」


 スサノオは詠唱を紡ぐと髪から一本の結櫛ゆいぐしを抜き、空に向かって投げた。空に投げられた結櫛は詠唱に拠る力を宿し、一羽のからすへと変貌を遂げていくのだった。

 そしてそこに「三足みつあしの烏」が現れたのである。



ふぁさッ


「よし、上手くいったようだな。どうだ?これがオレサマの力だ」


カーッカーッ


「烏よね?」

 「烏ですね」

  「烏にしか見えないな」


「おいおい、見えねぇのか?この烏は脚が3本あるだろ?」


「あ、ホントだ。それって……」


「あぁ、道案内の名人……いや、名鳥・八咫烏やたがらすだ。さぁ、行けッ。あの女の居場所にオレサマ達を導け」


カーッカー


 スサノオは「三脚の烏やたがらす」を空へと投げ、投げられた烏は空を舞い案内役となったのである。



「アレに付いて行けば、目的地に着く。見失わないようにとっとと行くぜッ」




「さあいい加減に、わちきのモノになるのですわ。欲望に任せてわちきのとりこになって愛欲にまみれて、サカッた犬のように淫靡いんびに腰を振るのですわ。ねぇ、アナタ程の可愛らしさなら、わちきのペットとしてずっと傍においてあげるのですわ」


 ここはフレイヤの住まい「フォールクヴァング」である。「フォールクヴァング」はフレイヤの宮殿であり、フレイヤの意思一つで場所を定める事が出来る。拠って今はフレイの所有地である「アルフヘイム」に存在している。

 そして、「フォールクヴァング」の地下牢獄に囚われているのはバルドルを始めとした「アースガルズ」の面々だった。



「フレイヤ殿、貴女ともあろう御方が、何故なにゆえに血迷われたのですかッ!?」


「まぁ、わちきの魔術遊戯セイズに対して随分と抵抗なさるのですわね?それじゃあ、わちきのカラダを使って、わちきなしでは生きていけないようにして差し上げるのですわ」


 下着すら着けず薄衣うすぎぬ1枚しか身に纏っていない妖艶な姿のフレイヤは、その手指をバルドルの身体に這わせていく。半裸に剥かれたバルドルの顔を胸を腰を手指しゅしまさぐり、妖艶な笑みを浮かべ、籠絡ろうらくしようとしていた。

 更には自分の豊満な胸元ワガママバストをバルドルの顔に擦り付けると、バルドルの身体を弄っていた手はそのままバルドルの下半身へと伸ばされていった。

 それは並大抵の男であれば鼻の下を伸ばして、直ぐにでも己の欲望に身を任せてしまうことになるだろう。だが、バルドルはそんな淫靡な誘いに屈せず必死に抵抗していた。



「うふふ♡流石は光の神子みことでも言うべきなのですわ?でも、いつまで強がっていられるか楽しみですわね?ほら、もうここはカチコチですわよ♡♡わちきのモノになれば直ぐに快楽に溺れさせてあげるのですわぁ♡♡♡」


 フレイヤは口元を歪ませ妖艶な笑みを浮かべたまま、抵抗が出来ないバルドルの顔を豊満な胸元ワガママバストうずめさせ、更にバルドルの下半身を甚振っていく。



「い、異変を感じた父上が、必ずや軍を差し向けてくれる筈です。それまで持ち堪えれば……フレイヤ殿、貴女の負けです」


「うふふ♡可愛いわぁ、バルドル♡まだ、あの人が軍を送ってくれると思っているなんて。でも、それまでココは持ち堪えられないようですわよ?ほらもう、パ・ン・パ・ン♡ちょっと突付いただけで可愛らしい悲鳴を漏らすくらい、挿れたくて挿れたくて出したくて出したくてもうガマンの限界のようですわよ?ほら、スグに堕ちてしまえばラクになるのですわ。そ・れ・に・ね♡もう、助けなんて。うふふふふ♡♡」


「なッ?!それはどういうことなのですッ。ひゃうッ、や、やめろヤメロやめて下さい。お願いします」


「もう、貴方の帰る場所なんて、無いのですわよ?「アースガルズ」はもう、失くなってしまったのですわ。国は滅んだのですわよ。貴方がここでこうして遊んでいるうちに、貴方は帰る家を失ったのですわ。うふふ♡それじゃあほらッ、もっと可愛い声で喘いで、わちきをもっと愉しませるのですわ♡♡そしたら、ちゃあんとイカせて差し上げますわ」


「そ、そんな、「アースガルズ」が、陥落した……?」


「あぁ、なぁんだ、カラダがイク前に心が逝ってしまったのですわ。これじゃツマラナイですわね。壊れたオモチャじゃ遊べませんわ」


 これがフレイヤの魔術遊戯セイズの力に因って、バルドルの心が完全に打ち砕かれた瞬間だった。こうしてバルドルは死んだ魚のような目で床を見詰め、何やらブツブツと話しているだけであり、そこに「光の神子」と称された姿は微塵もなくなっていたのだった。



「おや?何かが近付いて来ているのですわ。はぁ、バルドルの仕上げにはまだまだ時間が掛かりますのに……。仕方がないですわね」


 フレイヤはバルドルに対して最後まで仕上げをする事が出来なかった。然しながらバルドルに施す「仕上げ」がどんなモノだったかはさておき、「フォールクヴァング」に近付いて来る者達を先に対処すべく、地下牢獄を後にしたのである。

