第74話 魔竜飛び立つ

 気絶している魔竜バフルート。

 満足げな笑みを浮かべる彼を巡って、どうする? という話題が盛り上がった。


「こんな恐ろしい竜は殺すべきだ! こいつがずっと世界の空に君臨していたせいで……せいで……」


 何か訴えかけた騎士がモゴモゴした。


「特にないだろ」


 俺の言葉に、騎士が頷いた。


「そう言えば人間は飛ばないですしねえ……。特に困ることはない」


「な? 何かでかいのが飛んでて、空飛ぶモンスターを捕食してくれてただけだろう」


「確かに……」


 義勇騎士団、深く頷く。

 魔竜バフルート、人間には特に害のあることをしてない……!


「ちなみに竜騎士はバフルートが戯れに人間の女と子を残した子孫だから、俺からすると金稼ぎの手段をくれたという意味で恩義はある」


 アベルがいきなりぶっ込んできたな!

 そんなドラマチックなストーリーがあるのに、普通にバフルートを殴ってたじゃん。

 それにその力を普通に金儲けにしか使ってない辺りが凄いな、こいつ。


 意味ありげな生き方をしている男なのに、特にバックボーンとか無いのが凄い。

 多分、これまで俺が見てきたアベルが、アベルという男の全てだろう。


 義勇騎士団が納得したら、バフルートをどうこうする理由はない。

 まだおっかなびっくりな騎士団は遠巻きに、俺達はバフルートの頭の横で、お疲れ様会をすることになった。


「おお……みんな、よくこんなところで飲み食いできるなあ……」


 召喚士達が持っていた酒や食べ物を一気に消費して、大いに盛り上がるお疲れ様会。

 トニーは横にあるバフルートの顔に、まだビクビクしている。


「大丈夫じゃない? 最後は魔竜バフルートもずっとニコニコしてたし」


「ニコニコしてた!?」


 トニーはいい反応をするな。


「つまりな」


 食事に夢中なエリカは喋る余裕がないので、俺が口を開いた。


「バフルートはどうやら、この世界から外に飛び立とうとしてたようだ。それで、この世界に敵がいなくて虚しい気持ちだったら、俺らが現れてこいつをボコった」


「えっ、倒されて満足するなんてのがあるのか!?」


「ある。こいつ」


 バフルートを指さしたら、騎士団がどよめいた。

 なんだなんだ。

 俺の話にそこまで感銘を受けたのか。


 ……と思ったらそうじゃなかった。

 フォンテインナイツの背後で、ゆっくりとバフルートが立ち上がるところだったのだ。


『おお……こんなにボコボコにされたのは久々だ。我がまだ幼竜であった頃……貴様ら人の単位なら、五千年ほどか。いや、久々に負けた……! 楽しかった!』


 バフルートはあぐらをかくと、ゲラゲラと笑った。

 こいつが笑うと地面が揺れる。


「こらーっ! 今スープ飲んでるんだぞ!!」


 エリカが怒った!


『わっはっはっは! すまんすまん! 我を倒した貴様らは誇っていい。我はここで倒されねば、己が無敵だと驕ったままで宇宙へと旅立つどころであった。そのままならば我は、もっと強大な存在に突き当たった時、己の分を知ることもなく無様に死んでいたことだろう。だが! 世の中にはまだまだ強い者がいる! それを思い出す事ができた! いやあ、愉快愉快!』


「また笑ったー!!」


 スープがこぼれたエリカがプンプンだ。

 これで、義勇騎士団も笑った。

 すっかりいい雰囲気になってしまっている。


『我の角を折ったであろう。これを、ベヒーモスの角と合わせるがいい。竜の角は魔力の塊よ。我の同意があれば容易に加工ができる。そして、角に祈れ。ただ一度きり、我が飛来して貴様らに手を貸そう』


 おっ、それってバフルートを召喚できるってこと?

 一度だけなら便利だな。


「そうか! じゃあもらっとく! 多分、次で最後だもんな」


「エリカも気付いたか。フォンテイン伝説の最後は、風車の魔王との対決だ」


 俺達は頷きあった。

 フォンテイン伝説を全部終わらせる。

 それで、エリカを縛ってるものは全部なくなるだろう。


 いやあ、思えば長い道のりだった……気もするし、あっという間だった気もする。


「俺はもうごめんだあ……。俺は凄い狩人だと思ってたけど、こんな冒険してたら身が持たねえ……」


 おっ、狩人ゴメスの心が折れている。

 真の仲間ではなかったか……!


『では、我はそろそろ飛び立つとしよう。これ以上いたら未練ができる。ふてくされてこの星を後にしなくてよい。感謝するぞ!』


 バフルートはそう告げ、翼を開いた。

 魔竜の巨体が舞い上がっていく。


 ここで彼が旅立ったから、俺達の時代の空は自由だったのだ。

 まあ、空を飛ぶモンスターがもりもり増えてしまったけどな。


「トニー、また栄誉が増えてしまったな」


 トニーの肩を叩いたら、彼はあまり顔色がよろしくない。


「あのさ……。オレ、どんどん英雄みたいに祭り上げられて行ってるんだけど、明らかに実力と見合ってないわけじゃん……。本当の大丈夫かって不安になるんだよ」


「次がラストだ。そこで身を隠すことにしよう」


「え? ラストってどういう……」


 俺の言葉を、トニーの後ろにいたレーナは理解したようだ。

 ウインクを返してきた。


 レーナがいれば何も問題ないだろう。

 トニーのサポートを頼むぞ。

 二人がいないと、エリカは生まれてこないのだ。


 ということで、俺達はフォンテイン・レジェンド号に乗り込むのだ。


 飛び立ち、タイムリープで元の時代に戻る。

 そして、フォンテイン伝説最後の逸話に向けて、気合を入れるのだ。


(第四章 おわり)

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