第73話 The little key you need to tune in to other people's opinions



「なぁ、おめぇには、分かるのか?」


「さぁ?アタシにそんなコトが分かるワケないじゃない。まっ、少なくともアタシが今までに行った事があるどの世界とも違うってコトしか分からないわね」

「だから、「人間界」「魔界」「神界」「冥界」以外の世界ってコトになるかしら?」


「おめぇ、どんだけ違う世界に行きまくってんだよ」


「それ以外の世界となると……想像も付きませんね。いや、待てよ……」


「ところでよ、この良く分からない世界から戻る手段はあんのかよ?消えちまったヤツら見付けても「神界」に帰れなかったらそれはそれで、そこんトコはどうなんだ?」


「て、テキトーに探せば手掛かりくらい、ある……うん、あるハズよッ!」


 流石に今まで異世界を渡り歩いた事のある少女と違い、見ず知らずの世界に来てしまった2人は明らかに動揺してると言える。よってその動揺は少女の肩を掴み揺さぶる事で解消されると思っていた様子だ。

 然しながら少女としてはでしかない。

 だからこそスサノオに対する返答は視線を逸らした上に曖昧であって、信頼性に欠けるものであったのは言わなくても伝わるだろう。



「まぁでもね、グリンブルスティが、このフワフワした世界にあるのは確かってコトよッ!それだけは保証してあげるわ」


 少女は話しながらもスサノオに視線を送っていた。そして視線を受け取ったスサノオもまたそれを理解していたのだ。



シャっ


「な、なんですか、一体?」


「そんなコト、言わなくても分かんだろうがッ!敵さんのお出迎えってヤツだ」


 スサノオは少女が言わんとしている事を理解した上で掴んでいた少女の肩を押した。小さい重力の為に押された少女との間の距離はみるみる内に広がり、その2人の間を刃が通り過ぎていったのである。



「ちっ、2人仲良く斬り裂かれればいいものを」


「あ、貴方はッ?!一体何をしているのか分かっているのですか、殿!」


「ヘルモーズ、分かっているさ。は「アルフヘイム」に押し入って来たぞくを討たんとしているのだからな」


「フレイ殿、一体如何が為されたと言うのだッ」


「アルフヘイム?でもま、いいわ。フレイさん、教えてもらえる?バルドル達は、「アースガルズ」の軍勢はどうしたの?」


 「明らかにバルドルに従軍していた時と違う」と思いながらも、情報を聞き出そうと紡ぐ少女に対して、フレイは盛大に殺気を放っていた。しかし残念なのは、そんなフレイを未だ信じている様子で、殺気にも気付かないヘルモーズだ。

 もしも安易にフレイに近付こうとすれば人質になる恐れや、そのまま斬り伏せられる可能性も高いと言わざるを得ず、警戒を解くなんてもっての外と言う以外何と言えるだろう。



「フレイ殿、皆がいなくなった間に「アースガルズ」は大変な事になっているのですぞッ!」


「えぇ全て知っているよ、ヘルモーズ。この度の件は「ロキ」が仕組んだ事なのだから」


 フレイのその一言で空気が変わった。ヘルモーズは怯えや怒りを露わにしながら後退り、フレイと距離を取ろうとしている。

 だが一方で、フレイの口角は上がり美男子イケメンの顔が歪んでいく。



「裏切ったのですか?我等が主神を!「アースガルズ」の皆をッ!」


「いやなぁに、「アースガルズ」が滅ぶのは明白だろう?だからは後々の為に「軍勢」を隠しただけさ。そんなに怒るなよ、ヘルモーズ。だがな、そっちの2人は違う」


「そっちの女は「ロキ」を滅ぼし、その結果「アースガルズ」に「神々の黄昏ラグナロク」を招く結果を生み出した張本人だ。そして、そっちの男はミョルニルを奪った張本人だったな?それに肩に担いでいるのが何よりの証拠じゃないかッ」


「このミョルニルは「ウトガルザ」から取り戻した物です。それを我等が主神に返しに行くとち――――ッ?!」


 ヘルモーズの弁解を途中で切ったのはスサノオだった。そして途中で言葉を切るハメになったヘルモーズは「何故?」とでも言いたそうな顔をスサノオに向けていた。



「そんくらいで、ヘルモーズ。元より、コイツからは変な「風」がにおってやがる。操られてやがんのか、それとも言ってるコトが本心なのかは知ったこっちゃねぇが、話し合いで解決出来る状況じゃねぇだろ、こりゃあよッ!」

「それにな手っ取り早く解決するにゃ、拳で語るのが一番だろッ!だからコイツはおめぇが持ってろヘルモーズ。大事なモンなら落とすなよッ」


 スサノオは担いでいたミョルニルをヘルモーズに投げると、自分は単騎でフレイに向かって特攻して行ったのだった。その様子を見ていた少女は何やら呆れた顔をしていた。


「はぁ……。相変わらずの戦闘狂バトルジャンキーね」



 スサノオは拳を握り、フレイ目掛けて拳を放つ。だがその「拳」はフレイに当たる事はなく、見えない壁のような物に阻まれたのだ。



「ぐッ。なにクソこのヤロウッ!」

「どぉうわああぁぁぁぁッりゃあッ。おりゃりゃりゃりゃりゃあッ」


ダダダダダダダダダダダダッ


「フッ無駄な事を」


ぴしッ / つつーーー


 スサノオは見えない壁に阻まれたが諦める事なく、先ずその壁に拳で語る。それは連打と言う語り口で次々に見舞われた語種かたりぐさであり、フレイはその様子を嘲笑を湛えながら見ていた。