 拠って、そこには心を壊されたバルドルの、嗚咽にも似た悲痛な独り言だけが鳴り響いていた。



「ははは、嘘です、全部嘘です……ははは。全部嘘に決まっています……はははは、ははははははははは」




ばさっばさっ

 カーカーッ


「ここかしら?」


 少女達は烏の案内で大きな宮殿の前に辿り着いていた。そこには巨大な宮殿がそびえ立っていたのだった。

 そして道案内をしてくれた烏は2回鳴いたあとで満足そうに消えていった。さり気なくその顔がドヤっていた気がした少女だった。



「どうやら、ここで間違いなさそうだぜ」


「でも、門が閉まっているようだが、どうする気だ?中にいる召し使いでも呼ぶのか?」


「へっ、まさか。ここは敵の本拠地なんだ。そんなコトしてられっかよッ!こうするに決まってんだろうがッ。ふんッどぅおおぉぉぉぉぉぉぉりゃッ」


ごごごごごごごご


「こ、これは凄い。流石はスサノオ殿」


「そこ、褒めるトコなの?」


 スサノオは鉄門扉てつもんぴに手を掛けるとそのまま強引に押していった。かなり強引な手口でしかなく、ヘルモーズはその馬鹿力を褒めていたが少女としては複雑な気持ちだった。



「へっ、やっぱり待ち構えていやがったな」


「ウル殿、ヘイムダル殿、御無事でしたかッ!」


がしッ

 グいッ


「スサノオ殿、一体何を?」


「ヘルモーズ、わりぃ事は言わねぇ。アイツらは敵だ」


「まぁ、当然だろうな。敵の本拠地に捕らえられてるハズの者がなハズはない。そうは思わないか、ヘルモーズ殿?」


「で、ですが、拘束を解いてここまで逃げて来た……ッ!?スサノオ……殿?」


 スサノオは向かって来る2人を見据えたままだ。しかし、ヘルモーズは噛み締められたスサノオの唇から血が滴っているのを見て、言葉を詰まらせていた。



「アイツら、操られていやがるぜッ!フレイって野郎と同じ「風」を纏っていやがる。おぉくせぇ臭ぇ」


「そんなッ!そ、そうだ、バルドル兄上は?バルドル兄上ならッ」


「サリエル!片方、任せていいか?」


「なんなら、両方でも良いが?」


「へっ、言ってくれるねぇ。だがあんな美味しそうなモン両方とも譲れっかよッ!そんじゃあ、あっちのちっちゃい方は任せたぜッ」


「まったく、スサノオはスサノオバトルジャンキーだけど、サリエルまでそんな感じだったなんて、思ってもいなかったわ」


 こうして2人の対戦相手は決まった。スサノオがウルと闘う事になり、サリエルはヘイムダルと闘う事になったのだ。だが一方で残された2人に対しても、何をすべきかスサノオが一方的に決めていったのだった。



「おめぇはそいつと一緒に先に行け、んでもってあの女を倒して来いッ!」


「えっ?非才もですか?」


「ヘルモーズ、おめぇにあの女フレイヤが倒せんのかよ?おめぇは捕まってるヤツらを助けに行くに決まってんだろうがッ」


 スサノオの言の葉は至極真っ当だった。確かにヘルモーズはこの中では格段に弱く足手まといでしかないが、捕まってる者達を助ける事は可能だろうし、いざとなればドラウプニルを使って逃げる事も出来る。それを踏まえれば適材適所なのは間違いがなかった。



「なぁに、仕切ってくれちゃってんだか。まぁ、いッか。ヘルモーズさん、アタシ達も行くわよ」


「ですが、非才が付いて行けば足手まといに……」


「ここにバルドルがいないなら、まだフレイヤに抵抗してる可能性があるわ。バルドルを助けるなら、助ける気があるなら、立ちなさいッ!」


「は、はいッ!」


「うんッ、宜しい。それにアタシはあの女フレイヤを倒す事だけに専念しなきゃならないだろうから、アタシはバルドルに構っていられる余裕はないと思うの。だから、ヘルモーズさん、よ。それに中の敵はアタシに任せてッ、みんなまとめて、ちゃあんとぶっ飛ばしてやるんだからッ」


「ははは、スサノオ殿の事を貴女も言えませんな」


「ん?何か言ったかしら?それじゃ駆けるわよッ!」


 少女はヘルモーズに発破を掛けた。そして宮殿の扉に向かって走り出していく。

 ヘルモーズが言った言葉はちゃんと聞こえていたが、そこは敢えてのスルーで対応したのだった。まぁ、少女としてもスサノオをとやかく言う割には、闘う事が苦手なワケではないし、どちらかと言えばそっちの方が性に合ってるのは確かだからだ。

 こうしてヘルモーズは少女に発破をかけられ、急いで少女に付いて走って行く。その表情は決意と不安が入り混じっており、どちらかと言えば後者が優勢かもしれない。

 だが、その一方でバルドルを助けたい気持ちに嘘偽りはなく、「皆で「アースガルズ」に帰る」と言う気持ちがはやっていた。



 走り出した少女と後を追うヘルモーズ、そんな少女は一回だけ振り返っていた。



「ちゃんと後を追っ掛けて来てよねッ!」


「「あぁ勿論だッ」」



「それじゃあ、ちゃっちゃとやられてくれるかい?オレサマを散々おもちゃにしてくれたあの女フレイヤを一発殴らないと気が済まないんでね」


「まさか貴殿ッ?!」


「へっ、アイツには秘密にしといてくれや。こっ恥ずかしくて死んじまったら困るだろ?」


 サリエルはスサノオの話しの内容から悟った。サリエルとしては知りたくも無かった事だったかもしれないが、それに拠ってスサノオという神族ガディアの心根が分かった気がしていた。



「全く人が……いや、悪い神族ガディアだな」

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