第71話 魔竜、召喚士、大混戦

 バフルートを挑発するように、ぶいーんと飛び上がった俺達フォンテインナイツ。

 後からは、義勇騎士団も追いかけてくる。


 今回は、馬を調達できた連中も多かったそうで、ゆっくり飛ぶ飛空艇にほどよく追いついてきた。


「なんだって召喚士がいきなり出てきて、風車の騎士と手を結んで、ゴブリン王国を襲ったんだ」


『襲ったのはジャガラの入れ知恵だ。あれでゴブリン王国を弱くして、ジャガラはあの国に入り込もうとしてるんだ』


 風水士が怒りを込めて呟く。

 君とジャガラとの因縁が解決するのは五十年後だからなあ……。


「うん、そうね。召喚士っていうのは実はありふれた職業なの」


「ありふれてる!?」


 未来から来たフォンテインナイツの面々が驚愕した。

 召喚士なんて、見たことはない。

 昔話で聞いたくらいだ。


 レーナは俺達の反応を見て、ピンと来たみたいだった。


「つまり、未来では召喚士はいなくなってるのね。納得。多分、今回の冒険で召喚士は全滅するんだと思うわ。彼ら、もともとは小さい生き物を呼び出して大道芸をするような一団なの。失われた古代の魔術を使うとかでね。だけど、その知識も技術もどんどん失われてきてしまって、大昔なら巨大なモンスターを呼べたのに、今は小動物がせいぜい」


「ほうほう」


 召喚士達は、内心でずっと悔しく思っていたのだろう。

 そこへ土の秘宝、その欠片を持った風車の騎士が声を掛けた。


 召喚士達は土の秘宝で力を得て、まずはジャガラの要請に応じてゴブリン王国を襲ったと。

 今までは大道芸人でしかなかった彼らが、何かの大義のために強大な召喚の力を振るう……!


 凄い達成感だっただろうなあ。


「ええ。だから、召喚士達はもう正気じゃないんじゃない? 僕の専門は今あるものを調べたり、過去の知識を参照することで、人の心の中を想像することじゃないけど……それでも想像できちゃうでしょ」


「これが人間に矛先を向けたら大変だ」


 トニーが憤る。


「俺達で止めよう!」


「よし、止めよう!」


 エリカが乗った!


「よし、止めよう」


「お二人が言うなら止めようでござる」


「金は出ないんだろう? なに、義勇騎士団から出る? よし、止めよう」


 ホムラとアベルも加わった。

 風水士少年はもとから、やる気満々である。


 ということで、フォンテインナイツは義勇騎士団を率いて、召喚士達を追跡。

 すると、魔竜バフルートのお尻が見えてきた。

 地上に向かって炎を吐いたり、周囲に群がる鳥みたいなのを叩き落としたりしているな。


「あれはなんだろう」


 エリカが疑問を口にしたら、横に並んだレーナが双眼鏡を取り出した。


「バフルートが召喚士達と戦っているようね。ズーを呼び出したのを見て、召喚士に目をつけたんだと思うわ。バフルートは自分以外に空を飛ぶ者を許さないから。もっとも、彼ったら小さい鳥なんかは見逃してしまうそうだけど」


 後は、興味深いものは観察にとどめて見逃すようだ。

 以前に俺達が乗った、小型飛空艇とかな。


「よし、突撃!!」


 トニーが号令を出した。

 ウオーっと応える義勇騎士団。

 槍を構えて、召喚士達に向けて飛び込んでいくのだ。


 迎撃するのは、召喚されたモンスター軍団。


「とんでもねえところに連れてこられちまった……!」


 ゴメスがブツブツ言いながら、義勇騎士団の援護を始めた。

 巻き込んでしまった形だが、ちゃんと仕事をするのは偉い。


 ホムラはモンスター軍団を眺めながら、ふーむ、と唸った。


「これ、また炸裂弾を落とせばいいのではないでござるか? まだ何発か残ってるでござる」


「まだ持ってたのか」


「さよう! ツアーッ!」


 義勇騎士団と接触する前に、モンスター軍団へと炸裂弾が叩き込まれた。

 おっ、35回ヒットした。

 つまり、炸裂弾による爆発が35回起こったということである。


 いきなりモンスター軍団の前衛が壊滅した。


「ウワーッいきなりモンスターが減った!」


「これがフォンテインナイツの力か!」


「俺達にフォンテインの加護あり! 行くぞー!」


 おお、士気が上がってる。

 対する召喚士達は、モンスター軍団の一角が謎の爆発で消えたので動揺したようだ。

 真正面から義勇騎士団の突撃を受けて、次々に討ち取られている。


 さて、こちらは魔竜側へ行こう。


 スイーっとフォンテイン・レジェンド号が飛翔し、当たり前みたいな風にバフルートの横に並ぶ。

 バフルートが、『!?』という顔をした。


 そりゃあ驚くよな。

 俺だって驚く。


 しかも攻撃してくるわけではなく、突然隣にいるんだ。


『音を消して忍び寄ったか。我を後ろから攻撃することもできたであろう。正面からこの魔竜とやり合うつもりか?』


「結構よく喋るなこの魔竜」


『我はちょっとカチンと来たぞ。焼き尽くすぞ。メガ・インフェルノ!』


 俺のツッコミに怒ったバフルートが、例の凄い炎を発生させた。

 これはなかなかヤバいな、と思った矢先。

 俺に備わっていたあの技が発動したのである。


『カウンターメテオ』


 放たれた炎の塊に、空に出現した岩石群が落下、衝突して相殺だ。


『!?』


「!?」


 突如大空から響き渡った、インフェルノとメテオの炸裂音。

 誰もが戦いを止めて、空を見上げた。


 バフルートもポカーンとしている。


『今のは、キングベヒーモスの技か。あやつ、まだ生きておったのか』


「いや、俺がベヒーモスと戦った時にラーニングした技だ。キングベヒーモスは卵になって地下世界にいるらしいぞ」


『なるほどな。ではなぜ貴様がその技を使える。ラーニングとはなんだ』


「俺にも分からんが、俺は一度食らった技を覚えることができるのだ……」


『なんだそれは。よく分からん人間だが、貴様が無礼なことに変わりはない。ここで叩き潰してくれよう』


 魔竜との戦闘開始なのだ。

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