 しかし、ガラスにヒビが入るような音が聞こえた後で、フレイの頬から一筋の赤い血が流れていくと、その嘲笑は驚愕へと変わっていく事しか出来なかったのだった。



「な、何だと?!ミョルニルの攻撃にも耐え得る壁を越えて、の美しい顔に傷……を?」


ぱりぃぃいいいぃぃぃん


「へっ、大した事はなかったな。じゃあ、これは遊び足りねぇ駄賃だ。受け取っとけ!おらよッ」


どごっ


「ぐはぁッ」


どさぁッ


「まだまだ終わらねぇぜ、美男子!そのツラ、見るも無惨に変形させてやんぜ」


 フレイはスサノオの鉄拳を浴び吹き飛ばされていった。そして、そのままスサノオは一足飛びでマウントを取ると、フレイの顔に対してその顔が変形する程の拳を浴びせていったのである。



「あらら、色男が台無しねぇ」


「あわわわわ、さ、流石にやり過ぎなのでは?おろおろ」


「ッ?!何か……来る。ナニ?このっごくイヤな感じ」


「ねぇ、オイタはそれくらいにして、その人をいい加減に返して欲しいなのですわ」


 そこにどこからともなく現れたのはフレイヤだった。フレイヤはその輝くばかりの美貌を湛えた顔に、妖艶な笑みを浮かべスサノオを見詰めていた。



「残念ながらオレサマにゃ、そんなチンケな術は効かねぇぞ」


「へぇ?わちきの魅力が分からないなんて、なんて無粋な人なのですわ」

「でもそれなら仕方ないのですわ」


 フレイヤは凄く残念そうにボヤくと、そのバストラインが丸わかりな薄衣うすぎぬをワザと肌蹴はだけさせ、そのたわわに実った豊満な胸元ワガママバストから1つの首飾りを取り出したのである。



魅惑光環フリーシンガメン、わちきの美しさを讃えさせるのですわ!」


「なッ、なん……だ……コ…………レ」


 フレイヤの装飾から放たれた光はスサノオを包み込み、直ぐにスサノオはフレイに馬乗りのまま微動だにしなくなった。拠ってそれが「完全なる魅了フリーシンガメン」の力に因りフレイヤの傀儡くぐつと成り果てた瞬間と言えるだろう。



「さぁ、お兄様を離すのですわ」


「ははっ美しき女性ヒト


「え?ス……サノ…………オ?ちょっと、どう言うコト?」


 少女は驚きのあまり言葉を失い、ヘルモーズもまたしかりだ。あからさまにスサノオは可怪しくなっているコトが一目瞭然でしかなく、そしてスサノオが敵に回るとなると現状で全く歯が立たないコトになり、それは絶望でしかない。



「さて、それでは新しく手に入った、わちきのペットの性能を見させて頂くなのですわ」

「うふふ♡細身のお兄様のカラダも好みなのですけど、逞しい筋肉も捨て難いのですわ♡♡あぁこの硬さ、わちきの胸に貼り付くようなこの逞しさ、腕も胸も足もこんなにカチカチでこれならきっと、わちきのコトを盛大に愉しませてくれるのですわ♡」

「うふふふふふ♡♡とぉっても楽しみ過ぎて今からでも淫らにイッてしまいそうになるのですわ♡あぁんッ♡♡胸をちょっと擦り付けただけでこんなに気持ちいいなんて……はぁはぁはぁっ、あぁん♡♡病み付きになりそうなのですわ。あぁっこっちもカチカチでとってもステキでイイ気持ちなのですわぁ、わちきの太腿を求めるようにこんなに硬くして、これじゃ止まらない止められない、わちきの淫らな声が漏れて、ああぁぁぁぁん♡♡♡いぃッ、イクのですわあぁぁぁッ♡♡♡」


 フレイヤは完全に堕ちたスサノオの強靭で屈強な身体に淫らに手を這わせ、白く透き通るような細い腕を蛇のように巻き付かせていく。さらに肌蹴はだけさせている上気して桃色に染まった、たわわな双丘をスサノオの立派な胸筋に押し付け上下させて摩擦を愉しむと、次は淫らな息を吐いて柔らかそうな肌触りの太腿ふとももをスサノオの頑強な脚と腰に巻き付け、その手をスサノオの身体に回して身体を前後上下に動かしていった。


 フレイヤはそのみだらな肢体したいで全身に快感を感じ取り、快楽を貪り淫らな喘ぎ声を上げていたのである。


 そして、一通り満足した様子になるとスサノオの耳元でそっとささやいたのだった。


「さぁ、わちきのペット、あの2人を捕まえるのですわ」




 少女はスサノオとフレイヤの絡みを見て、何も感じなかったワケではない。そしてこれが普段通り冷静であれば、顔を真っ赤にして耳までそれに応えていた事だろう。だが目の前で2人が絡み、フレイヤが快楽に身悶えている今は最大の好機チャンスであり、耳まで真っ赤にしている余裕などなかったのだった。

 いや、少なくとも少女には刺激が強過ぎたので多少は色付いていたが、そこは見ないのが花というヤツだ。


 まぁそんなコトはどうでもいいが、どうでも良くないのは敵になったスサノオは脅威でしかないと言う事だった。



 しかしこのどうしようもない現状の打開策は、少女の頭の中に閃いたのではなく、突如として響いた声に拠って齎されたのであった。



「急いでこっちへおいでー」


 こうして少女達はスサノオが動き出したのとほぼ同時に、声に導かれるまま迅速に行動したのである。

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