木下家 ―自分の部屋で―

 自室のドアの前に崩れるように座り込む。通学用カバンを下ろすこともなく、虚ろな瞳でぼんやりと部屋を眺め、思考を巡らせる。

 ダメだ。こんなんじゃダメだ。

 『あの人』は好い人なのに……。なのに、怖い。対面する度に足元から恐怖が這い上がってくる。それでも、『ただいま』と『行ってきます』が言えるようになった。自分にとっては大きな進歩だ。


「ごめんなさい……」


 顔を埋め、ミノリは言い放つ。

 『お母さん』と言えなくてごめんなさい、友紀さん。




 

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る